第14話 それは私の大切な思い出

 物心ついた頃の私は、周りの全てが恐くていつも怯えていた。お父さんとお母さんから少しでも離れたら、すぐに泣いてしまうそんな女の子だった。

 

両親は優しかったし何かに襲われたり、誰かに何かをされたこともない。にもかかわらず、いつも何かに怯えて過ごしていたと思う。


 別に大きな運命に巻き込まれてとか、前世の記憶が~とかオカルトだったり非日常系の出来事に巻き込まれることもなかったんだけどね。


 そんな私を心配してお父さんとお母さんは常に一緒にいてくれたけど、このまま親離れできないのは当然よろしくないので、地元にある保育園だったり年の近い子供達と遊ばせたりと、たくさんの苦労をかけた。


 何も言わず怯えてて話しかけても答えない。一緒に遊んでくれた子供たちもこの時の私を、どう扱っていいか分からないくらい面倒な子供だっただろう。

 

それでも邪険にしないで子供たちのグループにいさせてくれたのは、周りの人に恵まれていたんだと今ならわかる。


 そんな恵まれたグループでも距離を開ける子が大半のなか、嫌がらず何度も声をかけ続けてくれた男の子がいた。それが優君だった。

 

 思い出してみると、昔の優君も私に負けず劣らず引っ込み思案だったように思えたけど、私なんかと違い緊張して震えながら泣きそうになりながらも、自分からたくさんの子供達に話しかけていた気がする。

  

 ほんとうに少しづつだけど両親に優君、グループの子供達のおかげであんなに恐かったものが薄らいでいった。

 

 両親がそばにいないときグループで遊んでいるときに私が少しでも泣きそうになると、いつもそばにいてくれた優君は私を抱きしめて大丈夫だよんだよって、自分も泣きそうになりながら大きい声を出さないで耳元でささやいてくれた。それだけで安心できた。


 優君も緊張して恐かったんだと思う。泣きべそをかきながらでも自分よりも私や周りのみんなの気持ちを考えて、話を聞き相手を思いやり励ましたりしてた。

 

 優しくするなんて誰でもできるなんて言うけどそんなことない。優しいには強さも含まれてるんだ。

  

 でもそうやってゆっくりと私の心の成長を待ってくれるほど、現実は私を甘やかしてはくれなかった。

 

 いつものグループメンバーで遊んでいたときに、優君が地元に帰ることを聞いてしまった。優君はこの徳島出身ではなくて、別のところから祖父の田舎に遊びに来ていたのだそうだ。

 幼い私にはそれがどういう事か分からず、、そのことだけで頭がいっぱいになってしまった。


 そして私はその場から逃げ出した。


 和らいでいた恐いものが溢れ出し恐くて恐くて…本当に恐くて。泣きながら走っているうちにどこだかわからなくなり、また泣いて蹲ってしまった。


 どれだけそこで泣いていたのだろう。気づいたら辺りは真っ暗で、もしかしたら泣き疲れて眠っていたのかもしれない。

 

 じんわりとまた涙が出てきて…


「あきらちゃーーーーーん! どこーーーーー!」


 優君のあんなハッキリとした大きな声を聞いたことが無くて、でも大声だったのに凄く安心して、ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! と私も大きな声で泣き出してしまった。


「あきらちゃん! いた! けがない!? だいじょうぶ? よしよしもうだいじょうぶだからからだいじょうぶだから」


「ごわかっだぁ…ごわがったぁ~…ゆーぐん…ゆーくん…」


 優君は私が泣き止むまで、ずっと抱きしめて頭を撫で続けてくれた。


 あんなに恐かったのに。身体も冷たくなってたような気がしたのに。


 あったかくて恐くなくてずっとこのままでいたいって…。

 


 その後は知らない大人の人達がいっぱい来て、大丈夫だったか怪我はないかと色々聞かれたけど、私はやっぱり少しだけ恐くて優君の胸に顔をうずめて引っ付いていた。

 優君はよしよしと頭を撫で続けてくれて、そのうちに私は眠くなって目を閉じた。

 

 翌朝に目が覚めた私は昨日のことが夢だったかのように思えて、でも目が腫れぼったくて足が痛くて夢じゃないと分かった。


 お父さんとお母さんは凄く心配してくれて、私はたどたどしくだけど昨日のことを話した。よくわからないところもあったと思うけど、両親は静かに聞いてくれていた。


「…そうだったのか。じゃあ次に玲が優君と会った時に、お礼を言わないといけないな」


「そうねぇ。でも名前だけしか分からないんじゃあ、お礼をしに行くにしても…。いつも集まっているグループの子供達なら、誰か知ってるかもしれないわね」


 二人は私を連れてグループのメンバーの子供達に優君の詳しいことを聞きに行ってくれた。でも優君がどこの親戚のうちに遊びに来てたのかは分からなかった。

 

 あの年代の子供たちは何処の誰かなんて分からなくても、気が合えばすぐに一緒に遊べる無邪気な時期だったかもしれない。


 千玖優と言う苗字と名前だけは分かった。両親も出来る限りのことをして探してくれたけれど、優君に会うことはできなかった。私がいるこの街で会うことは、二度となかった。



つづく


 シリアスは苦手…玲ちゃんごめんよ…


近況ノートに玲ちゃんの話の補足を入れるので、よろしければどうぞ

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