第2話 進む

あの出来事から数日が経ち

僕の進路もある程度決まってきた頃

君は僕の前から姿を消した。


突然の事で驚いた

いきなりいなくなるなんて


メッセージも送ったけど読むだけで返事が帰ってこない

でもまぁ、君にも何か事情があるのだろう

そう言い聞かせて気にしてないつもりだった。

いつもいる隣の席が空席で

僕はいつも以上に寂しく感じていた。




「ねぇ、城崎さんってさ...」

「いきなりだよね...?」

「大学のこともあるのに..大丈夫なのかな..?」

「私達は自分の事考えよう、?他の人の心配してる暇ないよ..!」

「そうだね、心配だけど..」



このことは普段目立たない城崎さん...

いや、恵奈の事だけど

少しの間話題になった。


僕もその話題に割って入りたかったけど

そんなことする勇気もないのでやめた。

どうせすぐ来るだろう

勉強のし過ぎで体調でも崩したのだろう

きっとそうだ





でも、数週間経っても恵奈は来なかった。

さすがに僕も焦って普段話しかけない女子に少し話しかけてみた。


「あのさ、君、恵奈と中学一緒だよね...?」

「え、?あ、うん..」

「恵奈..最近来てないけどなんでか分かる、?」

「あー...これ秘密だよ?それはね_____」



この時初めて知った。

恵奈が小さい頃からの病気がまた再発したと

僕は心配よりも

なんで僕に話してくれなかったのか、そこが気になった。

でも、僕が思うにはきっと、進路も決まってない僕に自分の心配をさせてはいけない。そう思ったのかなって思う。

君は優しいからな。

そう、小さく呟いた。




その日の放課後、僕は迷惑かもしれないが

恵奈の病院に向かった。

きっと迷惑になるかもしれない、でもこのまま顔を合わせないのはなぜだか心残りだ

聞きたい事も沢山ある。


病院、僕は体調を崩すタイプではなかったから中々来なかったけど

恵奈にとってはよく来てた場所。

僕は恐る恐る君の病室を聞き、向かった。


もし、このことがきっかけで恵奈に嫌われたらどうしよう。

君に怖い思いをさせたらどうしよう。

そんな思いがふとよぎったが

僕の足はそんな思いを跳ね除けて病室に向かっていた。


扉の前で深呼吸していざ扉を開ける。

その手は少しばかり震えていた、会いたいという気持ちの中にも小さく怖いという感情があったのかもしれない。


改めて扉をノックし、開ける


「恵奈、?」

名前を呼んだ

「翔くん..?」

久しぶりの君の声

声を聞いたら抑えてたものが全部込み上げてきた

でも泣きたいのは恵奈の方だ

そう思ってギリギリで耐えていた

「どうしてここがわかったの..?」

「ごめん、友達から聞いたんだ」

「最初はただの風邪だと思ってたけど、あまりに来ないから..」

「ごめんね、心配かけちゃった」


平気な顔して笑う君の腕には

痛々しい注射の跡

点滴のチューブ

平気ではない証拠が残ってた

でも「平気じゃないんでしょ?」

なんて聞けない。


「なんで言ってくれなかったの」

今にも泣き出しそうな震えた声で言った

「いやぁ..翔くん心配するかなって思って、進路も決まってなさそうだったし」


やっぱり予想が当たっていた。

君はいつまで人に気を使うつもりだろうか

君が心配だ


「君こそ決まってないんだから..」

「私はいいの、」

「良くないよ!」


僕の一言で病室が静まり返る

聞こえるのは機械の音

恵奈は寂しそうな顔をして

申し訳なさそうにこう言った


「ごめんね、私にはわかるんだ。」


僕には分からないよ。

出会った時から君は不思議でたまらない

会う度に、話す度に君の初めて見るところが出てくるし

分からないことだらけだ

なのに、君は分かるなんてずるいよ。


「とにかく、翔は自分の将来のことだけ考えて?大学どこにするかはやく決めないと」

「..わかった。」

「でもなんで分かるの..?」

「..」

初めて聞けたかもしれない

君の不思議を1つ知る時が来たのかもしれない。

少し怖くて

この沈黙が鉄のように重くて

苦しい。

すると君が口を開いた。


「私、お医者さんに言われてるの」

「大学受験は厳しいんじゃないかなって、笑」

「私、ずっと休んでたし勉強もわかんないし、それに病気のこともあるし..ねっ?」

「だから私はいいの」


しばらく沈黙が続いた後、僕は口を開いた


「そんなのわかんないよ..」


ここまで考えた言葉がこれだなんて

君には重荷かもしれない

分かりきっている答えを否定されるなんて

おかしな話だ。

でも僕は思うんだ。

わかんないじゃなくて、分かりたくないんだって

君を分かってしまうといつか君が消えていってしまいそうで怖い。


「..わかんないね。そうだね笑」


呆れたような笑い方で笑う君

君も心のどこかでは、分かりきった答えを認めるのが怖いのかもしれない。


今日はもう帰ろう。このまま一緒に居たら僕がダメになりそうだ。


「いきなり来てごめん、今日は失礼するね」

「あ、うん、わかった。ありがとう、久しぶりに会えて嬉しかった」

「うん、また来るね」

「またね..」




またね

その3文字を言葉にする君はどこか苦しそうだった。










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