第3話 チートなし



「よし。これからの方針は決まったところで、次はステータス測定といっちゃおうかしら」


「ふふふーん」と上機嫌になったオッカマ。


机の上に水晶を出してきた。


「水晶、ね(テンプレってやつだな)」


「えぇ、あなたのステータスを読み取ることができるのよ。準備ができたら水晶に触れてちょーだい」


「準備?なにか準備するようなことでもあるんですか?」


「いわゆる。心の準備ってやつ。自分のステータス見てびっくりする子もいるから」


「なるほどね」


「さて、イツワちゃんはどんなステータスをお持ちかしら。楽しみねー」


手を当てる前にひとつ、聞いておこうか。


「参考までに聞きたいんだけどこの世界の異世界人の初期ステータスってのはどんなものなんですか?」


「サラサラっと」


紙にステータスを書いて見せてきた。



名前:異世界 太郎

レベル:30

攻撃力:38

防御力:36

スキル:剣術C



というようなどこかで見たことがあるような文字の羅列を見せてきた。



「ま、こんなところかしらね」


「なるほど。これくらいの数字を出せれば異世界人として普通、くらいなのかな」


そう思って俺は水晶に手を当てた。


(まぁ-10くらいだといいな。って高望みしすぎかな)


「ふふふ」って苦笑。


ところで、ステータスを測り終わった合図みたいなのってあったりするんだろうか?


例えば、水晶が光ったり、とか水晶が壊れたりとか。


(手を当てて10秒くらい。特に反応は見えないが……って、ん?)


よく見たら水晶の中に文字が浮かんできた。


「地味だな。この水晶」


そう思いながら俺はステータスを読み取った。




名前:五条 イツワ

レベル:1

攻撃力:1

防御力:1


スキル:剣術F




(まぁ、こんなもんか。俺だもんな。むしろレベル0じゃないだけましか?)



「イツワちゃん。どうだった?残念ながら私の方向からステータスは見ることができないの」


俺はステータスを伝えた。


オッカマの顔は曇って行ったが、励ますような言葉を言ってくれた。


「気にしないでイツワちゃん。こんなの初期ステータスに過ぎないから、ね?ね?ね?」


「別にいいですよそんなに気を使わなくて。俺が無能なのは俺が1番分かってる」


「そんなことないわ!イツワちゃん!トラスト マイセルフの精神よ」


「トラスト マイセルフ?」


「自分自身を信じてあげてってことよ、んふっ」


「自分を信じる、か」


俺からはもっとも遠いセリフだな。


俺は自分のことが一番信用ならない。


選択肢の中から答えを選ぶタイプのテストで、自分が正解だと思ったものが当たってたことがない。


そんな男を信頼できない。


俺がため息を吐いてるとオッカマは両肩に手を置いてきた。


「大丈夫。この世界はあなたを見捨てない。あとはあなたが頑張るだけよ」


オッカマはそう言うとカウンターの下に手を突っ込んだ。


ガサゴソと音が鳴る。

下から取り出したのは剣だった。


「この世界ではやるかやらないか。それだけよ」


「言われなくてもやりますよ」


オッカマは訓練所の中にあったひとつの扉を指さした。


「あそこから訓練所に行けるわ。今の時刻がお昼すぎくらい……ってご飯は食べた?」


首を横に降るとオッカマは俺に携帯食料を渡してくれた。


「おなかが空いたら食べてね。それからここにいる内はご飯や生活の世話はこっちでするから心配しないで」


「ありがとうございます」


「んふっ。じゃあ夕方までメニュー表通り頑張ってね」


ピラッ。


俺に訓練メニューを出してきた。


俺はメニュー表と剣を受け取ると指さされた扉の方に向かうことにした。


扉を開けるとちょっとした森があった。


「とりあえずメニュー表を確認してみよう」



【剣士コース~初日】


・素振り100回


内容

・振り下ろし


オッカマアドバイス

・とりあえず剣に慣れるところから始めましょう。100回振ればだいたい慣れてると思うわ




そういえば、学生時代は体育で剣道をやったことを思い出したな。


結局、俺には才能がなかったらしくいつもビリだったけど。


でも誰よりも真剣に取り組んでた、と自分では思ってる。


「さて、素振りを始めようか」


俺は剣を振り上げて、振り下ろした。


「1回」


もう一度。


2回。

3回、4回、5回、6回。



どんどん素振りをしていく。


初めは重かった剣もやがて軽く感じてくる。


これが、慣れというやつだろう。


俺はひたすら素振りをしていくことにした。



どれくらい素振りをしただろうか。


分からなかったけど


「……ワちゃん?」


誰かが俺を呼んでいる気がした。


(誰だろう?今素振りをしているんだが)


「イツワちゃん!」


びくっっっ!!!


はっきりと名前を叫ばれたことで俺の意識は現実に帰ってきた。


「あれ、オッカマさん?」

「心配したわよ。いくら名前を呼んでも返事しないんだもの」


周りはすっかり暗くなっていた。


「あー、もう。夜だったのか」

「え?!気付かなかったの?!もう、深夜よ?!」


驚いてるオッカマ。


「気付かなかったよ」


なんか、どっと疲れた気がする。


(疲れたな)


それと、


ぐ〜。


腹の虫が鳴った。


「ごはん食べる?」

「もちろん」

「オカマが腕によりをかけて作ったから美味いわよ♡」

「助かる」


俺はそう答えて訓練所の方に向かっていくことにした。


訓練所にはいろいろと部屋があるらしい。


そこの一室、食堂に入ると俺はさっそく飯にありつく事にした。


カレーライスだった。


「うめ〜」


疲れた体に飯が染みるようだった。


「でしよ?でしょ?」


それからオッカマはデーンと水晶を出してきた。


「ところで今日の成果、見てみない?」


「たかが一日で成果が出ると思わないけど」


俺はそう答えながら手のひらで水晶をペタっと触った。


すると水晶が壊れたような挙動をしていた。


下から上に高速で文字がスクロールされていく。


「ん?壊しちゃった?」


「どれどれ」


オッカマが水晶を代わりに覗き込んでいた。

んで、固まった。


あーあ、やっぱり壊しちゃったんだろうか?


(ここにいてもこれ以上俺に出来ることもないしな)


俺はこの場から逃げるように先に失礼することにした。


「オッカマさんすまない、それとお疲れ様。明日に向けて今日はもう寝るよ」


食事をしている時に俺は自室の鍵を受け取っていてのでそれを手に取った。


そのまま部屋を出ていくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る