面接
第5話
病院から電車を乗り継いで30分ほどの距離にある都市。
平日の昼間という時間でありながら、駅の改札は多くの人でごった返していた。駅前には商業施設が立ち並び、外国人観光客の姿もちらほら見られた。
しかし、一旦路地を抜けると、途端に景色が閑静な住宅街に変わる。戸建ても何軒かあったが、マンションの方が多く建っている印象だ。
奏太は、その一角にひっそりとたたずむ五階建ての雑居ビルの前に来ていた。
ところどころヒビが入った壁や日焼けして赤茶けてしまったのであろう外壁からは、随分と年季が入っていることがうかがえた。
手垢のついた重たいガラス扉を開き、中に足を踏み入れる。狭いエントランスの天井には切れかかった電気がチカチカと点滅を繰り返しており、一つしかない小さな窓から差し込むかすかな光だけが頼りだった。
奏太は壁にあるフロア案内板の目の前に立つ。二階に本日の目当てを見つける。そしてエレベーターに乗ろうとするも、押ボタン部分に貼られている故障中の貼り紙に気づき、しょうがなく階段を登り始める。
二階まで上がったすぐのところで「株式会社スケープゴート」という表札と開け放たれた扉を見つけた。奏太が早速インターホンを押し名乗ると、すぐに背の高い男性が出迎えてくれた。そしてそのまま長机と長椅子がある簡素な部屋に通された。部屋にはカラフルな色合いの花瓶の絵画が一つ飾られているだけだった。
奏太は緊張しつつも進められた席に腰を下ろし背筋を正す。久しぶりに締めたネクタイが苦しい。早く緩めたい衝動に駆られるが、今日はそんなことは許されない。固い装いにすでに
「本日はお忙しいところお時間頂きありがとうございます。この度、御社の採用面接を受けさせて頂きます夏川奏太です。よろしくお願い致します」
奏太は目の前の席に座った、さっき出迎えてくれた男性に挨拶した。
見た感じ三、四十代ぐらいだろうか? 清潔感のあるさっぱりしたツーブロックの髪型は、糊の効いた紺色のスーツとよく似合っている。優しげな眼差しからは親しみやすさが感じられ、緊張していた気持ちが少しやわらいでいくようだった。
男性は笑顔を浮かべながら、奏太に応える。
「こちらこそこの度は弊社への応募ありがとうございました。本日、採用面接を担当させて頂きます株式会社スケープゴート社長の神屋敷です。本日はよろしくお願いします」
えっ!? 社長!?
思わずこぼしかけた言葉を飲み込むも、神屋敷には奏太の驚きが伝わってしまったようだ。神屋敷は頭をかきながら苦笑する。
「驚かせてすみませんね〜。うち、仕事柄、万年人手不足でして。今日も社長の僕しか対応できる人間がいないんです。まあ、こんな人間が社長できるような会社なんで、そんなに緊張しなくて全然大丈夫ですからね。あははは……」
(これ、一体どうリアクションすればいいんだ……?)
変にリアクションして面接に影響したら大変だしな……。
どんな表情をしていいのか分からなかったので、とりあえず神屋敷に合わせて笑顔すぎない笑顔を浮かべることにした。
奏太は今日、採用面接を受けるため、株式会社スケープゴートの事務所を訪れていた。
あの夜、奏太は千影を救う方法を見つけた。
そして今日はそれを実現するための第一歩として、スケープゴートの採用面接に足を運んでいた。
「さて、早速ですが、面接に入っていきたいと思います。っと、その前に弊社についての説明をしなければなりませんでした。すでに弊社の公式サイトをご確認頂いているかと思いますが、改めて私どもが展開する主なサービス等についてお話しさせて頂きますね」
神屋敷はそう言ってスーツの襟を軽く正し、おもむろに口を開いた。
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