喜べない春になりました。

CHIKUWA

第1話 君はどうして

「お前行く大学決まったの?」

「俺は家から近いとこの大学かなーって」

「お前は______」



皆が進路の言い合いをしている中、僕はまだ決まっていなかった。

母さんには家から近いところにしなさいだの、父さんには一人暮らしでもいいだの言ってくるけど

ぶっちゃけ就職しやすくなる所ならどこでもいい。

どこに行こうか..

そう考えてる時

僕の隣の女の子が


こう言った。


「..受験..いいな...」


僕はこの言葉の意味が分からなかった。

何がいいんだ?

僕は元々頭が悪くて高校受験には苦労した

毎日勉強漬けで二度としたくないと思ってたけど、今年もこの季節が来たって辛くなってたのに

何がいいんだ

推薦か...?


僕の中で沢山の考えが頭に出てくる。

まるで頭の中の辞書をペラペラめくるように

でも、僕の辞書には載ってなかった。

君の頭の中の辞書には何が載っているんだ

そう思ったけど

今は聞かないでいた。



少したって、大きなチャイムと共に先生が入ってきた。


「はい、おはよう」

「今日は_____」


先生が話しているあいだも

僕はさっきの君の言葉と

行きたい大学

それが頭の中をグルグル駆け巡る。

君の一言が受験に響かなければ良いけれど

最終的にはその考えに至った。



そして今日の三限目は進路について考える時間になった。


僕はすぐに君の方を見た

君は悲しそうな顔をして、でもどこか希望に満ち溢れているような

不思議な感じがして

僕は見とれてしまった。


暑い視線を感じたのか、君はこっちを向いて

「どうしたの..?」

そう声をかけてきた。

僕は無意識に見ていたから..

不意に声をかけられて少し焦った。

「あ、なんでもない..」

「そっか、行きたい大学決まってるの?」

「行きたい大学..僕はまだ決まってない、君は?」

そう聞いた途端

君の顔に霧がかかったように曇った

この質問は間違えただろうか

僕が二言目を話そうとした時、君の口が開いた

「私は..ここから近くの大学に行こうと思ってるよ。ほら、私、音楽好きだし」

霧がかかった隙間から引き出した笑顔が

自然のようでぎこちなかった

「そうなんだ、音楽好きなんだね、初めて知った。」

名前も知らない、高校三年生で初めて話すにしては

話が溢れだしてくる

「そうだ、私の名前、城崎恵奈。君は?」

「僕は鈴野翔」

「翔くん、よろしくね」

「よろしく。」


高校三年生にして友達が出来た。


「なぁ翔、大学決まった?」

僕の仲良い友達が話しかけてきた。

「僕はまだ決まってないよ、やりたいこととか無いし..」

「もったいねー、俺は保育士になりたいと思って!」

「保育士、いいかもね。似合いそう」

「だろ!?我ながらそう思う」

「そうだね笑」


「ふふっ..笑」


隣から笑い声が聞こえる

笑い声が聞こえる方を向くと君が

あの、ぎこちなかった君が嘘のような笑顔で笑っていた。

「仲良いんだね、」

「うん、中学からの友達でさ」

「いいね、私中学の友達は全員離れちゃって」

「そうなんだ、大変だね」

「でも..もう終わりだし、大丈夫。」

「あー..そうだね、。」


君の話には所々引っかかるところがある

不思議で

でも何故か聞き出せなくて

僕の中には不思議な君が居座ったまま

そんな君が魅力的で

高校三年生最後の恋をしてもいいかもしれない..

とか思ったり...


「翔、狙ってんの?」

「ち、違うよ..!」







お昼の時間になり僕がお弁当を食べようとした時

「翔くん、一緒に食べない?」

君が声をかけてきた

「私、仲良かった子と離れちゃってさ」

「仲良かった子は別の子と食べるから、食べる人いなくて..」

君は気まずそうに話して、僕の反応を確かめるように目を見つめた

「いいよ、僕も基本一人だし」

そんな目で見つめられて断る人はいるのだろうか?

疑問だったけど、もちろん許可した。



「じゃあここ失礼するね。」

「うん、いいよ」

僕の前に机をつけてお弁当箱を開く

「いただきます。」

僕もお弁当箱を開いていただきます、そう言い食べ始めた。


「君のお弁当、健康的だね、野菜も沢山入ってて」

「うん、体には気をつけないと、すぐ体調崩しちゃうから。」

「そうなんだ、彩り良くて綺麗だね。僕好きだよ」

「ありがとう、笑なんでも褒めてくれるね」

「そうかな..?笑」

少し照れて言う

君は慣れているのか、僕をからかうように笑っている。



やっぱり君は不思議だ。

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