初パーティ配信後
帰り道もそれなりに魔物が現れたが、そこはエレナがきっちりと処理をしていたため、ユウは余計な体力を消費することなくダンジョンを出ることができた。
「あっ、ユウくん、背中……少し拭きますよ」
「え、あぁ、ありがとうございます。これ、水とタオルなので使ってください」
「はいっ」
解散前、ユウの背中の惨状に改めて罪悪感が込み上げてきたエレナはせめて清拭くらいは、と申し出る。
――背中まじでやべーっすね
――【協会公式】解散後、協会までお願いします。すぐに治療しますので
――これ拭いたりしないほうがよくね?
――↑かえって痛みが強くなるかも
――見てるだけで背中痛くなる
――まじにグロ注意やんね
――タオルが真っ赤に染まるぅ……
「ふ、拭きますね」
「はーい……う゛ッい゛ヅ……ふぅぅううう」
「ふぁ、大丈夫ですか? 痛いですよね……」
「変な声出してすみません、大丈夫なので……もう少しお願いします。出血は止まってると思うので、乾いた血を拭き取ってもらえれば助かります」
「わかりましたっ」
――あかん、ユウくんの痛がる声たまらん
――↑新鮮だよね、わかりみ
――エレナGJ
――てめぇら不謹慎やぞ
――↑お? 賢者タイムですかぁ???
――とりあえず音声班よろぴく
その後数分に渡って、エレナによる清拭からのユウの悶える声コンボが垂れ流された。
「だいぶ血は拭き取れました。傷はかなり残ってますけど……」
「ありがとうございます。傷は治療でどうにでもなるので気にしなくていいですよ。さて、協会に行きますか」
「ふぇ? ここで解散じゃないんですか?」
「うーん、さすがにこのブラックウルフを運ぶのはしんどいかなって……手伝ってもらえると助かるんですけど、厳しかったですか?」
「いえ! やらせてください!」
――えらい
――これでユウくんおいて帰ってたらフルボッコだったゾ
――いい子
――良い子
――待って、配信終わる流れ? 終わったらもうそれはデートやんけ!
――↑!!??
「ん、そしたら一旦配信は終わるね〜。また早めに配信するから! お疲れ様。またね〜」
――い〜やぁ〜だぁ〜!!!
――乙乙
――おつかれさまー
――ゆっくり休んでねぇ
――おっつー
――またね! 気をつけて!
同接数がまだ伸び続けていたため、名残惜しい気持ちはあるが、スフィアの接続を切る。
「とりあえず本部じゃなくて調布支部に行きましょう。そこで解散ってことで」
「はいっ」
その後、研究資料としてブラックウルフの死骸を協会支部へ引き渡し、二人は解散した。
ユウは背中の治療と今日の報告があるため、このまま協会本部へ向かうこととなる。
「本当に、本当に今日はありがとうございました!」
「こちらこそ。ゆっくり休んでくださいね。では、また機会があれば」
ユウを見送るエレナの目は完全にハートになっていた。結果的に今回のパーティ活動によって、彼女はガチ恋勢に昇格してしまったわけだ。
「んんん〜♡ユウくん、全部、だいしゅきです♡ううん、あいしてましゅ♡」
こればかりは今回の出来事を考えれば無理もないだろう。生声で脳を破壊され、体を張って守ってもらって……うん、仕方ない。
蛇足かもしれないが、この日を境にエレナはユウの声によって尿意を催す体質となったとか。
◇◇◇
ユウは現在、協会の治療室で背中の治療を受けている。
「キシド君、だいぶやらかしたね。かなり痛かっただろう?」
「そうですね。変な声が出るくらいには痛かったです。ここまでの痛みは本当に久々で」
「そうか……よく耐えたと思うよ。傷跡は残らないように治療できそうだからもう少し待っててね」
「はい。よろしくお願いします」
治療師の男性と雑談をしながら治療が進んでいく。普段であれば真っ先にアイナへ報告しに行くのだが、今回はそのような余裕がないくらいには背中の激痛にやられていた。
「うん、これで大丈夫。綺麗になったよ」
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「ははっ、これが僕の仕事だからね。怪我なんてしないのが一番だけど、また何かあればいつでもおいでよ」
「はい。では、失礼します」
治療はおおよそ二時間程度で終了した。次はアイナへの報告をしなければならない。
ユウはすぐに受付に取り次いでもらい、応接室Bへと向かう。
「アイナさん、お疲れ様ですー」
「お疲れ様。そこにかけてくれ」
「はーい」
早速本題へと入り、調布B2ダンジョンの報告をする。
未探索領域にはそれなりに魔石などの素材があったこと。
イレギュラーかはわからないが、念のためゲートボスであるブラックウルフの死骸を調布支部に提出したこと。
調布B2はダンジョンランクの格上げを検討すべきでは、ということ。
「なるほどね。まだ浅草B7も調査中だから、すぐに調布B2の調査となると悩ましいな……」
「そうですよね。ただ、今回処理したゲート前までは間違いなくBランクレベルの魔物しか出ませんでした。ゲートの奥が問題なんですよねー」
「うむ……調布B2も一時的にAランクのみの入場制限をかける方向で動いてみるよ。それにしても、どんどん怪しいダンジョンが増えていくね」
「はい。あまり未探索領域は踏み込まない方がいいんじゃないかって思い始めるくらいには……」
これはユウの本音である。3Kである未探索領域の調査に嫌気が差したわけではない。
通説として、未処理ゲートの奥にいる魔物は探索済みの領域には現れないというものがある。
これに従うならば、余計な調査を進めなければ現状維持で安泰なのでは、というわけだ。
彼は周囲に迷惑をかけてまで自己承認欲求を満たすことに全振りできるほどまだ狂ってはいないようである。
「そんなことはないさ。ダンジョンは未解明な部分が多すぎる。だからこそ調査は必須なんだ。私たちはキシド君に大いに助けられているんだよ」
「そのせいで協会もバタバタじゃないですかー。ある意味では俺が連続ではずれくじを引いたって感じなんでしょうけど……」
これは怪しいものも含むイレギュラー案件を短期間に重ねて引いたことだ。
いくら何でも不運としか言いようがない。
「はずれくじか。たしかにそういった面はあると思うよ。ただ、いつまでもそのままってわけにもならないだろうし、いつかは必ず表沙汰になることだからね。タイミングの問題だよ。君が責任を感じるようなことは何一つないさ」
「……ありがとうございます」
「何にせよ思い悩む必要はないからね。報告を元に悩むのは私たちだ。うちのアタッカーにはなるべく不自由をして欲しくないから。キシド君は根詰め過ぎているのかもしれないよ。今はとにかく疲労をとるのに休むといい」
「そうですね。少し頭を冷やしてみます。では、失礼しました」
「あぁ。これからも気にせず好きに活動してくれると私も嬉しいよ。今日は本当にお疲れ様」
こうしてアイナへの報告を終わらせ、少し思うところを吐き出せたおかげもあってか、ユウの帰り際の表情は少し明るくなっていた。
「さて、始めるとするか……」
まともな上司ムーブをかましたあとは、いつものようにナニを始める。
今日のオカズは先ほどの少し思い悩んでいたユウだ。あまり見ることない一面なので、とても捗ると確信していた。
「辛いなら私の胸で癒してやるぞ……♡ユウ、ユウ……ほら、おいで♡本当に君は可愛いなぁ♡よちよち♡♡」
ここまでくると更生の余地はないだろう。アイナにとってはユウの何もかもがオカズとなってしまう。
せめてもの救いは彼に直接襲いかからないことくらいだろうか。
ちなみに今日のアイナタイムはいつもより数分長かった。それだけ色々と捗ったということだ。
◇◇◇
「はぁ……はぁぁ♡はやく、シないと♡」
エレナは帰宅後、お漏らしをしていたためすぐにシャワーへと向かい、そのままおっ始めていた。
「また、会えるかな……ううん、会えないなら会いにいくもん♡はぁ、らぶ♡♡」
ユウへの接近禁止令などガチ恋勢からしてみれば障害になどならない。彼に近づけるのであればアタッカーの地位など捨てるつもりでいる。
どうしてアタッカーの地位を捨てることで、より彼が遠い存在になることが想像できないのだろうか。
「どうすればボクだけ見てくれるんだろうなぁ……もぉ既成事実を作るしかないのかなぁ……はぁ♡んッ! だめ、また、漏れちゃぅ♡」
何やら不穏なことを考えているようだ。並行して当然のように放尿オナニーをしていることには改めて狂気性を感じざるを得ない。
「はぁ、はぁ……ユウくんの全部がほしいよぉおおおお!!! あ゛あ゛ぁ゛ぁぁ!!! ボクだけの!!! ユウくん゛んんん! あ゛イジてる゛よお゛ぉぉ!!!」
絶叫しながら絶頂をしたところでエレナはやっと正気に戻る。
「はわぁ……やばっ……のぼせる前にあがらないと……」
今日ここに放尿系ストーカー予備軍が誕生した。
◇◇◇
ユウは帰宅してから少し睡眠をとっていた。
「んあぁ。もう暗くなっちゃったか……あ、ご飯にしよーっと」
寝ることで大抵のことは解決する、なんて言葉があるように、彼はかなりリフレッシュできたようだ。
アイナの上司ムーブによる慰めも効果があったのかもしれない。
「ライブ配信は……したいよなぁ。てか、するぞ」
すでに彼の気持ちはライブ配信へと向いており、気持ちの切り替えは完了している。
『ご飯とか食べて落ち着いたら少しライブ配信するかもだから、見に来てね〜! 背中も綺麗に治ったよ!』
息を吐くように事前告知をし、そそくさと動き始めた。
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