王都アマテリア

王都アマテリア、それはあの花畑から少し歩いた所にある森を抜けた場所に存在する王国の名前だ。そしてそこは人間とモンスターが共に手を組み共存している国でもあった。


俺が最初、この王都に着いた時ゴブリンやオークが普通に街に馴染んでいるのに衝撃を受けた。

町中を歩き回るゴブリンや食べ物を選んでいるスケルトンに対し「あんた臓器がないのにどうやって食べ物を消化するんだい?」と市場のおばちゃんに言われ「ああ、これを口にしてもそのまま落ちるだけだな」と笑っている。

俺は最初モンスターが街にいて警戒をしていた。しかし


「よー!ティアのねいちゃん!ほれ、オイラの畑で取れたじゃがいも持ってけ!」


ティアに向け袋いっぱいにいもを詰めたものを差し出すゴブリンが現れたのだ。


「おーごぶおちゃん!いつも悪いねー、今度お礼に何かまた冒険話でも聞かせてあげるよ」


とゴブリンのごぶおに向けピースサインを送るティアを見て俺はモンスターに対する警戒をすぐに解く事が出来た。その理由、それは街を見ればすぐにわかる事だった。皆が笑い同じ景色を見ている。

警戒していた俺がバカに見えそうなほどにみんなが笑い合っていたのだ。

そしてじゃがいもを貰ってごぶおと分かれたあとティアはこちらに視線を合わせ


「それじゃあ行こうか、冒険者ギルドに」


△△△


「さて、もう一度聞こうか、君はどうしてあの場所で装備無しで居たのかを」


薄暗い部屋の中、ティアは腕を組みこちらの様子を伺う様に睨んでいた。

この部屋が薄暗いことそれと明かりの役割を持っているランタンの赤黒い明かりもあってかその睨みは更に怖さを倍増させる。


「……」


一方の俺はそのティアの圧倒的な威圧感に押され体を縮こませていた。

額から数滴汗がたれその一瞬で落ちる速度が俺にとってはゆっくりに見えるほどに追い込まれている。


ここは冒険者ギルドの一室、俺はここでティアから事情聴取を受けていた。


冒険者ギルドは町の広場に立っている巨大な役場の様な外見の施設だ。

内装はとてもきれいでそれはまるで高級ロイヤルホテルのロビーのようだ。

しかしこの部屋だけは他の所とは違いものすごく汚れている。

その理由はこの部屋がもともと倉庫で数人の清掃員たちが掃除をするも何故か皆半泣きで帰りギルド職員に無理と断言するほどの汚さだからだ。


そのためこの部屋は格安でティアは俺の事情聴取をする部屋を決めるときに迷わずこの部屋を選んだ。

ちなみにティアが何故この部屋を選んだかと言うと「雰囲気があって良い!」とのことだ。


俺はしばらく黙り込み口を開く。


「その……気がついたらあそこにいたと言うか」


俺はそれ以外の言葉が何も思いつかなかったのだ。

正直に「異世界転生してきました!」などと言ったとしよう。警戒され状況が悪くなる。

故に余計なことが言えないのだ。

しばらくの間を開けティアが口を開いた。


「気がついたらあそこにいた?」


ティアはしばらく俺の顔を覗き込みそして大きなため息を付いた。


「はぁ、気がついたら……ね、やっぱり君、どこかで頭でもぶつけたんだね。」


そしてティアは俺の方に可愛そうにと同情の眼差しを向けてきた。

ゆっくりと立ち上がり俺の肩を優しく叩いた。

ぽんぽんと二回叩いた後再び俺の目の前にある木造の椅子に座り込む。

そして本を閉じるようにパチンッと手を合わせた。


「まあ、いいでしょう。君に敵意は無さそうだし、でも次からは装備無しであんな所うろついてたらだめだからね!」


そして俺の胸元に向け指を指し再び目を細めて睨みつける。


「いい?本当なら君はもっと怖ーい人達に事情を聞かれて下手したら冒険者の資格を取り消される所だったんだからね。あたしが優しいからこれだけで済んでものの、ともかく君が魔獣の餌食にならずに済んで本当に良かった。」


ティアは胸に手を当て安心したように再びため息をついた。

一区切りついて緊張感が無くなったのか肩から力が抜け一気に表情もゆるくなった。


そして今度は俺が口を開く


「その、おかしな事を聞くかも何ですがティアさんが言っているその魔獣?て言うのは一体……」


「……え、嘘だよね?まさか魔獣の事まで忘れちゃったの?」


「え、ええ」


俺はぎこちなくそう答える。


「いいよ、教えてあげる。魔獣、正式名称魔獣化、それは遥か昔から確認されているモンスターも人間も関係なく発生する謎の現象、君も見た通り魔獣化したら原型を失い、敵味方関係なく殺す。」


魔獣、それはあの花畑で出会ったあの少女の事だ。しかしあの少女は最初の方は原型を保っていた。それからしばらくもしない間に原型を崩し腹が裂け、口が出現した瞬間正真正銘の化け物へと化した。

話を聞く限りは魔獣も元は人間なんだろう。と言う事は何か魔獣化の原因があるはず。


「魔獣って元はモンスターや人間なんですよね?」


「そうだよ、元は何の罪の無い人間やモンスターだよ」


「それなら魔獣化の原因って何かあるんですか?」


「言っただろ?謎の現象って、原因は不明、いつ、どこで、誰がなるのかも不明、わからない事だらけだよ。」


そしてティアは立ち上がり鞘から剣を抜き瞳を閉じて何かに祈るように剣を縦に構えた。


「そう、そして――その魔獣を殺し、世界を、人とモンスターを守るのがあたし達、ガーディアンの役割」


「ガーディアン?」


ティアはもう慣れたのか何も驚かないまま話を続けた。


「ガーディアン、それは、魔獣になった人、モンスターを殺し世界を守護する使命を持つ者たち。」


ティアは剣を鞘に納め瞳をゆっくりと開けた。


「まあ、大体の魔獣の説明はこんな感じ、分かった?」


「ええ、大体は」

俺は浅く頷いた。


「なら良かった。さぁ、これであたしのお話はおしまい。」


ティアが部屋を出ようとドアノブに手を当てる直前、ふと体の動きを止めて忘れてたと言わんばかりにドアノブから手を離しこちらに体を向けた。


「いけない、忘れてた、ねぇ、君、最後にカード出して!」


「ん」と声を漏らしティアは俺に向けてを差し伸べてきた。

俺が「カード?」と答えると


「ねぇ、本当に、カードも持ってないって言うの?」


そう言いながらティアがロングスカートのポッケから出したのは名刺ぐらいの大きさのプラスチック製のカードだった。

表面には所属、名前、そしてランクが記載されておりちなみにティアのランクはSだ。


「持ってないです」


俺は堂々とそう答える。


「ご利用ありがとうございます。こちら、冒険者カードになります。紛失にご注意くださいね。」


冒険者ギルド中央に立っている巨大な円柱の柱に円を囲むように受付カウンターが存在している。あの後、もう何か思考を停止したティアに連れられここ、冒険者ギルド受付カウンターでカード発行を申請し、たった今カードが発行された所だ。

出来立てほやほやのカードを手に持ち興奮している俺に対しティアは疲れ果てている。

膝に手を当て中腰になりため息を吐く。


「はぁ……今日で何回君に驚かされた事か、大体、冒険者じゃないのに……もう良いや、めんどくさい」


何かを諦めたようにティアは「冒険者登録おめでとう」と棒読みで祝福し、目は死んだ魚のような目になっている。


カード発行が終わり冒険者ギルドの窓側にある椅子に座り込む、そしてティアは今度こそと俺の手に持っているカードを渡してと俺に向け手を差し伸べる。

俺がカードを渡すとティアはポケットから自身のカードを出し俺のカードと重ね合わせた。数秒もしないうちに俺のカードから薄紫色の煙が出始めすぐに空中に舞い上がり空気と混ざり消えていった。

そして自身のカードをポケットにしまい俺のカードをそっと俺の膝の上に置いた。


膝に置かれたカードの煙が上がっていた所を見ると下の方に黒く焼き焦げたばつ印の跡が焼き付けられていた。


「ペナルティ、一応規則だから、これが三つになったら教官の特別指導室送りだから気おつけてね」


特別指導室……何それ怖い


「それじゃ、あたしは疲れたからもう行くね。一応ペナルティと言ってもクエストには影響ないから、じゃあまたどこかでね」


そしてティアは疲れた体を立ち上がらせふらつきながら外に出ていった。


そして1人取り残された俺は早速今後の事について考える事にした。

まずはクエストを受けてみようと思う、理由はこの世界のお金を持っておらずこれでは宿にも泊まれずに野宿になりそうだからだ。


そして次はもっとこの世界について知ろうと思う。

この世界を見ていると思う所がいくつもあるのだ。まず言語だ。この世界は言語が俺の知る日本語なのだ。だが、そこら辺は異世界あるあるの神様のチート能力とかだろうとは思うが、そしてもう一つは科学が発展している事だ。

思えばこの世界は俺の元いた日本とは劣るがそれなりの科学力を持っている。

受付の持っている板がまんまタブレット端末だし俺の今手にしているカードにも何やらマイクロチップが埋め込まれている。

そのため俺はこの世界に興味があるのだ。

そうと決まれば早速俺はクエストが記載されている掲示板へと移動しクエストが張り巡らされている掲示板の前に立った。


クエスト内容は基本的にお使い系がほとんどで例えば雑草抜きで銀貨一枚の報酬だ。そして他のはと言うと


——緊急!ワシのメガネを探してください!

報酬、飴ちゃんとかんぴょうまき!


——緊急!娘が反抗期!誰か反抗期の娘とどう接したら良いか相談に乗ってくれ!

報酬、アマテリアチャーハン専門店三年間無料チケット


とまあ報酬が物の奴がほとんどなのだ。

出来れば宿代の事も考えて報酬は金の方がいい。

そう思い掲示板と睨めっこしているとふと俺の目にあるクエストが止まった。

そのクエストが書かれている紙を手に取ると俺は何とも懐かしい気持ちが溢れ出していた。

そして気がつくと俺はその紙を手に持ちそのままカウンターに持っていっていた。
















































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