第8話 知らぬは本人ばかりなり
昨日の今日でさっそく、一緒にお昼ご飯を食べていた玲ちゃんに、ご両親へ挨拶に行きたいと伝えた。玲ちゃんはとても驚いていたけれど、嬉しそうに快諾してくれた。
「もうプロポーズだなんて、優君ったら気が早いんだから…」
「違うから! お付き合いさせて頂いてますの挨拶と、許して頂きたいですって許可? を貰いにだからね! 分かって言ってるでしょ!」
「優君慌てすぎ、ちゃんと分かってます。でも私は優君とお付き合いしてることは両親に伝えてあるし、許可も貰ってるので心配はいらないかな」
「そうなの? 女の子の親御さんからしたら、何処の馬の骨がって嫌がりそうだと思うんだけど」
「他所の家は知らないけれど、うちでは問題なかったかな。私が優君の良さをしっかりと伝えてあったし、それに…」
「それに?」
「ナイショ。とにかく、優君はリラックスして気負わずに私の家に来てください。お父さんとお母さんも、居てくれるようにしておくから」
人差し指を唇に当てるポーズがあざとい! あざと可愛いよ玲ちゃん!
でも、そのナイショも凄く気になるんですけどぉ…。
「…自分で言っておいてなんだけど緊張してきた…地震? なんか揺れてるような…」
「優君が震えてるの! もぅほんとに昔から緊張しぃなんだから…」
「…? 玲ちゃんに告白された時も緊張して震えてたけど、そんなに昔でも無いと思うんだけどなぁ…」
「…ん? あっ…えっと、ところで優君の小母様は戻られたの?」
「いや、まだなんだよね。もしかしたら今月いっぱい、父さんの所にいるかもしれない」
確か一週間くらいって言ってたのに、夫婦水入らずで楽しんでるのかも。
仲が良いのは喜ばしいんだけど、弟妹が欲しいかと言われると…欲しいかもしれない。どうなるかは神のみぞ知るかな。
「そっかぁ。私が挨拶に行くのも、もう少し先になるのかなぁ。それなら私が優君の家にお世話しに行ってあげる! 掃除に洗濯それと、お夕飯も作ってあげる!」
ブッと、口に含んでいたコーヒーを吹き出すところだった…。
「いやいやいや大丈夫だから自分で頑張ってるから!」
「遠慮しなくていいのに…私が行くと困っちゃうものがあるのかな~? それとも私が、なにかされちゃうのかな~?」
「ないから! しないから!」
なし崩し的に僕の家に、玲ちゃんが訪問することも決まってしまった。
玲ちゃんは、僕限定で無敵だ。
そして、玲ちゃんのご両親へ挨拶をしに行く日がやってきた。
休日の午前から訪問するのも慌ただしいと思ったので、現在午後二時。天気も快晴で気分よく歩いてこれた…はずもなく…。
自分の訪問理由を思い返すたびに、玲ちゃんとご両親に申し訳ない気持ちで…足が重くなる。
本当なら真摯な姿勢で挨拶しに行くべきなのに。心の中にモヤモヤする気持ちを抱えたまま、玲ちゃんの家の前についてしまった。
玲ちゃんの家は閑静な住宅街にある二階建ての一軒家。テレビで見かける‘‘せきす~いハウス~‘‘の、CMに出て来そうな新築だった。
確か玲ちゃんご家族は中学までは別の県で暮らしていて、お父さんの仕事の都合でこっちに引っ越して来たって言ってたっけ。
手土産として、岡山から取り寄せ限定の成田庵のうどんを選択した。
美味しいのはもちろんだけど、縁起物としてある界隈では大変重宝されているらしい。
なんでも復縁の神様が付いていて、子宝にも恵まれる伝説のうどんだとか…。
復縁の神様、…復縁するって一度別れてる人たちじゃん! 僕と玲ちゃんにとって縁起良くないじゃん!?
!? …僕は玲ちゃんを
もしや、すでに捨てられた…あと…
待って待って待って待って。
確かに復縁もの好きだし再構築大好きだけど、前提条件として別れるのが必須とか、自分が当事者になったら立ち直れないよ! 即死しちゃうよ! やだよ玲ちゃんとお別れって、ずっといっしょにいたいよ!
プルプルと膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に堪えその場で深呼吸する。
落ち着け。
自分で心を乱してどうする。平常心、平常心だ。
…心を落ち着けた僕は、覚悟を決めて玄関の呼び鈴を押した。
つづく
ほんともう、やることなすこと優君は…少し落ち着きなさい
とりあえず、人様の家の前での奇行は止めましょうね。
はてさてどうなることやら…
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