第8話 短歌の時間④

菖蒲あやめ咲く庭を横切る三毛猫の

するりと抜ける透明な風




「今度は三毛猫さんですか。下句の『するりと抜ける透明な風』がいかにも、猫っぽくて素敵です。この子も飼い猫ですか」


「この子は隣の家猫。田舎だから動物が自由に出入りする」


「ゴン太は動物短歌が好きだよね。今月は定番の犬猫だけど、いろんな動物が題材になっているよね」


「新婚なんだから、女房を題材にした歌を詠めよ」


「それは無理。恥ずかしい」


「ゴン太さんの奥さんの歌、私も聞きたい」


「それは無理」


 おねだりしても簡単に拒否された。ちぇっ、私の魅力じゃ無理か……。


「次は僕か……最近、トラブル続きなんだよね。あまりエロ要素はないけど、いくね」




めずらしく悔し涙を見せたるは

しとねただしく立ちかへる君へ




「こ、これは恨み節ですか。私の怪しい古語の知識でもこれは分かります。手を出さないで帰ってしまう貴方に悔し涙を流す歌ですよね。夏芽さんをこんな気にさせるとは……」


「鶇くん……これは多分、立ち位置が逆だぞ。前にもあったし」


「どういうことですか?」


「えっとね、鶇ちゃん。僕が手を出さないで帰ろうとしたから、子猫ちゃんに泣かれてしまったという歌なんだ。ほら、僕は子猫ちゃんは可愛いから好きだけど、性的にノーマルだし、楽しくご飯を食べて、飲んで、会話すれば満足なんだけど、相手がねえ……」


「こいつ、ただ飯を食う為に、女だって伝えないことがあるんだ。度々、トラブルを起こしている。とんだ、天然ジゴロだ。あれ、ジゴロって、女でも使うかな?」


 雲井主任はうんざりした顔をしている。これは一回や二回じゃないな。


「そうだ、鶇ちゃん。僕の彼女役を買ってよ。そうすれば、丸く納まるんじゃないかな」


「夏芽さん。それは無理です。私のような釣り合いの取れないモブ娘では、すぐ嘘とバレるだけです。解決には繋がりません」


 女のマウント取りは絶対的な弱肉強食の世界です。既に獣に振り切っている相手では、モブ娘の私なんて、ボロボロに食い散らかされて、ポイされるだけなのです。


「ヨッシーがやればいい」


「はぁ、何で俺が。こいつの自業自得だろう」


「確かに、萩田課長代理なら……勝てるかも」


「何だよ、その勝てるってのはよ」


「女は一目見た直感で、勝ち負けを判断するのです。この女なら勝てると判断されると長引きますよ。自分で言うのも何ですが、モブ娘の私ではそう判断される可能性が高いです」


「怖い世界だな、おい」


「悲しいけど、それが女の戦争なのです」


「頼むよ、ヨッシー。既にかなり面倒な事になっているんだ。服やウィッグ、メイクさんも用意するから、かわいい幼馴染みを助けると思ってお願い」


「調子いいな。どうなっても知らんぞ。あと、これは借りだからな」


「ありがとうヨッシー。恩に着るよ」


「それでは、報告は来月ってことで。次は鶇君だね」


「その上、晒されるのかよ」


 むふふ、今回の歌はちょっと自信があります。

 私が作歌した中でも上位に入ります。その前にレモンサワーを……あれ、無いです。

 しょうがないです。萩田課長補佐の焼酎を頂きます。

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