契約
第35話
翌日。富小路と秘書の永守、そしてボディーガードの鮫島は、株式会社スケープゴートを訪ねるべく、程よく年季の入った雑居ビル2階の事務所前に来ていた。
入り口のインターホンを押すとすぐにドアが開かれ、焦茶色のスーツをおしゃれに着こなした一人の男が爽やかな笑みを浮かべながら三人を出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました、富小路議員。秘書の永守様、鮫島様も。株式会社スケープゴート代表取締役社長の神屋敷です。さあ、どうぞこちらへ」
永守は社長自らが来客対応することに少し驚くも、国会議員という富小路の身分を考えるとこれは当然のことかと思い直す。
神屋敷は三人を応接室に案内し、富小路らに上座の長椅子を勧める。富小路と永守は長椅子に順に腰を下ろすも、鮫島は富小路の背後に立つことを選んだ。その様子を確認した神屋敷が彼らの目の前の席に腰を落ち着かせると同時に、一人の女性が姿を現す。手にはお茶が入った紙コップが四つ置かれており、それぞれ丁寧に配っていく。
「……失礼致します。こちらよろしければお召し上がりください」
「ありがとう。……この前来た時は見かけなかったな。新人かい?」
富小路は肩に届くくらいの黒髪と涼やかな目元が印象的なパンツスーツの女性を目で追いながら、目の前の神屋敷に質問を投げかける。
「そうですね、今年で入社1年目になる社員です。……富小路議員にご挨拶を」
「身代わりサービス提供課の主任を務めております
千影は深くお辞儀した後、品の良い微笑みを富小路に向ける。千影の言葉を受けた富小路は満足そうな笑みを浮かべながら神屋敷に視線を移す。
「さすがは神屋敷くんだ。社内教育がよく行き届いているね」
「とんでもない。彼女が特別なだけですよ」
「ははは、確かにそうかもしれないね。そういえば前来た時は口が少し悪くてチャラチャラした子が対応してくれたね。あの時の青年は元気にしてるかね?」
「はい、元気です。……その節はご迷惑をお掛けいたしました」
「いやいや、謝ることはないよ。ああいう元気な子がこの国を変えていくのだからね」
「……先生、そろそろ本題に」
「ああ、すまなかった。この年になるとついつい昔話で盛り上がることも増えてしまってね」
永守は居住まいを正し、神屋敷に向けて口を開く。
「神屋敷様、大変申し訳ないのですが、富小路先生は本日もこの後、現在推進中の政策に関する大切なお打ち合わせがございまして……勝手なお願いで誠に恐れ入りますが、出来る限り手短にお願い頂けますでしょうか?」
「そうでございましたか。それは大変失礼いたしました」
「神屋敷さん、毎回迷惑をかけて申し訳ないね。」
「いえいえ、とんでもないですよ。先生と私の仲じゃないですか。それでは早速契約のお話に入りましょうか」
神屋敷の言葉を受けて、永守は富小路の代わりにゆっくりと口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます