シスターピア
「この度は依頼を受けていただきありがとうございます。」
俺に向け、手を合わせながら深々と頭を下げているのは、この
「それではどうぞ中へ」
ピアは扉の前まで移動し孤児院の扉を開けた。
そして俺は不安と期待を胸に孤児院の入口をくぐった。
「お邪魔します。」
△△△
孤児院の一室、そこで俺は現在二人の幼児を相手にしていた。
「お兄ちゃん!次はこれ!これ読んで!」
「だーめー!次は、私とおままごと!」
俺の膝の上で五歳児の幼児達が頬を膨らませながら「むう!」と可愛らしい声を漏らし睨み合っていた。
俺はそれをなだめるとシスターピアは慣れた手つきで「喧嘩しないの!」と軽めに注意した後、男の子の方はピアさんに絵本を読んでもらいそして女の子の方は俺とおままごとして遊んだ。
しばらく遊んだ後、眠くなったのか幼児二人は目をこすりながらウトウトし始めシスターピアに連れられて寝室へと移動した。
俺の受けた依頼は孤児院で子供たちの遊び相手になるという物で報酬は金貨一枚、用は人手不足の為のお手伝い要因だ。
△△△
幼児が眠り、俺も遊ぶ相手がいないので自然と休憩時間になった。
時刻は午後四時、俺は幼児の寝顔を見ながらふと日本にいたときの事を思い出す。
ここにいる子共達は皆、親が居ない子や捨てられた子たち、そして俺も親がいなかった。
赤ん坊の時に捨てられた俺を見つけてくれたのが幼馴染である日渡空の爺さん、
爺さんは普段は優しい人だが怒らせると鬼のようにおそろしく怖い人だった。
俺も良く悪さをして何度空の爺さんに怒られたことか分からない。
そんな捨てられた俺を見つけた爺さんにより孤児院に引き取られそこで同い年ぐらいの子や年上の兄ちゃん姉ちゃんに囲まれながら育った。
俺はあの孤児院に何も恩を返せないままこの世界に来てしまった。だからだろうか、俺はこのクエストを見たときに何かと重ねてしまったのかもしれない。
しばらく寝顔を眺めた後、俺は子供達の部屋を出てすぐ隣の部屋に移動する。
そこは休憩室になっている件、シスターピアの自室でもあった。
「お疲れ様です。コーヒー飲めます?」
「砂糖が入っていれば何とか」
「わかりました。ではミルクと砂糖を用意しておくので好きなだけ入れてくださいね」
シスターピアはテーブルの上にマグカップを二つ、砂糖の入った容器を一つ用意した。
俺のカップにはミルクを混ぜたコーヒーを、自身のコップには何も入ってないコーヒーを注いだ。
そしてシスターピアは俺の正面の席に移動しカップに入っているコーヒーをゆっくり口に含み飲み込んだ。
そしてマグカップをテーブルに置きピアの口がそっと開いた。
「改めて、今回はこの依頼を受けていただき本当にありがとうございます。何せ人手不足なもので。」
「いえ、俺も子供は好きなので。」
俺はそう伝える。
子供が好きというのは消して嘘ではない。子どもたちと遊んでいる時本当に楽しいと思ったし、俺が日本にいた時も良く小さい子の面倒も見ていた。
シスターピアはコーヒーを飲み切るとゆっくりと口を開く。
「ここにいる子達は皆、親を魔獣化した人やモンスターに殺された子たちばかりなんです。最近は良くなってきてますがここに来たばかりはお昼寝の時に良く悪夢を見て泣き出す子とかもいたのですが今は悪夢も見なくなって安心してるんです。」
シスターピアはニコッと笑い、飲み終えたマグカップを回収する。
そして再び席につき一息吐いた後、玄関の方からカランコロンと高い金属音が響きわたった。
「あら、帰ってきたみたいですね」
立ち上がり部屋を出てまっすぐに進んだ先にある玄関に俺とシスターピアは移動し扉を開けた。すると、そこに立っていたのは数人の子供達にしがみつかれている少年の姿だった。
「ただいまピア、あっ、ちょっと!引っ張っちゃ駄目だよ!」
「フリット、随分と早かったですね。それに、すっかり人気物になりましたね。」
シスターピアは口に手を当て、ふふっと静かに笑った。玄関前で数人の子供たちに服を引っ張られ半泣き状態のこの少年の名前はフリットというらしい。
雪のように白い白髪に炎の様に燃える赤い瞳、黒の半袖の上に白色のジャケットを羽織っており俺がもし女性なら間違えなくひと目見ただけで惚れるほど顔立ちが整ったイケメンだ。
「お願いだから離してくれるかな?」
フリットは半泣きでお願いするも子どもたちはキャッキャと騒ぐだけで話を聞いてくれなかった。
「こら〜、皆?お兄ちゃんが困ってるでしょ?離れなさい」
そしてピアが一声かけると子どもたちはわーっと騒ぎながら一斉に孤児院の中へと戻っていった。
そして子ども達から開放されたフリットははぁ、はぁ、と息を切らしている。
「お疲れ様です。フリット、紹介しますね。こちら、今日一日この孤児院を手伝ってくださる音羽カケルさんです。」
「音羽です」と軽く頭を下げるとフリットも軽くお辞儀をした。
「カケルさん、こちらはフリット、良くこの孤児院に手伝いに来てくれる。暇人さんです。」
「な、ちょっと!ピア!暇人とは聞き捨てならないな。一応手伝いに来ているのに!」
フリットは少しだけムッとなり頬を膨らませた。
その様子を見てピアはニヤリと笑い「冗談です」と呟く。
その後は再び孤児院に戻りフリットも含めシスターピアは寝ている子供の様子を見るため寝室へ、そして俺とフリットさんは……
「おーほほほほ!ご飯ができたわよみんな〜!」
「おお、やっとできたのか、」
「今日は魚の丸焼きと野菜の丸焼きとパンのある焼きよ!」
「おお!!どれもワシの好物と子供達の好物では無いか!なあお兄ちゃん、おねいちゃん!」
「やったあ!俺、パンの丸焼き大好きなんだよな!」
「あたしもー!貴方も好物よね、犬」
「わ……わーん……」
元気いっぱいの子どもたちと共におままごとをしていた。
どうやらこの孤児院の子どもたちは皆おままごとが好きなのか今日ずっとやっている気がする。
配役は俺がお母さん、そしてお父さんはこの部屋の中で一番下の子セリアちゃん五歳、
そしてお兄ちゃんとおねいちゃんはそれぞれ大工くんとさくちゃんが担当、そしてフリットは犬役の配役だ。
配役はすべてお父さん役の子が決めおままごとのテーマは日常らしい。
そしてそんな日常をテーマにしたおままごとはしばらく続いきお父さん役の子が疲れてそのまま俺の膝の上で寝落ちしたのでその子を寝室へと運び、二人の子も宿題があると自身の部屋に戻ってしまったのでそこでおままごとは自然と終了した。
「んふふ、パンの丸焼き……」
布団の中に潜りくまのぬいぐるみを抱きしめながらおままごとが相当楽しかったのか寝顔も笑顔のままだった。
△△△
「お疲れ様でした。カケルさん」
午後六時、俺はフリットと共にシスターピアの自室に呼ばれていた。
呼ばれた理由はこの依頼の報酬を受け取るためだ。
シスターピアは手に布製の袋を持っておりそれを俺に差し出してきた。
「中身を確認してくださいね」
俺は袋を開き中身を確認した。するとそこには恐るべき金額が入っていた。
「ん?どうしました?」
袋の中に入っている額に動揺している俺の顔色を見てピアはニコっと笑った。
「こ、こんなに受け取れません!」
袋の中に入っていたのは俺が想像していた金貨一枚ではなくなんと金貨八枚、日本円で訳すなら八万円相当だ。このクエストの本来の報酬は金貨一枚、しかしこの袋に入っているのはその倍の金額だ。
俺がその袋を戻そうとすると
「いいんです。受け取ってください。これまであんなに楽しそうに遊ぶ子供たちを見たことがありませんでした。あなたと遊んでいる子どもたちは本当に楽しそうでした。」
シスターピアは笑顔を絶やさすそんな事を口にした。
しかしそれでもこんな大金受け取れない。俺はただ子ども達と遊んだだけであってそんな手伝いなんて出来てなかった。俺はピアさんから受け取った金貨を再び返そうと思ったその時フリットが口を開いた。
「カケルくん、遠慮はしなくてもいいんだよ?」
「遠慮なんて……俺はそんなお二人が助かるような手伝いができなかった。」
今度はピアが口を開く。
「何故そう思うのですか?」
「俺はただ子ども達と遊んでいただけだから……」
「私はすごく助かっていますよ?カケルさんは子ども達と遊んだだけかもしれません。しかしそれでよいのです。私が、あの子達がそれで助かっているのだから、もし私一人だけならあんなに大勢の子たちの相手なんて到底できません。しかし、個性豊かな子達と幅広く仲良く遊べる。あなたは私だけでなくあの子達の助けにもなったのですよ?」
今度はフリットが口を開く。
「そうだよカケルさん、今日の子供たちの笑顔を思い出してみて?僕なんて犬の役が恥ずかしくてやりきれなかったけど君はあんなに楽しそうにお母さん役をできたじゃないか!僕一人では到底子供たちを満足させるには力不足だった。」
「そんな事は……」
俺がうじうじと受け取るのを拒んでいるとシスターピアはパンっと手をたたき呟く
「なら、こうしましょう。カケルさん。これからもたまにで良いので孤児院に来て子供たちの遊び相手になってくれませんか?金貨八枚はその前借りということでどうでしょうか?きっと子どもたちも喜びます。」
俺は考えた。それでもやはり受け取れない気持ちがあったがそれではシスターピアの気持ちを裏切るようで嫌だったので俺は二人の言葉に甘え報酬を受け取る事にした。
「わかりました。では今後もたまに遊びに来るということで。」
「ええ、お待ちしております。今後ともよろしくお願いしますね。カケルさん」
孤児院玄関先、俺が金貨が入った袋を握りしめ本来の目的である宿屋に向け歩みだした。
後ろにはシスターピアとフリットさんが俺の姿が見えなくなるまでずっと手を降っていた。
△△△
「悪いな兄ちゃん。もう部屋はすべて埋まってるんだよ。」
唐突に告げられたその言葉に俺は思考か停止した。
宿屋の店番のゴブリンが申し訳無さそうに頭を下げここらへんの宿屋の場所を教えてくれたので俺は取りあえず教えられた場所に向かった。しかし。
「悪いねぇ、あいにくうちも部屋が埋まっててね」
どこの宿屋に行っても部屋が埋まっていたのだ。
話を聞くにはちょうど俺が最初に出会った魔獣、それが今この周りで大量発生しているようでその討伐隊、ガーディアンが宿屋のほとんどの部屋を貸し切っているようなのだ。
街の裏路地、俺は今夜は野宿かと思いながら俺は壁に体を寄せ長らく座り込んだ。
夜の王都には雨が降り注ぎ気温もとても低い。
このままでは風を引いてしまうかもななど思いながら手をこすり体温を上げようとしたが冷たい雫が降り注ぐ外にはそんな行為は無効だった。
「……寒い」
俺はこの世界に来て初めて孤独を感じた。
いつだろうか前にもこんな事があった。
子供の頃、雨の中迷子になったことがあったのだ。その時には雨をしのげる場所があったので体温が下がることは無かったのだがその時に俺を見つけてくれたのが空だった。
雨の雫があたらない場所なのに俺に傘を指し「帰ろ」と囁いてくれた彼女の言葉はもう聞くことすらも出来ない。
俺はうつ向きそんな事を考えながら気がつくと雨がやんだのだろうか、俺の体に雨が当たる感触が自然と消えていた。俺は顔を上げるとそこには黒と白を基調とした黒髪ボブヘアのメイドが俺に傘を指していたのだ。
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