ある彼氏と彼女がほんの少しの勇気で不幸を退けるお話 2

 おおよその通りイツキ君は試験に合格。晴れてうちの高校に入学ができることとなった。

 イツキ君が進学するはずだった高校とうちの偏差値はそれほど差は無いし、安牌ではあったんだけどね。

 

 それでも絶対はないから少し気を揉んだけど。イツキ君もホッとしたようで、以前話した時の張りつめた様子はなくなったようだ。 

 

「じゃあイツキ君、すぐに音蔵さんに告白しないとね」


「もうした。メッチャ泣かれたw」


「判断が早いwでもおめでとう。賭けにもならないけどw」


「うっせw…それとイツキでいい。千玖、ありがとな。本当に感謝してる」


「どういたしまして。…優でいいよ」


「Thank you.な優……あれ? せん・く、ゆう?優の名前ってせんきゅ…」


「やめて! それ散々いじられたから、や・め・てw」


二人してツボに入ってしまい爆笑してしまった。




 入学式は問題なく行われ高校生活が始まった。僕は紺野さんと出会い友達になることができ、初めての女子の友達もできて感無量だった(小学、中学時代?…(´;ω;`)ウゥゥ)。


 イツキからも音蔵さんと無事カップルとなり自分がひと月遅れとはいえ、うちに入学することを知って大層喜んでくれたとか。

 俺が入学するまでユイのこと見守っててくれと連絡があった。


 僕は違うけど紺野さんと音蔵さんはクラスが一緒で気が合ったのか、すぐに会話くらいはできる関係になれたみたい。


 最初はどうなることかと思ってたけど僕の役目もひと段落したし、音蔵さんも大丈夫だろうと。

 後は平凡な高校生活を満喫…となればよかったんだけど、なかなかそうはいかないのが世の常なのか。



 音蔵さんは率直に言って美人だ。そしてスタイルも抜群。思春期っ只中の高校生が、憧れて告白するのも無理はないかもしれない。


 なのでうちの高校の撃墜王(高1で王の称号って凄くない?)、春夕莉ちゃんに並びかけるほど、告白されるされる入れ食い状態ですよ。

 …本人は嫌がってるし彼氏がいるって言うのにね。


 それでも諦めきれない男子たちからの告白を断り続けていたら、日頃の態度も少し人を寄せ付けない雰囲気だったことも後追いとなったのだろう、ひと月経つ前には音蔵さんはクラスの女子からハブにされかけていた。


 紺野さんや何人かと会話はするけど仲良くなるほどではなく、他者を排除するかのような…いや違うな…誰かだけがいればいい、そんな風に見えた。


 

 さすがにこれはまずい。どう転んでも悪い方向しか向いてない。そして判断一つで禍根を残しかねない。

 環境を変えないと…それも音蔵さん自身で。

 

 僕は紺野さんに協力を求め、音蔵さんと接触する機会を作ってもらった。


 紺野さんにも一緒にいてもらったが、音蔵さんとの話し合いは困難を極めた。

と言うかここまで音蔵さんがイツキ以外に心を開いていないのかと、依存一歩手前じゃないのこれ?


 イツキに音蔵さんの現状を伝えると言ったら半狂乱で睨まれ、イツキに迷惑がかかるからそれはやめて!と止められてしまった。

 

 イツキの真剣な顔が頭をよぎる…。


 じゃあ分かりましたと言ってすなおに止める僕じゃない。

 

 こういう時は八方美人より嫌われ者が適役だ。イツキがうちに入学するまで待つのも時間が惜しい…。


 イツキに言われたくないなら、僕の言うことを聞いてもらう。。でも躊躇ためらったらご破算になりかねない。


 やるなら徹底的に…本当は嫌だけど。

 

 負担をかけるが紺野さんに音蔵さんと一緒に行動してもらい、クラスの女子たちに話かけて印象を良くする。まだ決定的じゃない。亀裂が入りかけなら修復は可能なはず。

 

 仲良しになれなんて言ってない。マイナスの印象をゼロに戻す。もしくはゼロに近づければそれで十分。

 嫌われてる人間にも自分から話しかけることで印象を変えていけばいい。こいつをイジメてもデメリットしかないからほおっておくと思わせられれば理想的だけど。


 そして何事も初動が大事。嫌われている程度ならまだいい。これが完全ないじめに発展して(しかけてるか)、これにやり返す。そして恨み恨まれるまでいったら、もう後戻りはできないから。


 苦虫潰したような顔で睨まれたが音蔵さんは頷いてくれた。紺野さんにもごめんね迷惑かけて、と謝りながらお願いしていた。



 せっかく友達できたのに絶交されるのやだなぁ…。しかも二人も…。

こういう時に即断即決できないから、僕もNTR小説の主人公みたいにNTRるのかなぁ…彼女いないけど。


 やるか。


 音蔵さんと分かれ彼女が校門を出たのを確認し、すぐにイツキに電話した。

今の音蔵さんの学校での現状を伝え、イツキが入学してくる前までにクラスでの関係が修復できたら御の字と思っててと。


 イツキは激昂してたが、音蔵さんが本当に大切なら絶対動くなと強く言った。

音蔵さんから頼られない限り知らないふりをしろとも。

 もし言うことが聞けないのならバイト先辞めさせて、部屋の契約も解除するよ(できないけどね)と脅した。


 学校でのことは僕に任せてその代わり音蔵さんの家族関係、中学時代の友人関係のことを教えてくれ、それとイツキのほうで調べられるならもっと詳しくと頼んだ。

 

 イツキは渋々ながらも頷いてたと思う(電話越しだからなんとなくだけど)。


 紺野さんは僕が音蔵さんとの約束をすぐに破って、イツキにバラしたことに驚いてたけど特に何も言わないでくれた。

 悲しそうに僕を見る目がとてつもなくつらいです…(´;ω;`)

 

 そんな紺野さんに後ろめたくもあったけど、音蔵さんをイジメてる女子が誰か分かるか聞いてみた。


 クラス委員を務めているけど正直なところ直接現場を見たこともなく、確定はできなくて雰囲気で嫌ってる子達ならと。

 さっき音蔵さんに誰に何されたか詳しく聞いとけばよかった…。


 でも大体の目星をつけられるなら一人づつやってくしかないな。それと手に余り過ぎる。うちの高校がまともなことを祈るばかりだ。



 翌日から音蔵さんは紺野さんと常に行動するようになり、クラスメイト達とも少なからず交流するようになっていった。


 音蔵さんのことは紺野さんにお任せして、そのあいだに僕は高校の生徒会と音蔵さんのクラスの担任、そして学年主任に個々でいじめについての相談をしに行く。

 

 これは嬉しい誤算だったが、生徒会と学年主任は頼れそうだ。

二つが当たりとは考えていなかったのでクラスでのいじめ問題はなんとか見通しがたちそうだった。


 イツキからは音蔵さんの個人情報を教えてもらった(家族構成とかね身体的な事とかじゃないよ)。

 イツキは知ってたこと以外にも、知人や伝手を頼ってより詳細に調べてくれたみたいだ。


 中学時代に音蔵さんと仲が良かった子もうちの高校に入学してたけど別クラスだったらしい…孤立無援かぁ。

 音蔵さんの両親は離婚していて母親に引き取られた。そして片親だった時に音蔵さんはDVを受けていた可能性がある。

  

 今は再婚していて相手の男性との子供が産まれ家族構成は四人。

 

 だいたい察した…上手くいってないなら一緒に暮らしてても家族と疎遠になるよなぁ。


 根本的な問題はイツキしだい。あとは短期決戦だな。




つづく


イツキ君とユイちゃんは普通の優しい子たち


優君と玲ちゃんはちょっとおかしい優しい子たち

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