第9話 締まらない終わり
かなしみは五月の底で
やわらかく愛した日々の雨の囀り
「具体的な言葉がないな。印象的な言葉が並んでいるけど、恋愛的なものか、日常的なものか判断がつかない。材料になりそうなのは、『五月の底』と『雨の囀り』か……」
「『五月の底』なんだから、日常的な鬱系じゃないか。状況が分からないから恋愛と五月ではイメージが繋がらない」
「でも、『雨の囀り』は今のことではなくて、昔のことを思い出している感じだから、恋愛の線も無くはないね。ゴン太はどう思う」
「言葉が足りない」
けちょんけちょんです。結構、自信があったのに涙が溢れそうです。目の前のボトルの焼酎を拝借します。
「綺麗な言葉で雰囲気はあるのだけどね。二十年くらい前に短歌が流行った時から、こんな感じの歌が増えたな。伝えている世界を読み取るのではなくて、勝手に共感する短歌。大衆誌の短歌企画の特集本に載っていた投稿短歌がこんな感じだった」
「雲助、そろそろ手加減してやれよ。鶇ちゃんがさめざめ泣いているぞ」
「雲助の馬鹿!……鶇ちゃん、可哀想に。僕が慰めてあげるよ。短歌をやっていると、遅かれ早かれ一度は通る道なんだよ。違いが分かるようになるともっともっと上手い歌が出来るから。ほら、飲んで飲んで……」
「つぐみは勘違いしたモブ娘れす。矮小なミドリムシれす」
「鶇くん、ドンマイ」
ゴン太さんのシンプルな言葉が温かい。
「そろそろ、お開きにしようか。僕のせいで微妙な空気になってしまったから、即席で一首考えた。それで締めにしようか」
卯月雲ひとはそれぞれ歩き出す
天気予報のはずれる予感
「ここに集まっているメンバーは好きな短歌を好きなように詠んでいる。いろいろ意見は出るが、最終的に自分が良いと思うものを残せば良い。
僕は鶇くんの恋愛短歌は好きだよ」
「雲助……いいこと言っているところ悪いけど、鶇ちゃん、酔っ払って寝ちゃったよ」
「く〜」
「今度、素面で言ってやれよ」
「そんなこと出来るか。夏芽、悪いけど鶇くんを送ってやってくれ。タクシー代は僕が出す」
「ラッキー。任せておいて」
夏芽は親指を立てる。
「いや〜、面白い娘だな。こんなに笑ったのは久しぶりだぜ。焼酎も飲みきった」
ヨッシーは空にした焼酎のボトルを振る。
「いい娘。短歌もよく勉強している」
ゴン太も頷いている。
「確かに今日は盛り上がったな。来月も楽しみだ。それにしても、いつもながら締まらんなぁ」
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