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 パッケージの一部が誤って混入したのか? いや違う。何だろう、強いて言えばウインナーの皮の様な……。


 俺はテーブル脇にあるティッシュボックスを引き寄せ、一枚抜くと、その何かの膜みたいなものを一緒に丸めてゴミ箱に捨てる。



 「チッ、料理しか取り柄がないくせに。どこまで薄ぼんやりしてん…… 」


 そこまで言って、僅かな違和感に言葉を止める。

幾ら鈍いと言っても、いつもなら絶対に無い間違い。いつもと違う味付け。何かがおかしい。


 確かめる様に、ミートボールに手を伸ばした。そのまま指で挟むとヒョイと口の中へ放り込む。

 酸味の効いた、ケチャップの甘酢あん。俺が前に旨いと言ってから、モエカがよく作っていたものだった。



  ゴリッ……。軟骨のような歯応え。ゴリゴリと噛んで確認する。

 やはり、これもいつもと違う。味付けは変わらないが、肉が違うのか? 豚肉ではない、鶏肉、いや風味は牛肉の様な気がする。そしてまた、臭みを消すハーブ。


 その時、スマホが鳴った。画面にはモエカの名前があり、急いで画面をスライドする。



 「モエカ? 」


 『レンくん! 直ぐに出てくれたんだね。嬉しい! 』


 「お前、今何処にいるんだ? 」


 『ねぇ、ご飯、食べてくれた? 』


 「そんなこと聞いてないだろ。ちゃんと答…… 」 『美味しかったでしょう? レンくんの大好きなモノで作ったんだもの 』



 モエカはこちらの言うことなど聞いていないようだった。どこか浮かれた、はしゃぐ声にゾクリとする。


 「あ、あぁ、旨かったよ。俺の好物ばかりだったからな 」


 すると、電話口でアハハッとモエカが笑う。


 『違うよ、レンくん。レンくんが《今》、《1番好きなモノ》で作ったから美味しいのよ? 』


 「モエカ? 」


 『ねぇレンくん、覚えてる?私との初めての時、1番好きって、可愛いから食べちゃいたいって言ってたよね。私、怖かったけど、そんなに愛してくれるならいいかなって思ったの。』


 どうして今、そんな話をする? 最近はずっと俺の前ではオドオドしていたモエカが、何故か饒舌で胸がざわめく。



 『だから、ルナさんは幸せだね 』


 「モエカ、お前どうして…… 」



 どうして、ルナの名前を? やっぱり全部知っているのか?



 『あっ、シチューは食べてくれた? 1番の自信作なのよ 』



 シ、……チュー? 



 「……っ?! 」



 訳の分からない焦燥感にかき立てられ、転びながら立ち上がる。走ってキッチンへと向かい、シチュー鍋の蓋を取ろうとするが、ガタガタと手がふるえて上手く取っ手が掴めない。


 この悪い予感は何なのか。俺の本能は何かを察知している。


 言うことを聞かない手を反対の手で押さえて、カチン、ガチャンと取り落としながら、やっとのことで蓋を持ち上げた。

 途端、むわぁっと上がる湯気と隠し切れない濃密な臭みに思わず眉が寄る。

 そこにあるのは、好物のビーフシチューの筈。

 しかし、目に入ってきた鍋の中身の異質さに、俺は目を見張った。無意識に、ヒュッと喉が鳴る。



 いや、まさか、そんな筈がない。そんなことがある訳がない。


 だが、見間違える筈は無かった。ぐつぐつと煮立つ表面に浮かんでいるのは、汚れた指先とネイル。それは海外旅行へ行っている筈のルナの……。



 「あ、あ…… 」


 思わず口を押さえる。感じていた違和感がすべて重なり、込み上げてくる何かを堪える。


 後ろに蹌踉めき、倒れそうになる身体を支えようと、反射的にそこにあった冷蔵庫の扉を掴んだ。

 反動で扉がゆっくりと開く。スローモーションで瞳に映されてゆく庫内。その光景が網膜で像を結んでゆく。


 まさか、そんな……。


 扉が全て開いた瞬間、声にならない声が喉の奥で詰まる。


 そこにあったのは、苦悶に満ちた表情の婚約者の顔だった。



 全てを理解した俺は、我慢出来ずに叫び声も何もかもを床に吐き出す。



 足元に落ちたスマホからはいつまでも、モエカの狂った様な笑い声が響いていた。



《ヲワリ》




   

 

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屑と玻璃 山葵 トロ @toro

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