第10話 僕の彼女は〇っとお見通しだ!

 女の子の部屋に入ることなんて、一生に一度あるかないかだと思う。


 つまり今日が最初で最後かもしれない。なんて思いながらジロジロ見てはいけないと、緊張してクッションの上で正座している僕。


 部屋に招かれ、飲み物を用意してくるから少し待っててねと言われた。


 見ないでねとは言われてないけど、見ちゃいけないと思えば思うほど人って観察しちゃうよねぇ…と自分に言い訳しつつやっぱり見ちゃう。

 

 ベットに学習机、タンスがあり目の前の小さい折りたたみテーブル。


 玲ちゃんの部屋も年相応の女の子の部屋なんだろうけど、お洒落と言うよりくつろげるリラックス重視のインテリアがコンセプトなのかな。 


 リビングもそうだったけど、外からの光が入りやすい構造で全体的に明るい。


 今は夕暮れで光量が少なくなってきたのに照明や白基調の壁紙、工夫したインテリアで暗くなった感じがしない。

 そして静謐な空間っていうのかな? この家に入ってから、よその家なのに穏やかな気持ちになれる気がする。

 玲ちゃんもご両親も穏やかな性質で、この家がそれを体現するかのような…と、ぼんやり考えていた。


 ほどなくして、飲み物を載せたトレーを持って玲ちゃんは戻って来た。


「優君お待たせ。ティーって言う喘息や貧血にも効くハーブティなんだけど、口当たりがいいから飲みやすいよ」


NTRティー…我ながら重症だ…。


「ネトルティー…。ありがとう。いただきます」


「どうぞ。めしあがれ」 


 ティーカップを受け取り一口飲んでみると、香ばしく麦茶のようでスッキリと飲みやすかった。

 ひとごこちついたところで、浮足立ってた頭もようやく冷静になれたような気がする。

 

 本来の目的は、玲ちゃんと歩いていた男の人の情報を入手するために、玲ちゃんのご家族に会うこと。

 それがとっかかりになればっていう不純な動機だったけれど、玲ちゃんの家へ来てからそんなことは、僕に捜査官や探偵の真似事なんてできないんだってことがよく分かった。


 ここ数週間の自分の思考と行動に、罪悪感と情けなさだけが残る。

 

 後悔はしてない。


 ただ自分が問題に直面した時の解決方法は、正面突破以外の方法なんて学んで来なかったのに。

 自分を見失って下手な搦め手なんか使って…。僕は…怖かったんだ。

 

 ただ、怖かったんだ。

 

 記憶も曖昧な幼少の頃、それとも夢だったのかもしれない。臆病で全てを恐がってた子がいた気がする。

 名前も覚えていないあの子が、あんなに怯えていた気持ちは、今の僕のような心境だったのだろうか…。

 励ましたり慰めたりしてた気もするけど、自分のこともちゃんと出来ないのにホント何を偉そうに…今の僕じゃとても顔向けできないよ。

 

 なら…、


 僕のバイブルの主人公達なら、こんな時どうしていた?


 みんな。今さらながら思い出し、苦笑してしまった。


「…? 優君どうしたの? 苦かった?」


「いいや美味しかったよ。」


 玲ちゃんを見てから一度まぶたを閉じ、そして今度は玲ちゃんの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「………僕は玲ちゃんに、謝らないといけないことがあるんだ」


 そう言って今日、玲ちゃんの家に来た目的をすべて話した。

 

 玲ちゃんを都心で見かけたあの日、一緒に歩いていた男の人が誰なのかずっと気になっていたこと。


 いとこと言うのが本当なのか、もしかしたら別に好きな人ができて僕は浮気されたんじゃないか。それを突き止める切っ掛けのために、ご両親に会いに来たこと。


 他にも、友達に協力して貰って玲ちゃんの周りの情報を集めたり、部活を見に行ったのもその一環だったこと。


 そもそも僕は、玲ちゃんと吊りあうほどの男じゃないのに交際してることが不可思議で、浮気じゃなくて元々遊ばれてただけじゃないのかと、今日まで抱え込んでいた酷い被害妄想までも全部。

 

 「玲ちゃんがそんなことするわけがないと分かっているのに、僕は弱いから疑心暗鬼から抜け出すことができなかった。疑ってごめん。信じきれなくてごめん。ご両親にも申し訳が立たなくて。


 こんな情けない僕に三行半みくだりはんを付けてくれて構わない。それと今から、酷いことを言うよ」


 …胸が苦しい…あぁ…目が潤んできて…玲ちゃんの顔がにじんで見えて… 

 

 「もしも…もしも玲ちゃんに先にお付き合いしてる人がいて、僕が遊びの浮気相手だったり、僕より好きな人ができたのなら…別れて…ほしいです…」 


 そう言ってゆっくりと頭を下げた。ほんとに惨めで情けなくて、玲ちゃんを信じ切ることもできなくて酷い事を言って、…でもすがるなんてできない。


 大好きなんだ…。


 

 涙が、止まらなかった。




 長い沈黙の後…玲ちゃんは軽く息を吐いて僕に近づき


「もう…優君は小説の読み過ぎです。それとから謝罪はいりません。これはもっともっと、もーっと愛情表現を増やす方向にしないと…いけませんね」


 そう優しく穏やかに声をかけ…頭を撫でてくれた。



 顔を上げて涙目で玲ちゃんを見ると、玲ちゃんはハンカチを取り出して僕の涙を拭いてくれた。それから自分が知っていた経緯を話してくれた。

 

 屋上で相談してくれた日、僕が納得して疑いも晴れて良かったと満面の笑みを浮かべてたのに、翌週にはまたぎこちない感じになってたこと。


 部活に興味を持たなかった僕が突然武道場に来訪したり、友達のユイちゃんからのタレコミ? があって、もうこれはちゃんと誤解を解かなければ…と思ったのだそうだ。 


「ユイちゃんとイツキ君を、悪く思わないであげてね。二人で考えてくれた上で私に打ち明けてくれたの。それとイツキ君が、もしばれたら俺が責任を取るからって。土下座でも何でもしてあいつに謝るから、私にも知っていて欲しいって。優には大きな借りがあるから、恨まれてでもお前ら二人をよって。」


 イツキに貸しを作った覚えがないんだけど…。僕、若年性健忘症とかそんな怖い病気だったりするの? やだよ。こわいよ。ハピタグついてたよね? え? ついてない? 別のことでも泣きそうになる。


 「だから優君が今日うちに来たら、誤解を全部解くんだって気合を入れてたの。そしたら…ふふっ…出鼻をくじかれて…優君…玄関の前で百面相してるし。私の最初の意気込みなんか

 

 そう言って笑い泣きする玲ちゃんは凄く…物凄~く可愛かった。




つづく


似たもの同士なんです二人ともええ子なんです・・・




ネトルの花言葉は、残酷さ、根拠のない噂、悪口


ネトルの和名はセイヨウイラクサ、その花言葉は、




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