???

散って咲いて散って




 白く鋭く空を切り裂く三本の爪が、たちまち黒混じりの濁った汚い、子供のラクガキのような乱れた線に早変わりする。

 散っていった仲間たちの煙だ。


『撃墜されました! パイロットの応答は……誰からもありません……』


 管制塔からの震えた無線が鼓膜を侵す。二度も同じことをされたらこの機も危うい。

 一人残されたパイロットは、動揺を抑えつけて直ちに針路を変えた。


 白い悪魔は全身に浴びた対地ミサイルを歯牙にもかけず、谷底からつるりとした面を向けている。

 目がないのに、標的にされたのが分かる。

 あの槍からは逃げられない。




 ○ ○ ○




 2000~2100年代は複数の国対国の大戦が相次いだ。


 異常気象による干ばつや水害、作物の高騰に資源の奪い合い、飢饉が各地で相次ぎ、資源の乏しい国は加工業やサービス業で外貨を獲得することもままならず、周辺強国の属国に成り下がる他生き延びる手立てはなかった。


 そんな中ラプセルの神樹による永久機関は他国の羨望の的であり、それ以上に憎悪の的だった。

 世界はラプセルに媚びへつらい庇護を得ようとする弱小国家と、神樹ごとラプセルの領土を奪い取りたい列強に二分された。


 中でも一際苛烈な態度をとったのがトイヒクメルクだった。


 ラプセルは全人類が共有すべき資源を不当に独占し、神の名を汚している。

 全世界で巻き起こっている食糧問題も、ラプセルが大国としての義務を果たし積極的に支援に動いていればどれだけ緩和されたことか。

 ラプセルは責務を果たすどころか資源を餌に各国を脅迫し、不当に制圧している。

 この不均衡から虐げられた国々を解放し、世界中が平等で対等な関係を築き上げ、問題を一丸となって解決できるようにすることがトイヒクメルクの使命である。



 それが実質宣戦布告となった。




 ○ ○ ○




 敵国本土への少数部隊による正面突撃。

 死にに来たも同然、最初はトイヒクメルクの兵士に同情すらした。


 それが海軍の警戒網を単機で壊滅させた、艦隊補給基地が破壊された、と次々に続報が流れてきて空気は一変した。


 転送された映像データに映っていたのは白いロボットだった。

 高層ビルほどの巨体が槍のような先の尖った得物を抱え、砲撃をものともせず真正面から突っ込んでくる。

 槍が巻き起こす衝撃の津波に砲撃の白煙がかき消され、そこで映像は途絶えた。


 それは海を駆け、陸地に踏み入ると戦車を次から次へと踏み潰し、ミサイルをドッジボールの球のように平然と受け止めて投げ返した。


 そして槍の先から出る光が、空にいようが海中にいようが、あらゆるラプセルの障壁を焼き払う。



 全身が熱い。あの光が迫ってくるのを感じる。


 せめてあの槍がクソ上官を引き裂いてくれるところを最後に夢見ようと思ったが、出てきたのは今操縦桿を握っている自分の右手が破裂して、欠片の一つ一つがポップコーンと化して弾ける空想だった。

 パイロットは手に力が入らない。


 神よ、お助けください──。



 死を覚悟したパイロットが目をつむったそのとき、来たのは身体を引き裂く光線ではなく鈍い衝撃音だった。


 とっさに針路を転換し、後方を確認する。


 いったい何が起きたのか、さっきまで白かった巨体が黒焦げになり、胸に当たる部分がひび割れている。



 胸のあたりが矩形に崩れ落ち、中からちょうど大人が一人入れるぐらいのカプセルが現れた。

 カプセルは何本ものケーブルで巨体と繋がれており、零れ落ちないようにしっかりと繋ぎ止められている。


 どこからともなく声が聞こえてきて、パイロットの背筋は震えた。

 はるか上空のパイロットには聞き取れなかったが、その声は確かに、カプセルの中から発信されていた。



「その目に、焼き付けろ、ラプセル……これが、我々の……答えだ……」




 人間の可能性を超最大限に引き出す、非人道兵器バロルクと、人智を超えた神の遺物を人の手で可能な限り模倣した、超細密兵器フラルの初出だった。



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