第5話 新スキルの覚醒



翌日。


誰もいない練習場でひとり朝から練習をしていた。


俺はこの時間が一番好きだ。


(他に誰もいない。うるさい声も聞こえない。練習するにはこれ以上ないコンディション)


ブン!

ブン!


剣が風を切る音がよく聞こえる。


そうしてひとりきりの練習をしていると……


「おはよっ、ふぁ〜」


昨日も聞いた覚えのある声。


「シルキーか」


「むにゃむにゃ、朝早いね」


あくびしながら目を擦ってる。


「時は有限。とにかく、練習、練習、練習、次に練習だ」


「ふーん。って、練習しかないけど?聞き間違えかな?」


素振りしながら会話をしていると段々呼吸が荒くなってきた。


「はぁ、はぁ」


「息荒いね」


「動きながら、会話してるとさすがにな」


俺は無能だ。

日本にいた時もマラソンしながら誰かと会話なんてことは出来なかった。


それと同じで剣を振りながら会話なんてできない。


「そういえば、あなたの名前聞いてなかったよね?」

「イツワ」

「ふ〜ん。じゃあイッツンって呼ぶ」


イッツンか。

そんなあだ名つけられたの初めてだな。


俺はふと時計を見る。


朝の9時だ。


「昨日来たの11時くらいだったよな?2時間も早いなんて。どうしたんだ?」

「ちょっと……」


「ちょっと、なんだ?」


「なんでもいいでしょ」


つーん。


なんか素直になってくれないみたいだが、そういう年頃なんだろう。


と思ってたら、ボソッと呟いた。


「イッツンが頑張ってるの見てたら私ももう少し頑張ろうかなって思って」


(俺に影響を受けたってことか)


まさか、意外だったな。


あんなにサボりたがっていたのに。


「だから一緒に訓練したいなって思って。それに2人1緒なら新しい技とかも見つかるかもっ」

「例えば?」


「うーん」


頭を悩ませたシルキー。


「私アサシンって言ったじゃん?」


すー、はーっ。


分かりやすく深呼吸をしてた。


「アサシンには特別な呼吸方法がある。やり方を教えてあげる」


「そう言われても俺にできるのか?」


「きっと、できるよ。そんなに難しいものじゃないし」


そう言ってシルキーは俺に暗殺者独自の呼吸法を教えてくれることになった。


俺たち人間は通常呼吸の仕方がすー、すー、すー、だと思うけど。


アサシンはスースースー、スーって感じにするらしい。


こうして呼吸している間は体が疲れにくくなるそうだ。


「習得できたら体感のスタミナ消費量はなんと1/2だよ」


「それはいいな。スタミナ消費量が半分ってことは練習が2倍できるってことだもんな」


「結局、そうなるのね」


顔が引きつっていたシルキーだった。


そうして俺は呼吸法を練習しながら剣を振ることにした。


ブン!


「ん?」


すぐに違和感に気付いた。


「どうしたの?」

「いや、体が軽い感じがした」


「もう習得したの?」

「いや、分からないや。分からないからもっともっと練習してみる」


そうして練習を初めて数時間が経過した。


時刻は18時だった。


ちなみに16時になった時点でシルキーは近くの岩に座って休んでた。


今日はもう終わりらしい。


俺と言うと必死に素振りをしていたのだが。


(ふむ。いつもより体が疲れていないな)


いつもなら18時時点でかなり疲労していたのだが……。


(まだまだ体が動かせそうな感じがする)


まだまだイケそうな感じもするんだが……。


(今日はもう切り上げようか)


俺は剣を収めた。


「あれ?もう終わるの?」


座って休んでいたシルキーが目をぱちぱちさせる。


驚いているんだろう。


「もう終わっちゃうの?まだ18時だよ?」

「今日は少し他にやりたいこともあってな」


それと気になっていたことがある。


ここで素振りをしてもレベルが上がっていないようだからだ。


(ここでこれ以上素振りをしても、意味が無いかもしれない)


ということで、狩場……というか練習場所の変更の相談をオッカマにしようと思っていたのだ。


俺は冒険者になるわけだし、スキルランクばかり上げるのではなくレベルも上げないといけない。


そのための訓練が必要だ。


素振りをして基礎もばっちりとなったわけだし。


(次はレベル上げだ)


俺はそう決意して訓練所に向かっていくことにした。


「ま、待ってよーイッツーン」


訓練所の中に入ると夕食を食べながら俺はオッカマに相談することにした。


「オッカマさん。そろそろレベルの方もあげたいと思ってる。もう素振りは十分したと思う」


オッカマは苦笑しながら言った。


「たしかにそうね。あなたは十分すぎるほど素振りしたわ」


それからこう切り出してきた。


「そういえば私まだ訓練所のあとの話をしてなかったわよね?」


「はい」


「訓練所を出るには私の認可が必要なの。で、レベルを上げるためにはとりあえず訓練所を出てもらうしかないのよ」


ここにいてもレベルは上げられないということか。


とりあえず外に出る必要があることは分かった。


「どうやれば認可はもらえますか?」


「ズバリ、テストよ」


(まぁ、そうだよな。予想通りの言葉だ)


そのままオッカマがテストについての説明をしてくれる。


「テスト内容だけど実際にモンスターを倒してもらいます」



スッ。


俺に試験内容が書かれた紙を渡してきた。



【訓練所卒業試験】


内容:ゴブリンの討伐

場所:練習場の森



(初日に見たあの森のことか)


「いつもなら一人で挑んでもらうんだけど」


チラッ。


オッカマはシルキーに目をやった。


「今回はこの子といっしょに受けてもらえるかしら?この子もそろそろ受けていい時期だから」

「分かりました」

「良かったわ。じゃあ試験はいつにしましょうか?」

「明日でいいですよ」

「分かったわ。じゃあ明日の朝10時。ここで待ってるわね」


シルキーに目をやったオッカマ。


「シルキーちゃんも寝坊しないようにね。あなたいつも起きるの遅いから」

「うん!」

「絶対、寝坊しないようにね」

「しないよっ!」


俺が部屋に戻ろうとするとオッカマが話しかけてきた。


「イツワちゃん、試験前にステータス測定とかどう?」


その顔は妙に楽しそうに見えた。


「そうですね。やってみますか」



【総獲得ポイント+1000】



剣術のランクが上昇しました。


剣術E→剣術D


【スキル:体術:Eを獲得しました】


(アサシンの呼吸を覚えたからかな?)




名前:五条 イツワ

レベル:1

攻撃力:1

防御力:1


スキル:剣術E 体術E


称号:努力の剣士見習い



剣術E:剣術で与えるダメージアップ


体術E:各種行動で消費するスタミナ減少、連続でできる回避行動回数+1

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