第3話 大丈夫

次の日、僕は学校に行くと昨日話しかけた女子に絡まれた。


「恵奈大丈夫そうだった?」

「うん、元気そうだったよ。」

「そっか、良かった。」


行かないのか

そう聞きたかったが、その言葉はのみ込んだ



授業中も僕は恵奈のことばかり考えていた。

きっと余命宣告されているのだろう

大学受験までの命

僕には何ができるだろうか

何も出来ないかもしれない

僕は必死で考えた



_____勉強もわかんないし


その言葉

昨日君がふと言った一言に僕は閃いた。

余計なお世話?そう思ったが

僕にはもう止められない。

それに、君に会う口実にもなるし..

今日の放課後、君に提案してみよう。

僕の考えはそこで止まった。





僕はいつも通り君の病院に向かい、病室に入る。

また来たんだって笑う君を見て

僕は笑って返す。

でも今日は少し違う

真剣な顔を見て君は身構える。


「あのさ、提案があるんだけど」


僕の一言が病室に響く

小さな部屋に僕の鼓動が大きく聞こえる


「なに?」

君も僕の緊張を感じ取ったかのように

真剣に答える


「大学受験、してみない?」

「え..?」


この質問は絶対に間違ってはいない。

君に聞けないことは沢山あるけれど

僕のこの発言だけは間違っていない

そう分かる


「いや、だから..私大学受験までには...」

「分からない、そんなのわかんないよ。」

「...分かってるの、お医者さんにも言われたし、自分だって..」

「未来なんて誰にも分からないよ、君にも僕にも、何が起こるか分からない」

「..でも、大学受験なんて、もし仮に生きれたとしても、勉強だって分からないし...」

「それは僕が教えるよ」

「え、..?」


正直自信なんてない。

僕だって勉強は苦手だし

でも僕が君に教えることで自信がつくなら

僕はなんだってする。


「僕も、君も、一緒に成長するんだよ。一緒に頑張ろう、怖くないよきっと」


君の手を少し握る。

その手は少し冷たくて

病室に一人でいる君の心も冷たいのかと考えると

僕の思いは止まらなかった。

一緒に頑張ろう

余計な一言だったかもしれないけれど

それでもこれは僕の本心だ

すると君の口が開いた


「..一緒に頑張ろうって...無理だよ、どうせ勉強しても、意味ないんだよ。」

「分からないって言うけど..もう、見えない未来に期待したくないの」

涙でいっぱいの目で訴えられた

「期待したくないって..」

「もういいから..」


そう言い僕に背を向けて寝転んだ

寂しそうな背中を見て僕は

「また来るから、気持ち整理してまた考えてみて。」

諦めたくなかったんだ

君はまだ生きれる、そういう所を君に見せてあげたかった。

'期待したくない'

その一言が僕の心の中に溶け残った。

君に大学生になって欲しい。

そう思い

僕は病室を後にした。


家に帰り、僕は夜ご飯も食べずに部屋にこもった

期待したくない

「期待したくないってなんだよ」

そう呟き

僕は目を閉じた。



次の日、重い体を起こして学校へ向かう

繰り返す毎日

僕には終わりがいつか分からない。

それに対して終わりが分かる君。

残酷だよなぁ、

神様は意地悪だ

生きたい人にあんな事するなんて。


重い足取りで向かった教室は

今日も笑い声で満ち溢れている

昨日の病室とは全く違う雰囲気に包まれて

僕は少し気持ちが緩んだ

僕も毎日病室に行って気が病んでいたのかもしれない。

今日は行かないでおこう、

そう心に誓い席に座った。


「お、翔ー!なんか元気ねぇな〜?」

「そうかな?元気だよ」

「勉強の追い込みも程々にしろよなー!疲れるぞ〜」

「っていうか、毎日あの子のとこ行ってんだろ?」

「..うん、心配だし、一人であの病室にいるのは寂しいと思うから。」

「そうか〜..余計なお世話だったりしてな笑」

「余計なお世話..」

「嘘嘘、俺だったら嬉しいよ笑」

「うん、笑」



余計なお世話か、

君はどう思ってるのかな

でも大丈夫だよ

今日は行かない

行かないでおくから。




そう思ってたけれど

僕の足は言うことを聞かない

病室に引っ張られるように足が軽々動く。

あんなに重かった足なのに


気づけば君の病室の前に来ていた。

開けようかどうしようか

悩みに悩んで、僕は静かに開けた。

いつもの君の声が聞こえない

嫌な予感がしてベッドに駆け寄った

すると君がいない

体調が良くないのか

もしかして..

嫌な妄想が広がる


すると扉が開いた

「もしかして私の事探してた?笑」

「生きてる..」

「生きてるよ、何言ってんのもう笑」

笑いながら話し、ベッドへ寝転ぶ


「..また来たの?」

「うん、また来た」

「大学受験はしないよ」

「僕は諦めないよ、だからここで勉強する。」

「ほんとその神経尊敬する」

「ありがとう笑」

そう笑って僕は小さい机にノートを広げて勉強し始める


最初は君も興味無さそうだったけれど

少し気になったのか

ノートを覗き込んできた


「どうしたの?」

「あまりにも真剣にしてるから、そんなに面白いのかなって」

「面白くは無いけど..分かると楽しいから」

「そっか」

「君もする?楽しいよ」

「私はやっても意味ないからさ、笑」

「意味はあるんじゃない?僕は恵奈と一緒にしたいよ」

「..受験ってまた言うんでしょ?」

「違うよ、恵奈と会話が広がるし、もっと話せるからさ。」


ちょっとでしゃばった返事で返してしまった

いつもはこんな事言わないけど

今日はなぜだがスラスラ言葉が出てきたんだ。

でも沈黙が続く

僕はすぐ言わなきゃ良かったなと思い君の顔を見ると

照れた顔をしていた。

「そ、そこまで言うなら..見とく..」

「ありがとう」

初めて見た君の表情

いつも笑いながら、でもどこか悲しそうだったけど

今は悲しさなんてどこにもない

僕でも見てとれた


「こ、こんな難しい内容よくできるね..」

「僕も苦手だよ、でも今やっとかないともっとわかんなくなる」

「そうだね..私には絶対無理だなぁ」

「教えてあげるよ」

「えぇっ、ありがとう..!」


断られると思ったが案外許可してくれた

大学受験は受けないって言ってるけど

心のどこかでは受けたいって気持ちがあるのかもしれない。

僕が君にしつこく言って嫌われても

君に少しでもその希望をもてるのなら

なんだっていいよ。

嫌われたって、大丈夫


僕はきっと大丈夫なんだ。

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