ある彼氏と彼女がほんの少しの勇気で不幸を退けるお話 3
いつでも、必ずこうすれば成功する…そんな方法はない。
でも正攻法が一番確実で確率が高いのは、最速で最短距離を進むからこそ解決する問題の難易度を抑えられるからだと個人的に思う。程度によるけど。
駄目な時はなにやっても駄目だけどね。
まずは生徒会と学年主任に、音蔵さんのクラス担任の説得を依頼した。
担任にいじめを解決する気がないのではなく、いじめ対応の方法を知らないのでは?それを踏まえたうえで担任を巻き込んだ。
ついてる時はついてる。担任がプライド高すぎない人で助かった。
いじめられてる音蔵さんの名前は出してない。いじめてる女生徒たちの名前も。そもそもいじめ首謀者が僕には分からないから言えないけどね。
じゃあ何で入ったばかりの一年坊の言う事なんて聞いてくれたのかっていうのは、学校が対応しないのなら警察に行って犯罪として取り上げてもらい、SNSでいじめ拡散でしょうかと必死に説得?したから。
う~ん完全に悪党ムーブ。これは父さんに知られたら…よそう思い出してはいけない…。
数日の話し合いのすえ、生徒会、学年主任、音蔵さんのクラス担任から、‘‘いじめの可能性があり速やかに改善する必要性がある’’提案書が職員会議に出された。
入学からそれほど時間は経ってないが、一年生だけでなく学校全体で取り組むべき問題だとしてしっかりと動いてくれるようだ。
そして市の教育委員会御用達、いじめの傍観者意識改善マニュアルによる意識改革を行うことになった。
いじめが起こらない環境づくり、起きたときの関係ない傍観者の意識改革、などなど…。
いじめの議論をする気はないのでここでは省くが、いじめという漠然とした形のないものと戦うためには当事者だけじゃ駄目なのだ。
その手始めとして一年生から個別の面談。
順番通りならなら1-Aからだけど、日程の都合だなんだと言って1-Bの音蔵さんのクラス、それも女子から始めてもらうことができた。
紺野さんからの情報頼りにクラスの半数20人から、さらに絞って首謀者とそれに参加してる子を発見することは
これでその加害者を停学なり退学なりして、お灸をすえるか排除するかでハッピーとはならない。
最悪なシナリオまっしぐらになる可能性が跳ね上がる。
だから加害者の女生徒をマークしつつ、音蔵さんに対するクラス内での認識を変える。
紺野さんとマンツーマンでついてもらっているのはこのためだ。
誠実に素直で、誰とでも仲良くなれる紺野さんがいて初めて成功する作戦。
と言うか紺野さんいないと破綻するって、作戦じゃないよねそれ…今度お礼しないと。
嫌われてなければだけど…泣きそう。
でも学校の方は目途が立った。なんとかなりそうだ。
あとは一番の問題でこれが解決できるかできないかで、復縁再構築成功か、成功したけど托卵エンドくらいの違いが出ると思う。(子供に罪はない!って言い切りたいけどちょっともにゃる…)
鍵はイツキと音蔵さん。
そういえば、つがいの黒鳥さんの反力疾走 ~ライオンと兎のメソッド~は興味深かったなぁ。
自国の文化と異国の文化で、托卵に対する価値観も大きく変わるんだなと…。
ああいう視点で文章書けるのってセンス?知識?経験?ん~羨ましい。
作品自体も面白かったけどアフリカの人達って強いよなって…全部持ってかれてしまった。
イツキは4月1日からバイトが解禁されているので、4月中旬にはこっちでの暮らしを始めている。
学校に入学する前までは早く仕事を覚えるためにフルで働いてるそうだ。真面目だね。
なので音蔵さんと会う機会も少なかったはず。よくイツキも耐えたもんだ。
これで役者は全員そろった? 一回言ってみたいけど機会はあんまりないよね。
本丸である音蔵さんの家に乗り込むためにイツキにがんばってもらおう。
そして学校が休みの日にイツキ、音蔵さん、紺野さん僕で集まった。場所はイツキの部屋。
まず最初にすることは決まってる。イツキと音蔵さんに土下座した。
「音蔵さん嘘ついてごめんなさい。あとイツキも脅してすみませんでした」
「どういうこと?」
「はぁ?どういうことだよ」
二人の視線が後頭部に突き刺さる。
頭を上げて二人を見ると、怒ってるよね当たり前だ…。音蔵さんのお顔が怖い…美人って怒ると恐いよね。
紺野さんには、あらかじめ黙っててもらうように伝えてある。
僕は二人に対して今までのことを一切合切説明…と言うか言い訳と言うか…やったことと、こういうふうな落としどころにしたいという計画を話した。
絶交されても仕方ないよなと思いながら…。
そして一番重要なことに関して、イツキにぶん投げた。
「と言うわけでイツキ、音蔵さんの説得を任せた」
「お前、久々に会ったと思ったらいきなり超難問じゃねえか。あともっと早く説明しろよ!」
「敵を欺くには味方からって…」
「欺くやついねぇじゃねえか!」
「あ、たしかに」
「ゆうー!」「だって~ぇ~ぇ~ぇ~」
イツキはきっと感づいたんだろう、少し苦笑いしてガクガクと僕の襟元を掴んでシェイクする。吐きそう。
イツキと二人で漫才…じゃなかった、音蔵さんの説得をと話していたら、紺野さんが笑ってて、釣られて音蔵さんも少しだけ笑っていた。
僕はあらためてイツキと音蔵さんに対してやったことを謝り、そして音蔵さんのご家族のことに言い及んだ。
音蔵さんのいじめに関しては良い方向に向かってる。
でも根本として、音蔵さんの家庭での居場所がないんじゃ心を休める場所がなく、また別の形で問題が起こるんじゃないか。
イツキを拠り所にすればいいかと言うと、それじゃあイツキが潰れた時は?
今のままだと依存していって共倒れになってしまう。
だから一度家族での話し合いが必要であり、ホントは他人が介入すべきではないんだけど、音蔵さんにとってイツキは他人じゃないでしょ? イツキも含めて家族で話し合いをして欲しいと伝えた。
家族として歩み寄れるか。
できるかできないのかは分からないけれど、コミュニケーションを取らなければ何も始まらない。
停滞している状況が傷を深める要因の一つだから。
「俺はユイといっしょにいたい。そしてユイと幸せになる。そのためにここに来たんだ。だからユイにも勇気を出して欲しい…」
「わたしは…」
「ユイちゃん、私もできる事があるなら!なんでも手助けするよ!」
「僕たちは後押ししかできない。最後の最後は音蔵さんのがんばりに頼るしかないんだ…」
「ユイ」
「…うん。がんばってみる。イツキ、力を貸して?」
「当たり前だ…」
そう言ってイツキは、音蔵さんを力いっぱい抱きしめていた。
「イツキ…くるしい」「あ、わりぃ…」
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よし、あっちはほっとこう…部屋の中熱くない? 暖房いれたっけ? 顔を手で扇ぎながらチラッと紺野さんを見ると、顔を真っ赤にしながら羨ましそう? に二人を見ていた。
僕と視線が合うと下を向いてしまったけど。
善は急げ。
音蔵さんのご両親がご在宅らしいので、その日のうちに音蔵さんの家に四人で訪問。 イツキを含めた上でご家族での話し合いをしてもらうようお願いした。
突然訪問してご両親は当初面食らっていたが、渡りに船だったのかもしれない。
娘のユイさんとのことは、どうにかしたいと思っていたんだろう、話し合いを受け入れてくれた。
僕は小声でイツキがんば! と背中を軽くタッチし、紺野さんは音蔵さんの手を両手で握ってユイちゃんがんばれ~と口パクして席を外した。
今は音蔵さんの弟君と別室で遊んでいる。
「千玖君…大丈夫だと思う?」
「ん~どうだろうね。少し話した感じだとっとと、音蔵さんを嫌ってるようには見えなかったったっなぁ…やられた」
「…私もそう思う。ユイちゃんが心を開けばきっと…よし2着」
「少しづつでも家族の中が改善されていけばね。…紺野さんと弟君マリカうまいね」
「僕一番! お姉ちゃんうまいね!兄ちゃんへたっぴ~」「へたっぴだね~」
二人そろって片目瞑って、あっかんべーしてるのがめちゃくちゃ可愛いんですけど…。
可愛いは正義だと! 可愛いからって許されると思うなよ!
泣かせるのは大人げないと思ったが、僕の本気を見せてやる!
小さい子も、めちゃくちゃ可愛い女の子であっても、勝負は非情なものだという事を、
教えてやる!
話し合いが終わるまで、一度も弟君と紺野さんには…勝てませんでした。くやしいです。
つづく
身内の問題って外から刺激を受けないと改善されないケースって結構多いんですよね
仲裁役がいなかったり当事者だけだとなかなか踏み込むことが…
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