第8話 モブ(?)の冒険者登録
オッカマさんからいくらかの軍資金をもらって俺は街に出発した。
現在時刻は夜の8時くらい。
そろそろ泊まるところを探したいが、何処で泊まったものか……。
いや……
(情報集めも兼ねて先に冒険者ギルドに向かうか)
オッカマさんから冒険者ギルドの場所については聞いてるしな。
ちなみにだが、もちろんオッカマさんからいろいろ情報を聞き出そうとはしたんだけど、あの人は冒険者関連のことにそこまで詳しくないらしく、ギルドへ行った方がいいとの返答をもらった。
というわけで冒険者ギルドへ向かうことにする。
たしか、
(一番後ろに盾のマーク、その前で剣と魔法の杖が交差しているマークの建物、だよな?)
しばらく歩いてると目的の建物が見つかる。
「ここか」
ガヤガヤ。
中から人がゾロゾロ出てくる。
「初めてのダンジョンワクワクするぜぇ」
「おれたちもいずれSランクになれるといいよなぁ」
そんな会話をしながら男たちはギルドから出てきた。
どうやらこいつらも俺と同じく冒険者になりたてなようだ。
彼らはダンジョンの方に向かっていった。
俺は入れ違うようにギルドの中に入った。
ガヤガヤ。
訓練所とは違うことは一目で分かった。
何倍も何十倍も喧騒がした。
ここには何十人もの人が集まっている。
(異世界の冒険者ギルドって感じがするよな)
ギルドは入ってすぐのところがちょっとしたホールになっており、その奥がカウンターだ。
いわゆるクエストを受けるためのカウンターだろう。
俺は騒がしいホールを抜けて奥のカウンターに向かった。
常に順番待ちが出来ているようで並ぶことになった。
「次の方ー」
どれくらい待ったかな?
多分五分くらい。
俺の番になると受付嬢が俺を呼んでくれた。
金色の髪をショートカットにした女性だった。
俺を見て何かに気付いたらしい。
「異世界人の方ですよね?」
(あー、やっぱ分かるんだ)
俺は頷いて彼女に例の封筒を渡す。
「お待ちくださいね」
ガサッ。
封筒の中を開けていく。
ジーッと目を通していた彼女の目が見開かれた。
驚いているっぽい。
「なるほど、なるほど。へぇ、あのオッカマさんにここまで言わせるなんて。ふむふむ」
「あのー?」
なにか余計なことでもしてしまっただろうか?
そんな不安もあり、声をかけてみたのだが。
どうやら違ったらしい。
「すみません。ではさっそく冒険者ギルドへの登録を済ませてしまいましょう」
彼女は作業をしていった。
俺がすることはないのか女の人の作業だけで冒険者登録は終わった。
「こほん。これで終わりです。もろもろの詳細な説明ですが、時間もかかりますし明日でもよろしいですよね?」
「はい。もう深夜ですしね」
スッ。
女の人はカウンターにギルドカードを置いてこちらにスライドさせてきた。
「ギルドカードになります。決して無くさないようにしてください。再発行には手数料などいろいろかかるものも多いですから」
「分かりました」
「それからこちら」
スッ。
「こちらもお持ちください」
彼女が俺の方に出してきたのは銀色のプレートだった。
そこには【ゴジョウ イツワ】と書いてある。
俺を識別するプレートのようだが……。
3枚出てきた。
「ドックタグと言うと分かりますか?我々も安全には気を使っているので基本的には必要ないアイテムなんですけど、それでも一応配布しているのです」
(それって、軍の兵士が持つ個人を識別する用途のアイテム、だよな?)
俺はそれを受け取って思った。
(この世界やっぱけっこうシビアな世界なのかもな)
まぁ、俺が無能なのが悪いんだけど。
Eランク冒険者「この世界厳しすぎるよっ!」
って言ってるようなもんだし、当たり前の話だよな。
さて、次の情報を聞こうか。
「お姉さん、この辺りで宿を探しているんですけど、オススメとかはあったりしますか?できれば安い方がいいですけど」
受付嬢はカウンターにリストを出してきた。
【宿屋リスト】
・ヘブン 10000イェン
・チェリー 8000イェン
・ガッテン 6000イェン
・グリッド 4000イェン
といったふうに宿屋のリストが並んでいた。
「上から高級宿になっております。下に行くにつれ、低価格の宿になっています」
俺は一番下の宿の名前を見た。
「この、【ストロベリー】って宿屋が一番安いんですよね?500イェンって書いてるし」
「そうですけど、そこは……」
「ここがどうかしました?」
「出るんですよね」
「出る……?」
首を傾げた。
この世界にも幽霊みたいなものが出るのだろうか?
ちなみに俺は幽霊というのは割と信じていたりする。
「サキュバスって分かりますか?出るんですよね」
「サキュバスか……分かるけど。攻撃とかはしてこないんですよね?」
「してこないですけど、翌朝大変みたいですよ。冒険者の方々がよく言っているのを聞きます」
「攻撃してこないならここでいいや。(安さには勝てない)どこにありますか?」
アクビが出そうになったのを堪える。
さっきからけっこう眠いんだよな。
「この建物を出てもらって右に曲がって……」
・
・
・
受付嬢の説明通りに歩いてみるとそこに宿屋はあった。
「ここか」
路地裏にその建物はあった。
ド直球に言うと小汚い建物だった。
俺が建物の前に立ってると
「ヒック、ヒック」
酒臭い男が表通りの方から歩いてきてた。
「よう、兄ちゃん。ヒック」
かなりベロンベロンの薄汚いおっさんだった。
「ここに泊まるのだけはやめといた方がいいぜ、俺らみたいな浮浪者も泊まらねぇからな。まじでひでぇぜ?この宿は」
「そんなにひどいんですか?」
「ひでぇよ。この宿はサキュバスが出やがるからな。公園で寝た方がマシだぜ?たまに悪ガキに金パクられるけどな。がはははは」
「まるでパクられた方がマシって言い方ですね?」
「当たり前よ。サキュバスに毎日会うくらいなら悪ガキに金やった方が世のためになるってもんよ。ぶはははは」
豪快に笑っておっさんは表通りへ向かってった。
「とりあえずお試しで泊まってみよう」
とにかく眠い。
今日はとりあえず寝てしまおう。
本当は一番ランクの高い宿に泊まりたいんだが……。
俺の現在の所持金は10万イェンである。
この先何があるか分からないし贅沢はできない。
できるだけ金が必要ない場面では節約したい。
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