第9話 特権階級な扱い


店内に入った。


中に入ると狭い通路があって、その横に受付のカウンターがあるようだ。


「いらっしゃいませなのですー」


ボロボロのカッコウをした女の子が出迎えてくれた。


(猫耳……獣人ってやつなのかな?)


俺はカウンターに近寄った。


「何泊するおつもりなのです?」


女の子は机の上にメニュー表を出してきた。

ボロボロで黄ばんでる。


もう既にこの宿屋がどれだけやばいかが分かる。



【宿泊プラン】

・デイリーパック     500イェン

・3日パック       1300イェン

・ウィークリーパック   2800イェン

・マンスリーパック    4000イェン(大特価!)



(マンスリーパック安すぎるな)


「このマンスリーパックってどれくらいの人が利用したか教えてもらえる?」

「今までで0人なのです」


(誰も利用したことがないのか)


女の子は続ける。


「みなさんデイリーパックでこの宿屋を経験すると二度と来なくなるのです」


女の子は部屋の方に目をやった。


「今も誰も泊まっていないのです」


「よくそれで営業できるね」


「なんとかなのです」


ガックリと肩を落とす女の子。


別に同情するわけではないんだけど。


俺はカウンターに金を出した。


「とりあえずデイリーでお願いできるかな?」

「はいなのですっ!」


女の子はカウンターの中から出てくると俺の前に立った。


「案内してくれるんだね」


こくっと頷いて女の子は俺の宿泊する部屋まで案内してくれた。


どうせ、ボロい部屋なんだろうなぁと思ってたんだけど。


「ここなのです」


ガチャ。

意外と綺麗な扉で。


意外と綺麗な部屋に案内された。


「思ってたのと違う」

「この宿で一番いい部屋なのです」


胸を貼っていた。


「普段なら追加料金なのですが、サービスなのです!」

「ありがとう」


部屋の中に入ると照明を付けたりしてみたが、どうやら普通に使えるようだ。


女の子はとある方向を指さした。


「あちらには一応温泉がありますなのです」

「一応ってどういうこと?」

「案内しましょうか?」


女の子が案内してくれるそうなので俺は部屋を出てついて行く。


最近湯船に入れていなかったから是非とも湯船には入りたいところだ。


あと、服もくさいんだよな……。


俺この異世界に来てからずっとこの服で生活してるからな。


寝る時も訓練する時も同じ、なのでいい加減洗いたいし着替えたい。


やがて温泉の脱衣場前までたどり着いた。


のれんを潜ると脱衣場。


そして、その先には。


「あれが温泉に繋がる扉なのです」


ガチャッ。


女の子が扉を開けると……


「この宿最近客来ないねー?」

「あんたが好き放題やりすぎるからでしょ」

「言えてるー。きゃははは」


誰もいないはずの温泉から甲高い女の声が聞こえてきた。


なにこれ。ホラー?


「客いないんじゃなかったっけ?」

「客はいません」

「なんの声?これは」

「サキュバスなのです。この宿はサキュバスに占領されているのです。毎日のようにサキュバスが勝手に温泉に入っているのです」


バタン。


女の子が扉を閉めた。


「サキュバスたちに存在を悟られないためにも温泉に入るのはやめた方がいいと思うのです」

「そうだね。今日はシャワー程度にしておこう。部屋にあるよね?」

「はい」


俺は部屋に戻ることにした。


部屋に戻る前に女の子が宿の戸締りをした。


それから聞いてくる。


「私も一緒にいましょうか?意味がある行為なのです」

「どんな意味があるの?」

「サキュバスは女の匂いがする方向にはきません。襲われる可能性も下がるかと」

「じゃあお願いしようかな。それとさサキュバスに襲われるとどうなるの?」


女の子は部屋の中にあった水晶を指さした。


「とりあえず現在のステータスを測ってもらえますか?」




名前:五条 イツワ

レベル:1

攻撃力:1

防御力:1


スキル:剣術E 体術E


称号:剣士見習い


状態:なし




女の子は状態という部分を指さした。


「ここに【だるい】というデバフ状態が付与されます。効果は文字通りステータスダウン。倍率は50%~90%のランダムなのです」


なるほどな。


(けっこうデバフが痛いんだな。金払ってデバフを貰うのか。道理で悪ガキに金盗まれた方がマシってわけね)


この宿でこれからも生活するならサキュバス対策は必須か。


女の子に聞いた。


「洗濯出来る?着替えの服あったりする?」

「両方イエスなのです。着替えはクローゼットの中にあります。洗濯はこちらでしましょうか?明日には乾いてると思います」

「お願いできるかな?」


クローゼットの中を覗いた。


すごく安そうな服が入ってる。ボロい布を服の状態にしただけのような服だ。


(まぁ、ないよりはましか。全裸ではいられないし)


俺はそれを取ると今着ている服を脱いだ。


洗濯カゴの中に放り投げるとシャワー室に入ってから声をかけた。


「今脱いだ分洗ってもらえる?」

「了解なのです!」


シャワー室に入り頭から水を被った。


(あの子の話によるとサキュバスは男の匂いに寄ってくるらしいし、丁寧に体は洗っておこう)


そうして体を洗っていると……。


ピロン。


(ん?)


視界にウィンドウが出てくる。


【称号を獲得しました】


「称号……?」


怪訝に思いながらウィンドウに触れようとしてみたら、表示が更新された。


【称号:勇気ある宿泊者】


「なんだ、これ」




名前:五条 イツワ

レベル:1

攻撃力:1

防御力:1


スキル:剣術E 体術E


称号:剣士見習い、勇気ある宿泊者


状態:なし



勇気ある宿泊者:

・宿泊にかかる費用が永続で1%ダウン

・宿で宿泊すると時間経過で経験値を獲得可能(60分で1EXP)




「うおっ、まじか」


これは、なかなか優秀な称号を獲得したのではなかろうか?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る