第2話 これからの方針



「あちらに建物がありますよね?」


スッ。


女の子はとある方向を指さした。


指さされた方向には木造の建物があった。


(いわゆる、冒険者ギルドってやつだろうか?)


そんなふうに思っていたら女の子が説明してくれた。


「あそこは【訓練所】と言います」

「訓練所?聞きなれない言葉だな」


だが字面から推測するなら、なにかの訓練をする場所なのだろう。


そして、その訓練内容だがおそらく冒険者として働くための事前準備といったところではないだろうか。


俺は予想したことを女の子に話してみたのだが。


「はい。そのような認識で間違いありません」


ほっ。


俺は予想が的中したことで胸をなでおろした。


「まずは、あの訓練所に向かうことをオススメしますよ。異世界から来た人はまずあちらに向かいますね」


内心俺は少し期待していた。


この子なら同行してくれるんじゃないだろうかって、でも。


「私は用事がありますので、またお会いできるといいですね」


ニコッと笑って別の道を行ってしまった。


少し心細いが……。


(とりあえず訓練所、行ってみるか)


俺は決意を固めて訓練所の方に歩いていくことにした。


扉を開けて中に入る。


入口に近い方にはちょっとした空間があり、そこには机や椅子がある。


そして、その奥には受付カウンターがあった。


(あそこに向かえばいいのかな?それにしても人が少ないな)


もっと人でごった返しているものだと思っていた。


でも、そういうわけではなく中にはチラホラ人が数人いる程度だった。


利用者は少ないのだろうか?


(まぁ、利用者が少ないのであればそれはそれで好都合だな。ていねいに接客してもらえるだろう)


そう思いながら俺はカウンターの方に向かっていくことにした。


カウンターの中にはピンク髪の長髪の男がいた。


「いらっしゃい、ぼ〜や」


ねっとりした口調でそう言われて思わずビクッとなった。


「あ、あの。ここに来たらいいって言われたんですけど」


「ん〜、あなた異世界人、よね?」


頷いた。


「しかたないわね。あたしが手取り足取りバチコリ教えてあげるから、大船に乗ったつもりでいなさい」


ドン!


胸を叩いていた。


「で、どこから説明してほしいワ・け?」


「ぜんぶ、お願いしたいんですけど」


「おっけ〜ん。必要最低限は教えてあげるわっ。と、その前に自己紹介しなきゃね」


男の人はカウンターの上にカードを出してきた。


そこにはこう書いてある。



名前:オッカマ


教官ランク:B




もっとダラダラ書かれているのかと思ったがあっさりしたカードだった。


「あたしはオッカマ。あなたは?」


「五条 イツワ」


「おっけ、イツワちゃんね。あ、安心してね。地球のことは最低限あたしも把握してるから」


(これは驚いたな。地球のこと知ってるんだ)


オッカマはそれから口を開き始めた。


「この世界にも、いろいろと職業はあるんだけどね。異世界からの人たちは基本的には【冒険者】になる道しかないのよ」


「なんでなんですか?」


「求人の空きがないのよ。仕事に欠員が出ても基本的には現地民で補う。言いづらいけど経営者の人たちも現地民を取りたがるしね」


それからオッカマはメモ帳にこんなことを書いてくれた。



【冒険者】


特徴:

・基本的に雇われではない。よって不採用ということがありえない。誰でもなれる。


・報酬面、出来高制。やればやるほど儲かる仕事。ただし最初のうちは生活も苦しいかも、でも続ければだんだんマシになる


【他の仕事】


特徴:

・雇われ。不採用ということがありえる。経営者は文化の違う異世界人を雇いたがらない。仮に雇われても低賃金というのもありえる。




(なるほど。冒険者になるしかない、というのはこういうことか)


「ま、勘違いしないで欲しいけど異世界人を嫌ってる訳じゃないのよ」

「文化の壁がかなりあるってことですね」

「物分りが早くて助かるわっ♡」


それから、オッカマはこう言ってくれた。


「あとはね、異世界人の人達はいわゆるステータスが高いことが多いのよ。だからそれも考えて、稼げる冒険者がオススメされるのよ」


「なるほど」


俺は返事をしながら、疑問に思ったことを聞いてみる。


「ちなみに異世界人っていうのは、けっこうな数いるんですか?」


「さぁ?あたしもよく知らないのよね。一気に数人見かけることもあるし。見かけない時もあるし、ちなみにあたしが異世界人を見たのは1年ぶりかしらね」


この言葉には少し安心した。


(なるほど、探してみれば同類に会えるのかもな)


この広大な異世界にひとりだけじゃないと分かったのはなかなかの収穫だと思う。


そんなことを考えていたらオッカマは聞いてくる。


「今の話聞いてどう?あたしとしては冒険者になるのがオススメだけど」


「もちろん、冒険者になりますよ」


俺は物語に出てくるような主人公でもなんでもない。


一般的な日本人。


レールからは外れたくなかったし、流れに逆らうようなマネもしたくなかった。


ちなみに日本では無能すぎてレールを外れてしまった。


だから今度は外れたくなかった。

普通の人生が送りたかった。


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