第4章 プログラミング・ケント

 16時20分、夕方と言っても構わないかもしれないが、夏なので昼と言っても間違いとは言い切れない、と言う時間になった。


「あー、1日長っ!」

 コバルトはルンとの決闘がついさっき終わったと言うのもあって深いため息をつく。


 実はこの日、つまり8月7日はずっと動きっぱなしで、きちんとした休憩は取れていない。


「うん。本当に長い!次はボスと決闘だから1回邪魔にならないところで寝よう」

 水莱はレーダーに寝袋を3人分用意してもらい、早速横になる。


「気づかれないかな?」

 亜依は不安になりながら寝袋の中に入る。


「でも、寝る場所がここ以外ないよ」

 水莱は寝袋の中にうずくまった。



 21時42分、コバルトが真っ先に目を覚ました。


「うわっ、もうこんな時間」と腕時計を見て時間を確認したあと、水莱と亜依を起こす。


 彼女らは寝ぼけながら体を起こしたあと、水莱は

「レーダー、私たちの晩ご飯を何か用意してくれない?料理する場所が無いんだ」

 と寝ぼけた声で頼む。


「ショウチシマシタ」

 レーダーは3人分の夕食と三膳の箸を赤外線送信した。


 この日の夕食は肉そばラーメンだ。


「炭水化物だらけやけど、まだまだ決闘が続くから、グルコースを体にためておかないと」

 水莱は美味しそうにラーメンを口いっぱいに入れる。


「エネルギーが必要だもんね」

 コバルトも水莱と同じことをする。


「これから先も戦えるようにしないと。“腹が減っては戦が出来ぬ”と言うからね」

 亜依は麺を少量箸にとって口へ運ぶ。


「うん、その通り」

 水莱は汁も飲んで完食した。


「食べ終わるの速くない?」

 亜依は水莱のスピードに驚く。


「てか、完食していないのは亜依だけだけどね」

 コバルトは少し呆れる。


「わ、マジで!?」

 亜依は急いで食べる。


「ゆっくり食べた方が絶対良いで。胃腸に負担がかかるから」

 水莱は亜依を落ち着かせた。



 22時、3人とも完食したあと、ボスの所に向かうため、天井に鉄製の鎖でぶら下がっている看板を頼りにすると、気づけば地下8階の所にいた。


「あっ、ここか」

 コバルトが左折した瞬間、目前にはアクア団の上級アジト一広い広場の天井が海中トンネルのようになっており、アクリルの水槽の中に生き生きとしたジンベエザメや鮪などがたくさん泳いでいる。


 実は、地下1階から地下8階まではアクア団を象徴する“水族館”なのである。


 海中トンネルと呼ばれる巨大水槽の天井から大きなアクア団の旗を吊り下げている。旗は背景も3つの星もデコレーションに使うキラキラ光るストーンでびっしり貼り付けられている。流石上級アジト。


 そんな広場のど真ん中にケントが立っていた。


 3人は武器を構える。


「お前たち、よくぞここまで来たな」

 ケントは今朝に連れ去ったEARTH・REVOLUTIONの内の9人は木の棒に立たせ、縄で締めくくられ、口にガムテープが貼られ、苦しそうに叫ぶことしか出来ない状況である彼らを下っ端に運ばせた。


「貴様……よくもこんなことを……」

 水莱は矢を弓につがえてボスに狙いを定める。


「まあ、3人と決闘して3勝したから9人は釈放したる」

「おい待て、“釈放”とか何ちゅう言い方やねん!?私たちはお前と決闘しなあかんねん!」

 コバルトは腕を組む。


「まだオレと決闘するのは早すぎる」

 ケントはふふっと目をつぶって怪しげに笑う。


「………………………………」

 3人は思わず絶句した。


「どういう意味?」

 驚いてから言葉を発した水莱は構えていた弓矢をケントから狙いを外す。


「オレには最終兵器がある。だから、今はオレとバトルするのは早い」

 あっさり言うケントにムカついた水莱はもう一度弓矢の狙いを定め、塩辛い流氷を矢先から放つ。


 流氷はボスの目を狙い、そのあとを追う矢はボスの心臓に突き進んでいる。


 水莱の真剣な目の色はまだ変わらない。結果がどうなるかまでは矢を放った時の構えのままの格好で突っ立っている。

 下っ端が去ったあとすぐに5つの流氷の欠片はボスの目に貫通した。矢も彼の心臓に刺さった!


 がしかし、何故かケントは生きている。


 その一方、流氷と矢は万有引力で通路に落ちた。流氷は姿を消し、矢は水莱が背中に背負っている筒の中に瞬間移動した。


「なっ……ど……どういうこと?」

 水莱はその状況に納得出来ない。


「アイツが死んでいるわけでもないし……」

 亜依も呆然としている。


 コバルトは黙ったままだった。


 3人が戸惑っている様子を見たケントは高飛車に笑って

「だからオレと決闘するのは早いんだよ!」

 と指す。


「もしかして、プログラム?」

 コバルトは緑色の虹彩を見せびらかすように目を大きく開ける。


「そうだ!よく見抜いた!」

 その瞬間、ケントの全身の画像は少しずつ荒くなり、四方八方から見てもプログラムで出来ているな、とすぐわかる状態になった。


「そんな馬鹿な……」

 水莱はあまりのショックを受けて顔が急に青ざめる。


「な、きちんとした理由がわかっただろ?」

 プログラミング・ケントは一呼吸置いてから口にする。


「じゃあ、本物のオレの居場所を頑張って見つけるんだな。さらばー」

 プログラムされたケントは広場から姿を消した。



 22時23分。


「せっかくここまで来て“決闘”かと思えば、現れたのは“プログラミング・ケント”だったとかマジ有り得ない!」

 水莱は青色の弓を強く握りしめる。


「うん、考えられない!まあ、とりあえず仲間を助けよう」

 コバルトはブルーン、ケイト、キャリンの順に縄と強力なガムテープを丁寧にはがす。


 水莱は頷いて栞菜、政、憧君を助ける。

 亜依は紗理、侑馬、貴弘をコバルトと同じ方法で助ける。



 連れ去られた9人は、無事3人の元に帰ってきた。


「大丈夫?かなり衰弱しているけど……」

 水莱は夕食で食べた肉そばを9人に渡すようレーダーに頼む。


「……苦しかった」

 栞菜は赤外線送信された肉そばの器を冷えきった手で触る。


「何か奴らにされなかった?」

 亜依はあぐらをかく。


「それなりに太い棒の前に立たされて縄で締めくくられて、下っ端に監視されてた」

 紗理は肉そばをゆっくり口に運ぶ。


「と言うことは、朝食も昼食も食べていないってこと?」

 コバルトは少し真っ青になる。


「うん。下っ端らはシフト制だったから、奴らはご飯を食べてたと思う」

 ブルーンは青い目をコバルトに向ける、悩み事があるかのように。


「もう許せない!奴らの存在自体!」

 水莱は負けん気を発動する。


「どんだけ負けん気が強いねん」

 コバルトは突っ込んだ。


「ん、この中ではナンバーワンだと思う」

 水莱は力を緩めてコバルトを見る。


「よし、地球が完全に戻るまであと少し、みんなで頑張ろう!」

 亜依は拳を海中トンネルに向ける。


「オーッ!」

 残りのメンバーも拳を挙げた。

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