【真面目】なことくらいが取り柄だった無能おっさんの俺、異世界ではチートレベルな真面目さだったようです。チートがない俺は努力のみでチートや才能を無自覚に凌駕する!

にこん

第1話 無能な俺、異世界転移



パチッ。


目を開けるとそこは知らない場所だった。


「どこだ?ここ」


小さく呟くように口を開いて周りを見た。


目の前には大きな噴水があった。


その周りを人が囲んでいた。


たくさんの人が立っている。


俺はその人たちを見て驚いた。


(コスプレ会場かなにかなんだろうか?)


平常時の日本では見かけないような服装をしたような人ばかりだった。


多くの人は武器を持っている。


アニメや漫画のコスプレだろうか?


初めはそう思っていたけど、違和感に気付いた。


(いや、違う。ひょっとして、異世界ってやつだろうか?)


俺は周りにあった建物に目をやった。


建物のいくつかには文字が書いてあるのだが、その文字がどう見ても地球上の文字ではなかった。


◇や〇のようなマークが組み合わさったような文字だった。


それだけで異世界認定か?って思われるかもしれないけど、他にも判断材料はある。


不思議なことだが、俺にはこれらの文字が読めたからだ。


見たことの無いはずの文字を読むことができた。


俺の知らない不思議な力が働いている。


それだけで異世界と判断するのは十分だろう。


(他に同類の人間はいたりしないだろうか?)


そう思って周りを見ても、日本人……というより地球人っぽいのは他にいなかった。


どうやら俺だけらしい。


ひとりぼっちの異世界転移だ。


「うーん」


俺は噴水の方に歩いてみることにした。


水の色は薄い青であり地球と同じだ。


そのことについて、なんとなく安心しながら俺は噴水の水面に目をやることにした。


すると驚いた。


「あれ?」


顔に手を当てる。


ペタペタと触る。


手に伝わる感覚はみずみずしいものだった。


35歳おじさんのベタベタした脂ギッシュな顔ではない。


「……」


驚きで声も出ない。


もう一度水面に顔をやる。


映る顔はこの世界に絶望して、疲れ果てたおじさんの顔では無い。

そして見たことがないような赤の他人の顔、というわけでもない。


だが、この顔を見たのは遠い昔だったと思う。

見た場所は、実家の鏡だった。


間違いない。


「若返ってる……?」


頬を引っ張る。


ぐにょーんと少しだけ伸びる。


手に感じるのは確かな現実の感触。


どうやらここで起きているのは夢ではないらしい。



その場で少しの間固まっていた。


だが、いつまでもこんなことをしていても仕方ないと思って動き出した。


(俺は無能だ。才能もない。だから人一倍努力して人一倍早く行動しないと)


俺が日本にいた時からの方針である。

それは異世界でも変わらない。


というわけで、まずは情報を集めようと思ったのだ。


集めるべき情報はいくつかあると思うが、まず必要な情報は【食】に関するものだろう。


ぶっちゃけ言うと寝るのは最悪その辺で寝ればいい、着るものに関しては今着ている服を最悪何日か使い回せばいい。


だが、食に関してはどうしようもない。


だから食べ物だ。


俺は噴水の水面から目を逸らして近くにいる人達に目をやった。


(暇そうな人を探して少しだけ話を聞かせてもらおうかな)


そう思いキョロキョロと周りを見ていると俺の方を見ている女の子がいることに気づいた。


思わず目が合ってしまった。


女の子は少し驚いたような、なんとも言い難いような表情を作りながら目を逸らした。


そして、俺の方に歩いてきた。


「こんにちは」


話しかけられた。


まさか話しかけてもらえるなんて思っていなかった。だって俺は今まで35歳の底辺のオジサンだったから。


いてもいなくても変わらないようなそんな存在だった。


なので、声を出す準備をしていなかった。


「こ、こんにちは」


だが、なんとか声を絞り出した。


無理やり絞り出したせいで声が裏返ってしまった。


すると、くすっと笑った女の子。


(笑われた?ガーン)


若い女の子に笑われたことで俺は少しシュンとした気分になった。


「ごめん、なんか笑われるようなことした?」

「あっ、いえ。声が裏声っていたので」


(なるほど、そういうことだったか)


女の子が話を続けてくれた。


「この世界の人ではないですよね?」

「どうして分かるの?」


すると、軽く笑顔を作って髪の毛を触っていた。


一本つまむと、軽く引っ張っていた。


「黒髪はこの世界では珍しいですからね」


女の子は指に白色の髪をクルクルと指に巻き付けていた。


俺からしてみれば白色の方が珍しいのだが、この世界では黒の方が珍しいそうだ。


「それは地毛?」

「はい」


頷いてた。


どうやらこの世界では白色の髪の毛はいたって普通らしい。


日本でも年寄りで白い人はいくらでもいたが、若い人ではそうは見なかったな。


うーん。


異世界に来たって感じだな。


まさか自分が来れるなんて思ってもいなかったな。


しかも若返りの特典までついているなんてなぁ。


それより、


(この子なんで俺に話しかけてきたんだろう?)


冷静に考えて、俺に話しかけてくるメリットなんてこの子にはないだろうに。


目が合ってもすぐに逸らして知らんぷりしてればいいのに。


異世界人が珍しいのだろうか?


でも、他の奴らは話しかけてこないしな。


なにか、目的があったり?


いろいろ、考えてみたけど答えは出ない。


「どうして、俺に話しかけてくれたの?」

「え?異世界の人ならお困りだと思ったので、それだけですよ」


俺は目をぱちくりと開閉した。


(え?それだけの理由?)


聖人か何かなのだろうか?この子は。


なんにせよ、異世界にきて初めて出会ったのがこの聖人ちゃんでよかった。

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