第2話 扇台中最恐グループに目をつけられた少年
名古屋市緑区の市立扇台中学三年生の大矢正彦(仮名)と赤井英二(仮名)のグループは二年生のころから同校内外で暴れてきた札付きの不良グループだ。
一年生の頃は上級生に暴行されて金を脅し取られたこともあったが、二年生になってグレ出してからはだんだんと彼らの時代になってきて同級生や下級生を暴行したり恐喝する側になり、三年生になるや扇台中学は彼らの天下となった。
学校の中では同級生を暴行して金を脅し取ったり、ケンカをさせたり万引きをさせたり、学校の外では小学生を蹴飛ばしたり、バイクを盗んで乗り回したりと悪事の限りを尽くし始める。
また、他校の不良とも横のつながりがあり、緑区内の別の中学校や中区の中学校の不良たちとも悪のネットワークを築く。
当然彼らは二年生の頃から扇台中学校の一般の生徒たちに恐れられていた。
彼らと同学年だった神谷一成(仮名)もその一人である。
特に二年生だった1998年の夏、大矢と赤井の二人が同級生を殴っているのを目の当たりにしてからより恐怖心を抱くようになった。
そしてあろうことかこの時、大矢は自分たちにビビったと見た一成にも目をつけていたらしい。
しばらく後に一成のもとにやってきて「ちょっと金貸せて」と凄んできたのだ。
彼らが怖くて怖くて仕方がない一成は五千円をあっさり渡した。
逆らったら何をされるか分からないからこれくらい安いもんだ。
この五千円で買えたのは二年生を修了するまでの約半年間の安全な学校生活だった。
しかし、それから先の三年生になってからは安全が脅かされ始める。
大矢たちはすでに一成を有力なカモの一人とみなしていたようなのだ。
新年度が始まった1999年4月、大矢たちは一成をマージャンに誘う。
一成は中学生だったのでマージャンにあまり慣れていなかったし、すでにスレ切っている大矢たちのいかさまに気づくこともなく大負け。
大きなツケを作ってしまったが、この時はまだ激烈な追い込みをかけられたりはしなかった。
大矢たちの態度が変わるのは6月の修学旅行でのことだ。
扇台中学校三年生の生徒たちの旅行先は長野県の車山高原、6月1日、2日、3日の二泊三日の日程である。
そんな一生の思い出になるはずの修学旅行中のホテルでの立食パーティーで、一成の楽しい旅行が強制終了となる出来事が起こった。
「コラ神谷!テメー俺の帽子にナニしてくれとんだて!!」
同じく修学旅行に来ていた大矢と赤井ら不良グループ数人が一成に因縁をつけて囲んだのだ。
なんでもジュースをこぼして帽子にシミがついたというのであるが、言いがかりであろう。
「高けえんだぞこの帽子よう!!」
「どう落とし前つけんだてコラァ!!」
「クリーニング代五千円払えや!!」
「オラ!何か言えて!ボケぇ!!」
震えあがった一成を不良グループは立て続けに怒声を発して脅しあげる。
同級生たちも静まり返り、遠巻きに見守るだけだ。
楽しい会場は一気に凍り付いていた。
「ちょっと!やめときゃーて!」
一応担任の女性教師が止めに入ってその場は収まったが、一成の受けたショックは甚大だった。
彼は悪夢の修学旅行から帰ったとたん不登校になってしまったのだ。
だが、これは始まりに過ぎなかった。
一人の中学生が寄ってたかって五千万円もの金をむしり取られるカツアゲ無間地獄の本番はこれからだったのだ。
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