#5 配信に必要なもの。

 結奈さんの家は、家族用のマンションで、防音がしっかりしている所だった。


 それは、かなりありがたい。


 仕事がない今、簡単に引っ越すわけにはいかないし、なにより、安いアパートでは引っ越した所で、かえって防音が悪いんじゅ意味がない。


 配信部屋の環境は問題ないだろう。


 あとは……


「よし、じゃあ早速、結奈さんの配信環境チェックと行こうか。パソコンの電源を入れてくれ」


「あ、うん。これで良い?」


 そう、機材だ。


 結奈さんの机には、思ったより大きなPCが一台と、23インチのモニター、そして配信に使うと思われるマイクなどの機材がある。


「パソコンは……て、最新の第14世代CPUじゃないか」


 PCのスペックは最新の物だった。


 グラボも最新だし、メモリもしっかり積んである。


 これならPCに関して、心配する事はなさそうだ。


「ていうか、このパソコン凄いな。うちのよりはるかに高性能だ」


「んっとね、よく分からないから駅前の家電量販店で店員さんに聞いて、言われたのをそのまま買ったの」


「なるほど、それは良い選択だったかもしれない。ああいう所にはマニアックな知識を持った店員さんも多いから、俺なんかよりずっと詳しく教えてくれる」


「専門用語は何言ってるのか分からなかったんだけど……それに、パソコンに思ってたよりお金使っちゃって、他の機材は買えなかったの」


 だからマイクは、親父さんのカラオケマイクを使ったのか。


「そう言えば、機材はどうやって選んだんだ?」


「これだよ」


 結奈さんが、見せてくれたのは、雑誌だった。


 〝今日からあなたもできる、VTuber入門〟


 ……なるほど、これを見て必要な機材を揃えたのか。


「でも書いてあることが分からなくて、結局とりあえずマイクをパソコンに繋いで、書いてあるアプリをインストールしてみただけなんだけど」


「それで配信まで行けたのは、凄いな」


 最近はスマホからでもできてしまうのだが、やはり本格的に始めるならPCの機材を揃えたい所だ。


 最初にPCを買ったのは正解かもしれない。


 PCがあれば、PCのゲーム配信もできる。


 スマホでは雑談の配信はできても、ゲーム配信や他の配信、コラボなんかができないから、PCがあるとないとでは段違いだ。

 

 それに、他の機材は俺のツテを使って、調達する事ができるだろう。


「よし、じゃあ足りない機材は、おいおい集めるとしようか。その辺は俺に任せてくれないか」


「う、うん。わかった」


「だが、機材の前に手に入れなければいけない物があるんだ」


「機材以外……?」


「そう。結奈さん、それが何か分かる?」


「さあ?」


「アバターだよ」


「アバターかぁ」


「初回配信での、ユナのアバターはどうやって手に入れたの?」


「あれはね、フリー素材って所から貰ってきたの」


 フリー素材っぽい見た目と思ったけど、やっぱりフリー素材だったか。


「やっぱそうか。だけど、ユナとして人々に認知される為には、やはりアバターは必要なんだ。それも専用の、ユナだけのアバターだ」


 誰もがそれを見て、ユナだと思ってもらえるアバター。


 そして、できるなら、初見の人がその絵のクオリティに惹かれて配信を覗き見しに来てくれるくらいの魅力的な物にしたい。


 配信用のアバターでも、今はフリーで使える物があるのはある。


 だが、それではやはり、多くの人々にインパクトを与えるには足りないと思う。


「でも、それってどうするの?」


「ああ。アバターには2Dと3Dがあるんだ。3Dの方が動きを伝えるには向いてるが、その分操作も複雑だ。だから2Dのイラストを動くようにしているアバターも、普通に主流なんだ。俺は、イラストに魅力があれば2Dでも全然大丈夫だと思う」


「うーん、難しいね」


「そんなに深く考える必要はないさ。要は、キャラクターなんだ。ユナというキャラクターをどう魅せるか、結奈さんは声に充分魅力があるから、それに負けない絵があれば、それで良いと思う」


「でも、それって、絵を描くって事?」


「そうだな。ユナのキャラクターデザインが必要だな」


「私、描けないよ」


「心配するな。俺も絵なんて描けない」


「じゃあ、どうするの?」


「依頼するんだ。絵の上手い人に。最近ではインターネットで依頼することも出来るんだ」


「それって、お金払ってって事」


「そうだな。仕事として依頼する以上、タダでって訳には行かないな」


「だよねー。いくらくらいかな」


「物によるだろうな。やはり有名な人になるほど、高くなるし、それに、そもそも受けてくれるかどうかって事になる」


「そっか」


「でも、せっかくなら最高のユナを描いてくれる人に頼みたい。そこで、俺に考えがあるんだ」


「考え?」


「俺の知り合いに一人、当てがあるんだ。ユナのイメージにピッタリなキャラクターを作る事が出来る人だ」


「万汰君の知り合いに……?」


「ああ。俺は、できればその人にお願いしたいと思っている。だから、アバターに関しては俺に任せて欲しいんだ」


「うん、良いよ」


「本当か?」


「うん。そもそも私にはそんな伝手なんて無いし。万汰君が良いっていう人にお願いしてもらえるなら私としてもありがたいかな」


「そうか。じゃあ連絡取ってみる」


「あ、でも……依頼料って……払えるかな」


「まあ、そこは俺に任せてくれ」


「うん、じゃあ任せる」


「じゃあ、上手く行ったら連絡するよ」


 こうして、俺と結奈さんの最初の打ち合わせは無事に終了した。


 俺は家に帰った。


 帰って早々に、俺はある人に連絡を入れた。


 ユナのキャラクターデザインをお願いしたいと思っている人。


 その人には、最近連絡してなかった。


 だから、もう連絡が取れなくなってる可能性もあって、ものは試しでDMを送ってみた。


 だが、数分もしないうちに、あっさりと返信が来た。


 そして俺は、久しぶりに会う事になった


 VTuberネモフィラ船長と——。

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