竹平家の秘密

@s_k_y

第1話 妹

「消さないと、消さないと。。」

何が?

今何時なのだろう、木々の葉が擦れ合う音と虫の声も聴こえる。弥生さんの家の前に大きな欅の木が在って、車庫の屋根を超えて巨木に成長していた。私はうっすら目を開けると、隣で寝ていたはずの妹が、天井から吊られている四角い木の枠で囲われた電気笠を揺らしながら、つま先立ちでそこから垂れ下がっている生成色の紐を、ぐずんぐずんと引っ張っている姿を見ていた。

まただ。。

妹と私は年子で産まれた。私の幼い頃は見た目が祖母にそっくりだったが、妹は祖父に体型がそっくりで、目が小さくずんぐりむっくりしていた。今はこんな事を言うと差別主義だと叩かれそうだが、まるで違う人種の様だった。それでもやっぱり妹は可愛くて、私なりに可愛がっていたつもりだった。

私や妹の掛け布団は、千代さんが襟足に手拭いや貰い物の新しいタオルをカバーにして手縫いで付けてくれていた。その重い掛け布団を剥いで、怠いけど起き上がった。

「何してるの?」

「消すの、消すの。」

「止めなさい、寝なさい!早く、止めなさい!」

一緒の部屋で寝ていた祖母の姉の弥生さんが、暗闇で日に焼けて余計に黒く見えるぷよぷよした妹の腕を掴む。

「電気は、消えているでしょ、まったく。」

まだぶつぶつ言っている。

大きな緑色の蚊帳が天井から掛けられていた。

「やだ、鼻血!」

妹が鼻血を出した。

弥生さんは枕元に置いてあるティッシュを何枚も抜き取り、小さな妹の顔に被せて、よぼよぼのごつごつした手で抑えた。

はぁ。。

毎晩の様に妹は夜寝床に付いてから、夜中に起きる。正しくは、本人は奇行をまったく覚えてはいないので、普通に寝ていると思っている。起きている自覚が無いのだ。昔はこういう奇行を夢遊病とよんでいた。


道路を挟んで、両隣に家があった。夜、寝る時は、弥生さんの家の二階で眠る。年子の妹は幼い頃は、たまに私によばれて弥生さん宅へ来ていたが、やれ、麻疹が移る、扁桃炎が移る、と、やんややんや言われ、弥生さん宅に出向くのを止められるのだったが、そこは、弥生さんの妹の千代さんが良しとし、私はめでたく妹と眠る事が出来る。

だが、小学生にもなると、毎晩の様に妹の夢遊病に悩まされる様になり、一緒に眠るのもどうかと思うようになる。


そんな妹が、二十年後、私に告白した当時の夢の内容に背筋が凍るのだった。



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