第4話  早朝練と努力の成果


6時間後。

朝6時。


俺は目を覚ますと剣を持って練習場に向かう。

前日に確認を取ったが、いつでも好きに使っていいそうだ。


はぁ……


息を吐く。

白い。


異世界でも朝というのは少し寒い時間帯らしい。


俺はそんな中で素振りを始めた。


俺にやれることなんてこれくらいのことしかないんだから。

誰に言われるでもなく今日もマジメに素振りを行う。



お昼頃だろうか。


飢えには勝てなかった。


俺は素振りをやめて、携帯食料を食べることにした。


ちなみに、昨日腹減ったら食えと渡されたものである。


座って飯を食おうかと思ったが座る場所を探すのも面倒なので立ったまま食べる。


もぐもぐ。


そうしてると声をかけられた。


「うおっ?まじで?立って食べるの?」


声の聞こえた方を見ると、今の俺と同い年くらいの女の子。


「ひょっとして訓練所の人?」

「うん。あたしはシルキーって言うんだ」


ニィっと笑ってくれた女の子。


褐色の肌をしていて灰色の髪の毛をした女の子。


完全な偏見だけど、アサシンやってます!みたいな女の子だなって思った。


「ねね、あたしのジョブ当ててみて」

「分かんないな。なに?」


「ジョブはアサシン!」


どうやら、俺の偏見は当たってたらしい。


「なんで、俺に話しかけてきたの?」

「立ったままご飯食べるんだもん。変わってるもん」

「座るのが面倒なだけ」


携帯食料を食べ終わる。


食べた後に出たゴミはその辺にとりあえず置いておく。


邪魔だから後で持って帰ろうと思ったのだが。


「あー、それはね。【ファイア】」


ボウッ。


シルキーがゴミを燃やしてくれた。


「こうやって燃やしちゃえばいいよ」


お礼を言うとまた剣を手に持った。


そして、素振りを再開。


「って、まだ素振りやんのかいっ?!」


ビシッ!という勢いでシルキーが突っ込んできた。


「何を言ってる?とうぜんだろう」

「えーっと……なにがとうぜんなの?意味不明なんだけど」


シルキーはワタワタとしながら人差し指を訓練所がある方向に向けた。


そこにはたくさんの訓練兵の姿があった。


ゾロゾロと歩いて訓練所に戻ろうとしている。


「もうみんな止めようとしてるよ?訓練なんて。疲れないの?」

「だから?」

「あなたはやめないの?って思って」


シルキーは自分の訓練のメニュー表を見せてきた。


「あたしのもそうだけど普通三時間の訓練で終わるようになってるんだよ?」


ふむ。


たしかにそうだったな。

正直言って今日の分の訓練メニューはもう終わってるんだよな。


昨日も同じだ。ていねいにやっても30分ほどで、メニューにあった訓練は終わったし。


俺はかなり多く素振りをしていたことになる。


だが、とりあえず素振りをしながら話を聞くことにした。


「ちなみにだが、今上がっていった人達はこれからなにするんだ?」

「遊んだりするんだって。あたしもゴロゴロしたりしてるよ」

「ちなみに冒険者っていうのはみんなそんなものなのか?」

「そうだよ?冒険者なんて一日4時間くらい働いてあと食べたり遊んだりゴロゴロしてるだけだよ?」


ふむ。


どうやらこの世界の冒険者っていうのは、かなりゆるゆるしてるらしい。


「それはいいことだな。フッ」


思わず口元が緩んで微笑んでしまった。


シルキーも顔をパァっとさせてた。


「よかったー。だからやめようよ。過労死しちゃうよ過労死」


「この程度で過労死なんてしないさ」


「えっ?」


俺は素振りを続行。


それどころか、素振りする手にさらに力を込めていた。


ブン!

ブン!


「えっと、やめないの?」


「やめない」


「話は聞いてたんだよね?」


「聞いてた、うんとかすんとか言って受け答えはしてただろ?」


ポカーン。


口を開けてた。


「それで出した答えが素振りの続行?」

「そうだよ。見ての通り」


ブン!

ブン!


口を開けて「あははは……まじか」と呟いてたシルキー。


「よそはよそ、うちはうち、ってやつ。他の人がやめたからと言って俺は早上がりはせん」


「そ、それじゃぁ。ごゆっくり〜」


シルキーはそそくさと歩いていった。


俺に引き止められるとでも思ったのかもしれないが。


さすがに他人に強要するつもりはない。



朝起きて剣を振り続けて実に16時間ほど経過したと思う。


「げっ、真っ暗かよ。もうこんな時間か」


一応昨日の反省も踏まえて夜10時くらいには辞められるように意識していた。


そのため、ここで切り上げて俺も訓練所に戻ることにした。


「ぐごーっ」


「すぴー」


「ぐわーっ」


あちこちの部屋からいびきの音が聞こえてくる。


そして、オッカマの姿。


「やっと終わったのね、イツワちゃん。もう少し経ったら呼びに行こうと思ってたところよ」

「昨日の件は反省してるよ。昨日はあまりにも集中しすぎた」


「今日も集中力やばいけどね?」と小さな言葉が聞こえた。

俺は食堂の椅子に座った。


今日の夕食はパンとスープだった。


ガツガツ。

ムシャムシャ。


パンをスープにつけて食うとなかなか美味い。


そうしていると。


ゴトッ。


お約束のようにオッカマは水晶を机の上に出てきた。


「どう?今日の成果のチェックは」


俺は少し気まずい顔をした。


「すみません、昨日は。壊れてましたよね?水晶」


「え?壊れてないわよ」


(気を使ってくれてるんだろうか?)


優しい人だ。


そう思いながら俺はペタっと水晶に触れた。


すると、まただった。


ズガガガガガガガー。


下から上に高速に文字が流れていく。


昨日と同じような現象が起きてしまった。


「すまない、オッカマさん。また壊してしまった」

「え?壊れてないわよ?よく見て」


そう言われて俺は水晶をよく覗いて見ることにした。


目をこらすと水晶に表示されていたのはこんな文字だった。




【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】

【素振りポイント獲得+1】





といった風にひたすらこの文字が下から現れては上へと流れて、やがて消えていく。


そんな光景が目の前に広がっていた。

数風待つと、同じような光景は終わり。


最後にこんな文字が見える。




【総獲得ポイント+1000】



剣術のランクが上昇しました。


剣術F→剣術E


【称号:剣士見習い。を入手しました】




名前:五条 イツワ

レベル:1

攻撃力:1

防御力:1


スキル:剣術E


称号:剣士見習い



ぱちぱち。


俺は何度か瞬きしてから水晶から目を離した。


「すごいじゃない!イツワちゃん!ランクアップよ!ランクアップ!訓練所でスキルのランクアップした人なんて見たことないわよ!すごいわっ!」


オッカマさんは自分のことのように喜んでいた。


(まぁ、おだててるんだろうけど)


こうやって誰かに褒めてもらえることなんて今までなかったから嬉しかった。


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