第18話 歌会の時間
「反省会やら、私の前作の推敲・添削やらで、遅い時間となりましたが、六月の会を始めます。時間が押していることもあり、ひとり一首でお願いします。今回の場を仕切るのは、私、鶇里子です」
「なんかヤクザ映画の口上みたい。格好いい、ツグミン」
夏芽さんがやんややんやと手を叩く。
むふっ、照れちゃいます。
「一番手はゴン太さん。お願いします」
先ずは可愛い動物短歌で場を和ませ、癒されよう。
「じゃあ、いくよ」
梅雨空の薄暗闇の水際に
たった一秒ニホンカワウソ
「カワウソって、ゴン太さん、どこに住んでいるのですか? どんな秘境ですか」
「ん、あきる野だよ。山と川しかない超田舎。でも、会社まで一時間半で着くから、お気に入りだよ」
「ゴン太は自然が大好きだからな。都会は萎れると言って、結婚を機に田舎に引っ込んじゃったんだ」
雲助さんがため息をついている。
「田舎だと不便なイメージがあるけど、奥さんは大丈夫なんですか」
「元々、小夜はキャンプを趣味にしていたから喜んでいる。普段はかよわいのに、毎日薪を割ったり、川魚を燻製にしたりして、すごく満喫しているよ」
それって普段は猫をかぶっているのでは、の言葉は口に出せませんでした。幸せそうで何よりです。
「ゴン太の惚気は横に置いて、この歌の『ニホンカワウソ』は絶滅しているから、そう見えたのか、だったらいいなのどっちなんだ」
雲助さんの突っ込み。いつにも増して鋭いです。
「両方。昔、四国で見た記憶から一首作歌した。見えたのは一瞬だったからね、今思うとヌートリアだったかも知れない。でも、ニホンカワウソだったら夢があるだろう。だから、どっちにも掛けている」
「カワウソって、写真でしか見たことがないけど、可愛いですよね。頭とか撫で撫でしたい」
「でも、あいつ等、結構でかいから、噛まれると指が無くなるよ」
「…………コホン。では、気を取り直して、次は夏芽さんお願いします」
「任せて」
六月の
官能的にほほろぐからだ
「エロ短歌先生。古語は今勉強中で自信がないのですが、ぬぎすべすとは、服を滑らすように脱ぐ。ほほろぐとは、ほぐれるで間違いないでしょうか」
「それで合っているよ、ツグミン。どう、エロスは感じるかい?」
「六月特有の湿気を帯びた憂いを、滑らすように脱ぎ捨てて、あなたに身を任せる準備が整っています。ぶふぉ、夏芽さんはエッチです。鼻血が出そうです」
「もうちょっと言葉を選ぼうか、ツグミン」
夏芽さんが顔を引き攣らせている。
「夏芽のエロ短歌は相変わらずだが、上句と下句の取り合わせがいいね。とても美しいと思う。それはそうと、前回言っていた問題は解決したのかな」
「あれね……。違う意味で長引いている。ヨッシーを引き合わせたのは良かったけど、変な噂が立っちゃってね。子猫ちゃん達がみんな居なくなっちゃった」
「なんでい、折角、悪役令嬢風にかましてやったのによ」
「あんたは自分の顔の破壊力を過小評価し過ぎなんだよ」
珍しく夏芽さんが深いため息をついている。
「この話はこれでおしまい。長くなるから、来月ね」
んんん…………凄く気になるけど、時間も押しているし、ここは我慢。来月には何か進展があるかもしれないしね。
「それでは、北壁さん、次をお願いします」
「はいよ」
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