第6話

 株式会社スケープゴート。特殊なサービスを提供する非営利企業である。

 スケープゴートが提供している特殊なサービスとは、『身代わりサービス』と呼ばれるものである。

 『身代わりサービス』とは、「誰かから命を狙われている」「病気で死にそうだ」等という自分の命が危険な状況にある場合に、スケープゴートが提供する身代わりを立てることで、依頼者の命を守るためのサービスである。そして、その身代わりには、本物の人間が使われる。

 命を守ってもらう依頼者の対価は、金銭ではなく、身代わりとなる人間の願いを叶えること。

 しかし、その願いが実現されない、または実現されなかった場合、契約不履行とみなし、依頼者はその命を落とすことになる。 

 一方で、その身代わりとなる人間についてだが、スケープゴートは一体どこからどうやってそういった人間を獲得してくるのか?

 まず、スケープゴートが提供する身代わりは、スケープゴートの社員に他ならない。つまり、スケープゴートの『身代わりサービス』は、社員を犠牲にして成り立っているということだ。

 これを聞くと随分ひどい会社だと思われるだろうが、身代わりとなる人間がそもそも死を希望しているとしたら、また話は違ってくる。

 そう、身代わりとなる人間は、そのすべてが自ら死にたいと思っている人間なのである。

 スケープゴートはそうした人材を日々探しスカウトすることで、『身代わりサービス』の提供を続けている。

 しかし、そうした事情から、スケープゴートの継続就業率(一年前も現在と同じ勤め先(企業)に就業している者の割合)が3%以上になったことは未だかつてない。

 一応、その理由を述べると、『身代わりサービス』により、そのほとんどが数日~数ヶ月、ないし一年以内に命を落とすことが挙げられる。3%という数字に含まれているのは、社長と『身代わりサービス』に間接的に関わる一部社員数人に他ならない。彼らは主に命を落としていく社員や依頼者の対応等を行っている。

 まあ、以上のことは、社員の殉職が前提のサービスである以上、しょうがないことである。 

 こんな突拍子もない事業を掲げるスケープゴートだが、その願いはひとえに「死を希望する人々が、死を選ばなくても済むような世の中を作り上げること」である。

 一見、死にたい人間に死場所を提供している会社として、言ってることとやってることの辻褄が合わないと思われる方も多いだろう。しかし、その真意は、身代わりとなる人間の願いを叶えさせることで、寿命を迎えず死を選ぶという悲しい選択をする機会を選択させないような世の中を作り上げて欲しいと、『身代わりサービス』を利用する人々にその願いを託しているということだ。つまり、「死」ではなく「生」を希望する依頼者に、「死」が選択されない世の中の構築を、逆に依頼しているのである。 そのため、依頼者にとっては、時には金銭以上の対価を支払わなければならないこともあるということだ。それぐらい、真剣で重いサービスでもある。 

 スケープゴート社員一同は、以上のことをしっかり胸に刻み、「生者と死者の架け橋」として、毎日命がけで社会に貢献しているのである。

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