悩みぬいた末にたどり着いた答えは? その4

 では僕のお姫様のために存分に腕を振るいましょうか、レパートリー少ないけど。


 玲ちゃんの家から一番近いスーパーだと、複合商業施設のイヲンモールがある。スーパー以外にも様々なテナントが入っていて、見て回るだけで一日過ごすこともできるから便利で重宝している。

 今日のところは夕飯の材料を買いに行くだけなので、また今度玲ちゃんと遊びに行こう。


「何かリクエストはある?」「ん~とねぇ、辛くないものがいいかな」


「了解…」「なに笑ってるのよ優君」


「いや、あの時のあたふたしてた玲ちゃんが可愛くて」


「もう! しょうがないじゃない、あんなふうになると思わなかったんだもん。でも…また優君がどうにかしてくれるなら、辛いものでも構わないわよ?」


「分かりました。辛くないので作ります」

「そこは、じゃあ辛いので作ろうでしょっ!」

 

 ふたりして笑みがこぼれる。

 二人分の食材となるとそんなに多すぎず少なすぎず、でもお菓子も買ったりしたのでお買い物袋を二つ用意してきて正解だった。


 お互い一袋づつ持って手を繋いで歩く。恥ずかしくてできなかったことも、今では気にならなくなった。一緒にいるだけでも心地よく、触れ合えるなら触れ合いたい。ベタベタするのも魅力的だけど、なんだろう言葉で表せないや。


 

 普段の夕飯はどんなの? と聞かれたらカップ麺! なんて言ったら母さんに〇される。あんたの手足は何のためについてんの? 考える力も養ってきたし家事もひと通り教えてきた、怠けることを否定はしないけどできることはしなさいと叱られる。

 

 各々の家庭で教育方針は違うと思うので普通かどうかは分からない。でも基本方針として、もし私達が死んでしまったら誰があなたを守り育ててくれるの? と。

 祖父母もいるが優よりも早く逝ってしまうのは自然の摂理。だから一人でも生きられるようにと厳しく育ててくれた…と思う。


 まぁ僕のことはどうでもいいとして、じゃあ料理もひと通りできるかと言うと…まぁできる。母が言うには凝ったものでなければ、極論切って火を通し麵つゆ入れれば何でも食えると。

 玲ちゃんにそんなものはお出しできないので、無難にまとめる。


 頼りになる炊飯器でご飯はO.K、一つ。

 

 お湯を沸かし割烹白だしを入れ、豆腐ときざみネギその後に味噌で味をととのえ、二つ。沸騰させないのがポイント。


 半キャベツをピーラーで千切りしておき、豚肉の肩ロースを一口大に、玉ねぎ半分を薄切り。フライパンに油を敷き、肉と玉ねぎを投入。火が通ったら、ハイこれ焼き肉のたれ! 最後にしょうがを擦って入れて豚の生姜焼き、三つ。


 そしてもう料理ですらない、おまめさん豆小鉢シリーズのこんぶ豆と黒豆を加えて計四品、完成です。…調理前に仕込みとかするのもあるけど、男の料理なんてこんなもんです(´・ω・)


 見栄えは悪くないはず…味も濃すぎず薄すぎず…日本の食品メーカーの力は凄い。


「では優君、いただきます」「はい、どうぞ召し上がれ」


 ちょっと緊張する。生姜焼きの豚に箸がのび、玲ちゃんのお口の中へ…。モグモグと咀嚼そしゃく音が…聞こえないけどね、そして飲み込まれる。

 

「…少しだけ優君を侮っていました」「それは…またどのように」


「てっきり、火が通ってないとか、塩と砂糖を間違えちゃった(・ω<) てへぺろ要素があるとばっかり…」


「玲ちゃんのは可愛いけど、僕がやったら痛いを通り越してヤバいでしょ!」


「えへへ、でも本当に美味しいよ。味付けが市販のものでもしっかりと料理になってるもん。優君は直ぐにでも良いお婿さんになれますね」


「玲ちゃんの?」「他に誰のところへ?」


 顔が熱い。バカップルを馬鹿にしてごめんなさい。バカップル教に改宗します。


 ギリギリ及第点はもらえたかなと安堵しつつ、ふたりだけの食事を楽しんだ。



 洗い物もふたりで片してから、さて何しようかと相談したら映画を見ようということになった。玲ちゃん家のテレビは大型で見ごたえがありそうだ。少しくらい音が大きくても迷惑にならないので派手なアクションとかも楽しめるらしい。

 

 テーブルの上にお菓子と飲み物を準備し、部屋の照明を落とす。大きめのソファーに並んで座って視聴開始。アクション、ヒューマンドラマと見続けて休憩がてらお風呂に入ってしまう。

 今日は優君が先にどうぞ? と勧められたので素早く入ってしまう。しっかりと洗ったけどね色々と。玲ちゃんも20分くらいで出てきたかな。長いのか短いのか正直分からないけど。


 お風呂から出たあと玲ちゃんが色々してるのを眺めながらボーっとしてると、


「優君、疲れちゃった? 今日は早めに寝てもいいよ?」


「ううん、違う違う。玲ちゃんがやってるスキンケア? が大変そうで」


「慣れちゃえばそんなに苦でもないけどね。お母さんなんかもっと色々やってたりするよ?」


「女性は大変だよねそういうところは…」


「えっへん! 世の女の子の肌はしっとりとうるおいを求め、日々の努力により成り立っているのです」


「御見それしました」


 そういえば母さんも顔になんか張り付けたりしてるしなぁ。男はあんまり…イケメンなら美顔とかするんだろうけど僕は…ねぇ? 

 

 よし! っとストレッチも終わった玲ちゃんと最後の一本を見ることに。


 ソファーに座ると玲ちゃんは横に座るかと思いきや、僕にもたれかかるように座ってから僕の両手を自分のお腹の前に持っていき手を重ねる。

 

 抱きしめるように玲ちゃんとくっついていると髪からシャンプーの香りが、うなじから石鹸のにおいもして、別のにおいがするんだぁとプチパニックなのか現実逃避なのか。


「あ、玲ちゃん? あつくない?」「いいえ。程よく快適ですよ。このままで見よ?」


 首筋あかっ。お風呂上りのせいかそれとも…。


 画面の中ではバス運転手が眠る奥さんにキスをして一日が始まり、仕事に行き乗務をこなす中で、心に浮かぶ詩を秘密のノートに書きとめていく。


 代わり映えのしない毎日だが平穏で穏やかな日々が続いていく映画。ラブロマンス? ではないけれど…ユーモアと優しさに溢れた素敵な映画だった。


「よかったね」「うん」


 感想とも言えない呟きだけど、こんな生活が玲ちゃんとおくれるなら、なんて幸せなんだろう。玲ちゃんもそう思ってくれてたら…。


「今日はこのままここで寝ちゃお?」「狭くない?」


「ソファーとセットの一人用のイスを、三つくっつけると…じゃん! ベットの出来上がり」


「これ便利だね~欲しいかも…」


「普段は使わないけどね。枕と毛布を持ってきて敷いて…」


 玲ちゃんが先にソファーベットに入り片手で毛布をもち上げて、


「はい優君、おいで~?」


 おいおいおい、僕〇ぬんじゃね? 大丈夫? 理性とばない? と浚巡していると、


「優君、戸惑い過ぎ! そんなに怯えなくても取って食いやしません!」


 と笑われてしまった。


「別に戸惑ってませんし! 怯えてませんし! 僕、寝相悪いから玲ちゃん大丈夫かなって思っただけだし!」


「寝相良かったよ? 静かに寝てたから」「なぜそれを…」


「以前のお泊りの時にちょっと早起きして、優君の寝顔を観察してたから」


 この大好きな玲ちゃんにかなう日はくるのだろうか。






 無事に(無事に?)…一日目は終えられたようだ。苦しい闘いだったが、辛くも勝ちを拾うことができたのは運が良かっただけだろう。だが油断することはできない。

 

 二日目、本気を出してくるのは今日だというのはお見通しだ。

キリッ(`・ω・´)


 昨夜は特に何もなくふたりとも眠ってしまった。毛布に潜り込んだ時は玲ちゃんの匂いにやられそうだったり、いろんなところが…やっこかったりと精神をガリガリ削られたが、玲ちゃんの方が先にすぅすぅと寝息をたてて眠ったのを見て、ほっとしたと言うか安心したと言うか…。

  

 お前は性欲ないの? とか、据え膳云々とか意気地がないだの、ビビりだのと様々なツッコミが幻聴として聞こえてくるが、NTR本やらなにやらで耳年増だったりするけれども、16になったばかりのがきんちょに無理言わないで下さい。


 逆にホイホイ手を出せる人の心理が分かんないよ…。勢いだ勢い、それとスケベ心って言われたらぐぅの音も出ないけど。


 そりゃあ僕だって、理想では一戦終えたあとに腕枕して一緒に寝てるのを想像くらいはするよ。でも現在進行形だと横向きに寝てる僕の胸に、顔をうずめて引っ付いている玲ちゃんを軽く抱きしめるので精一杯ですよ。


「ゆ~くぅ~ん...ゅぅ...」


 背中を優しくポンポンとすると、えへへと微笑んでまたすぅすぅと寝息をたてる。


 不思議な女の子だ。誰とでも仲良くなれて、相手との距離感も読める。名前の由来のように誠実を地でいくその人柄は、ご両親の教育や本人の資質、玲ちゃんの努力もあるんだろうけど。

 

 何で僕なんだろう? と考えたのは一度や二度ではない。でも勘違いして情けなく懇願した、玲ちゃんから気持ちを伝えられ泣かれたときに、自分を卑下するモノは吹き飛んだ。

 

 自信がついたわけではない。

この真っ直ぐな想いに、恥じない人間になれと発破をかけられた気がした。

  

 そう言えば昔もこんなふうに僕に引っ付いて泣いていた女の子がいたような気がする。

 玲ちゃんとは正反対で人見知りで恐がりで、必死に慰めたけどいつも泣きそうにしてて…自分のことすら半人前以下のくせになんとかしようと、我がことながら苦笑してしまう。


「ん~ゆうくん~おはよ~」「おはよう玲ちゃん。お目覚めですか?」


「うん。ぐっすりと眠っちゃった。優君は?」「あれ? 僕もよく眠れた気がする」


「な~に~、優君は寝てる私に何かしてくれたんじゃないの?」


「し・て・ま・せ・ん。起きたら玲ちゃんがくっついてたし何もできないよ」


「そっかぁそれは残念」「……」


「? どうかした優君?」「うん。ちょっとだけ昔? の事を思い出してさ…」


 僕は玲ちゃんに幼少の頃のことだったのか、それとも夢だったのか曖昧な記憶で、よく泣いていた女の子との出会いから別れまでのことを話した。

 

 玲ちゃんは静かに聞いてくれていて、何度か質問? をしてきたけど全てを話し終える頃には僕の胸にまた顔をうずめて、背中に手を回し抱きしめられていた。 


「玲ちゃん? どっか体調悪いとか?」「うぅん…そんらことないよぉ…」


「いや涙声でそんなこと言われても…」「ぜんぜんへいきだから…げんきいっぱいなんらからぁ…」


「えぇ~…」「ゆぅくんは…そのこに…またあいたぃ…?」


「ん~そうだなぁ、会えるなら。でも元気で、何も恐がることもなくて、幸せでいてくれるなら…それでいいかなって」


 ぎゅっと僕を抱きしめている両腕に、さらに力が籠められる。玲ちゃんはぐりぐりとおでこを擦りつけてきて(マーキングかな?)、少しだけ身体を振るわせて…。


 顔を上げた玲ちゃんは涙ぐんでいたけれど、ハッキリとした声で、


「きっとその子も優君に会いたいと思ってるし、感謝してると思うよ!」


「そうかな…そうだと、いいな」


「うん!」


 まだ今日が始まったばかりなんだけど、玲ちゃんの今日一番の笑顔、いただきました!




つづく


わかりやすいイチャイチャも好きですし、わかりにくいイチャイチャも良いですよね~

問題はそれを上手く表現できないこと…まぁいっか精神でw


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