第2章 伝説の勇者
「いよいよ“上級アジト”かあ。そこで決闘するとか無いだろうなあ」
水莱は腕を組みながら土砂の上を歩く。
「もうここまで来たら対決になるよ」
コバルトは首を少し傾ける。
「となると“武器”と言うヤツが必要になるよね」
亜依はふぅと息を吐く。
そう喋りながら歩いていると、地盤が緩いのか、土で隠していた穴へと滑り落ちてしまった。
「何でこうなるの?ただでさえ服が濡れていると言うのに、土で汚れるとか……」
水莱は服についた泥を払いのけるが、まったく綺麗にならない。
「しかも暗い」
コバルトは臨時用に持参していた懐中電灯の明かりを点ける。
「もしや、ここは洞窟だったりして」
亜依は暗い空間をさらりと眺める。
「ココハ“ビカリアドウクツ”デス。デンセツノユウシャガ、ココデエイエンノネムリニツイタ、トイワレテイマス」
水莱のレーダーは情報を言う。
「ちょっと聞いた?ビカリア洞窟で伝説の勇者が亡くなったと言い伝えられているんだって」
水莱は驚く。
「聞いた。だいぶ前の話だと思うけど、お盆が近づいているからここに帰って来てはるかもしれないよ」
コバルトは伝説の勇者に会えるのを期待した。
「会いたいな。でも、まずは衣装を洗ったほうが良いんじゃない?」
亜依は銀色のマントを脱ぐ。
「ま、そうやな」
水莱は苦笑いして、
「レーダー、私たちの衣装を洗ってくれない?」
とレーダーに頼む。
「ショウチシマシタ」
レーダーは赤外線で水莱たちの衣装を吸い込み、三人分の普段着を赤外線送信した。
「じゃあ、洗濯してもらっている間に洞窟を探検してみない?きっと良いお宝が見つかるよ」
コバルトは懐中電灯を奥の方へ照らす。
「本当はそんな場合じゃないけど、行ってみようか」
水莱は少し悲しい顔つきをする。
10時、コバルトたちの衣装が洗濯でき、乾燥も終わった。
水莱たちは元の衣装に着替え直し、さらに奥へと進んで行く。
「わっ、行き止まりだ!」
コバルトは急ブレーキをかけた。
「でも、これ見て」
亜依はあるものに指を指す。
行き止まりの所には、土で積まれた小さな山があり、その奥には石で出来たロザリオが立っているが、かなり時間が経っているようでヒビが入っている。
「これが、いわゆる勇者の墓?」
水莱は胸からレーダーを取り出す。
「マサニ、デンセツノユウシャノハカデス!」
レーダーは興奮する。
「ほぉ。でも、ヒビが入りすぎているから、やり替えない?」
亜依は腰に手を当てる。
「それなら、私に任せて」
コバルトはバックから黒のステッキを取り出した。
「何する気?」
亜依はとまどった。
「魔法をかけるの」
コバルトはそう言ってステッキに念力を込め、石で出来たロザリオに向かって魔法をかけた。
石でできたロザリオのヒビは回復してゆき、さらにルビー、サファイア、エメラルドなどのキラキラした本物の宝石の装飾をプラスした。
「綺麗になったけど、派手すぎじゃない?」
水莱は困った顔をする。
「うーん、やりすぎたかなあ」
コバルトは不安でいっぱいになる。
すると、思いがけないことに、誰かの霊体が天井を透り抜けて3人の前に姿を現した。防具や剣、盾などの装備品がとても勇ましい。
「コノカタガ、イワユルデンセツノユウシャデス!」
水莱のレーダーは今まで以上に喜ぶ。
「僕の墓石を直してくれてありがとう」
勇者はコバルトが魔法で直した墓石をすり抜ける。
「あなたが……伝説の……勇者ですか?」
水莱は緊張する。
「そうさ。紀元前100年頃に活躍したマリス・レーラムと言うんだ」
勇者は自分の名を明かす。
「紀元前100年……けっこう前の話ですね」
亜依は驚きでいっぱいだ。
「それにしても、何故ここに墓があるのですか?」
水莱は尋ねる。
「紀元前87年、僕が43歳だった時、ここから遠く離れた所で”ビースの戦い”をしていた。僕のレーラム軍と敵のカイズン軍で戦っていた。結局は僕の軍が勝って喜びを見せたが、病気で倒れて死んでしまった。僕を信頼してくれていた人たちは、他の軍に見つからないよう、ここに墓をつくってくれた。だから、今日もずっとここに眠っているわけなのさ」
勇者は墓石にもたれかけた。
「ソンナカコガアッタノデスネ……」
水莱のレーダーは号泣した。
「ところで、何故君たちはこんなヒロインみたいな格好をしているのだ?」
「あの、8月1日にアクア団と言う団体が地球を自分のものにしようとして”オレンジ・ファイアー”を爆発させ、人々を脅しました。地球を元の状態に戻そうとして、こんな格好をしているのです」
コバルトは直立して答える。
「そうか。それは大変だなあ。で、アクア団は一体……」
「ボスが多くの下っ端をこき使ってきました。アジトは3つありましたが現在はたった1つしか残っていません」
水莱は真剣な目つきで勇者を見つめる。
「へぇ、それは何故だ?」
「私たちEARTH・REVOLUTIONが初級アジトと中級アジトを撃破したからです。ですから、残った“上級アジト”を崩壊させないといけないのですが、武器が……」
亜依は何も手にしていない手を広げる。
「君たちは地球人のために良いことをしている!君らは僕みたいな“伝説の勇者”になれるよ。メンバーは何人いるのだ?」
勇者は赤色の剣を地面に刺す。
「12人です。しかし9人は深夜、アクア団に連れ去られたのです」
水莱は涙を流す。
「これはマズイな。でも、君たちは地球を救おうと頑張ってくれているから、これらの武器を託すよ」
勇者は新品の赤の剣、緑の杖、青の弓矢をコバルトたちに渡した。大きさはいずれも120センチくらいで簡単に折れないように頑丈に作られている。
「これは、若かった時に宝石を砕いて塗装した丈夫な武器だ。でも、誰も使わないまま天に昇ってしまった」
「ですが、そんな武器を私たちに……」
コバルトは杖を握りしめる。
「これで良いんだ。人類を助けようとしている証として持って行くがよい。あと、防御用の黄色い盾もあげるよ」
勇者は丸く、中央にダイアモンドの原石が埋め込まれている盾を3人に渡す。
「あっ、ありがとうございます」
水莱たちは喜びや人類を救うと言う責任感などの複雑な気持ちになった。
「じゃあ、頑張れよ」
勇者は3人に握手をし、ゆっくり姿を消した。
「私たちが……地球を……救うのか……」
コバルトは目の周りが熱くなって、ついに大粒の涙を流した。
「うん……」
水莱も亜依もうつむいた。
洞窟から出発する前に、レーダーからろうそくと線香を用意してもらい、両方に火を灯して供養をした。
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