ラプセル歴史編

フラルの授業



 小学校の理科室。

 中年の女性教師がおっとりとした声で、小学三年生の児童たちに語りかけている。


 昨日皆でやった電気の実験の復習だ。豆電球と乾電池を導線で繋げて、繋げ方によって電球がついたりつかなかったりを確かめる。


「昨日は電気を使うには電流という流れが必要なこと、それから電気を通すものと通さないものについて実験して勉強しましたね。では、今日はフラルの実験です。フラルも電気と一緒で私たちの生活に欠かせない道具ですが、あのお花たちはいったいどうやって咲いているのでしょう? 今から各班に二つずつ観察用のフラルとアムリタのセットを渡します。乱暴に扱って壊したりしないように」


 子供の手のひらサイズの透明なケースと液瓶、それと豆電球が配られていく。

 ケースの中も瓶の中の液体も、ところどころ何かがきらりと光っているように見えるがその正体は定かではない。


「このケースの中には人間の目では見えない量のフラルが入っています。ケースに豆電球を繋げてから、中にアムリタを垂らしてみましょう」


 ケースの蓋は二重蓋になっていて、子供が勝手にフラルを触れないようにできている。

 ケースの中にアムリタが注がれると、途端に中に小さな花や葉っぱが幾つも現れた。花が一つ咲く度に光が走り、萎んだと思ったらまた別の花が次々と咲く。


「アムリタを流してあげると電気がつきましたね~。では今度はケースの横にあるスイッチを、二人で一つずつ押してみてください。フラルは操作する人の意志の影響によって、色や形を変えることが出来ます。皆それぞれどうなるでしょう?」


 生徒たちがスイッチを押すと、ただの白い花だったケースの中のフラルが色を変えていった。青白い花は豆電球を青白く、赤い花は豆電球を赤く光らせる。


「わあぁ……」

「今回は実験用のフラルですから変化の幅は小さいですが、それでも皆それぞれ違いますね。大人の人たちがフラルをいろんなものに変化できているのは、一生懸命訓練をしているからなんですね」


「んー? そのへんの水道水と味変わんねーなー」

「先生ー。トパリラくんがアムリタ飲んじゃいましたー」

「こらっ、トパリラくん。ダメですよ、実験道具を粗末に扱っては。それに、あなたたちがアムリタを飲んでもまだ体内にフラルがないから意味はありません。あなたたち子供は毎日骨や筋肉がぐんぐん成長して、身体が大きくなる大切な時期です。将来自分からどんなフラルが出てくるかは、フラルが身体の成長を妨げないようになる十六歳になるまでのお楽しみです」


「先生、どうしてリリカ様はまだ子供なのにフラルが使えるんですか?」

「さあ……偉い先生たちもたくさん研究しているようだけど、まだ誰も分からないみたい。そういえば、昔の人の中には突然変異といって、突然身体から電気や炎が出せる人がごくまれに現れたらしいです。電気や炎それにフラルも元々は私たちの身体と同じで、神がお造りになられた物質です。人間が神樹からフラルを授かったように、リリカ様のお身体も他とは違う方法でフラルを見つけたのかもしれませんね」



 そこで終業を告げるチャイムが鳴り出した。

 窓の外で校庭の糸杉が揺れて、炎のように一つ一つの枝がうねった。



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