第3章 グライダーから眺める夜景

 だんだん道を歩いていくと、夜空にグライダーがたくさん飛んでいる。


「こんなに多く飛んでいるなんて不思議じゃない?」

 亜依は少し興味を持つ。


「ちょっと覗いてみようよ」

 紗理はとっさに走り出した。


「あ、待ってー!」

 亜依たちは紗理の後を追う。



 目的地に着くと、多くの人が集まっていた。


 水莱は係員に何をするのかを尋ねたら、係員は年に一度のグライダー大会を行っていると言った。この日は偶然団体戦だそうだ。


「どないするん?」

 政は紗理に聞く。


「やろう!あたしのお父さんがグライダーをやっているの」

 紗理はやる気満々だ。


「はあ、全くだ。オイラたちは無経験者だぞ」

 侑馬は目を細めて紗理を見る。


「まあまあ、そこはあたしに任せて。お父さんにやり方を教わったからね」

 紗理はグライダー大会の手続きを行う。


 コバルトたちは呆れながらグライダーのそばに来て、紗理に飛び方を教えてもらうことにした。



 その後……


「楽しいけど、ホンマに飛べるのかなあ」

 栞菜は不安になる。


「安心しな。あたしのやり方を見ながら操作したらいいよ」

 紗理は自信たっぷりに言う。


 今日のグライダーは、2人専用や、4人専用など、多くの人が乗れるようになっている。

 当然、EARTH・REVOLUTIONは12人専用の大規模なグライダーを選んだ。


「落っこちてしまいそう……」

 ケイトはうつむく。


「ここは、人数×距離(メートル)=点数、となっているから、あたしたちが一致団結したら、優勝出来るよ」

 紗理は飛ぶ準備をする。


「そうやな、頑張ろう!」

 ブルーンは腕を伸ばしてグライダーに乗る。



 19時半、12人揃って飛ぶ準備が完了した。


「せーのっ!」

 先頭の紗理の合図でEARTH・REVOLUTIONは息を合わせて飛ぶ。


 夜空の旅が始まった。スタート地点は山だけど、下を見れば、綺麗な夜景が見える。


「下は綺麗だけど、怖いよね」

 前から5番目にいるキャリンの心は震えている。


「下を見たら流石に怖いよ。顔を上げて、目線は真っ直ぐにしたら恐怖心は消えるよ」

 紗理は風向きを利用してグライダーを操る。


 キャリンは紗理の言うことを聞いて、顔を上げる。


「本当だ、怖くない!」

 キャリンは興奮する。


「確かに下を見たくなる気持ちはわかるけど、飛行距離が短くなりそうだしね」

 キャリンの後ろにいる亜依はそのコメントに答えた。



 EARTH・REVOLUTIONが乗っているグライダーは、まだ落ちそうにない。


「なんで、まだグライダーは落ちないの?」

 紗理の真後ろにいる水莱は不思議に思う。


「ああ、風向きを上手く利用しているからだよ。今日のここの地域の風力は一定だという予報になっているしね」

 紗理は喋りながら操作するのに必死になっている。


「へえ、よく知っているなあ」

 水莱は感心する。

 


 空の旅が始まってから20分後、少し風力が強くなる。


「紗理、風が強くなったよ、大丈夫?」

 前から3番目にいるコバルトは落ちてしまいそうだと気になる。


「あたしがいる限り大丈夫だよ」

 紗理はコバルトを安心させるように言う。


「うん、下手な運転をしないようにするわ」

 コバルトは真剣な目つきをする。


「ヨロシク」

 紗理も真剣になる。


 と、ここで1番後ろにいる憧君は、レーダーに

「今、スタート地点から何キロ?」

 と聞く。


「ニキロデス」

「えー、まだまだじゃん!」

 前から4番目の栞菜は慌て始める。


「残念だけど、大規模なグライダーはそういうもんなんだよ」

 と紗理は言う。


「ゆっくり飛んでいるし、まだ始まってから20分しか経ってないしね」

 前から7番目に乗っているケイトは落ち着いた声で言う。


「言われてみればその通りやな」

 栞菜の不安は解消した。


「まあ、簡単に言えば”落ち着け”ということだな」

 後ろから2番目にいる貴弘はそう言った。


「そうでした」

 栞菜は慎重に操作する。



 19時59分、とある珍しい風景に出会う。


「あれは何?」

 前から8番目に座っているブルーンがとあるものに指す。


 EARTH・REVOLUTIONは、その声で一斉に下を見る。


 大きな水色の物体が湖の上に浮かんでいるようで、その物体は8分音符で、ガラスの立体で出来ている。


「湖に浮かんでいるとか不思議じゃね?」

 後ろから4番目に座っている侑馬が目を細める。


「うーん、確かに不思議だな。で、レーダーの話によると、その物体の名は”ジャスト・ベル”で、1時間に1回鳴ることからそういう名前なんだって」

 侑馬の後ろにいる政がいつの間にかレーダーで調べていた。


「へえ、一度聞いてみたいものだなあ」

 紗理は興味を示す。


「えっと……あっ、今8時になった!」

 キャリンが腕時計を見て興奮する。


 ジャスト・ベルから美しい鐘の音が夜空に響き渡る。何も表現出来ないこの美しさ。今までにこんな良い音を聞いたのは初めてだ。


「ああ、良いメロディーだ。真夜中になっても睡眠の妨害にはならないね」

 亜依は目をつぶってジャスト・ベルの音色を集中して聞く。


「この音は美しいし、時間もわかりやすいから、近辺の学校のチャイム代わりにもなっているみたい」

 政はさらに情報を引っ張り出す。


「じゃあ、授業の終わりと始まりの合図が異なるんだね、おそらく」

 水莱は白い歯をむき出す。


「もし、そうだったら、ビックリだよね」

 栞菜も水莱と同じ行動をとる。


 EARTH・REVOLUTION笑い出した。



 20時10分、グライダーは着地しそうになる。


「みんな、着地の準備をして」

 紗理は足を地面に向ける。


「ここからどうすれば良かった?」

 憧君は慌て出す。


「落ち着いて。足が地面に着いたら、少し歩いたら良いの」

 紗理は着地が出来る体制になった。


「着地するよ。準備完了だよね?」

 紗理は確認する。


「OK!」

 11人は返事をする。


 EARTH・REVOLUTIONは無事に着陸した。これで、40分に渡る空の旅が終わった。



「ああ、良い旅だったなあ」

 亜依は背伸びをする。


 審査員がEARTH・REVOLUTIONの飛行距離を測った結果……

「7.832キロです!」

 と言う声を耳にした。


「……これって、長いの、短いの?」

 水莱は首の骨を鳴らす。


「うーん、微妙だけど、そこそこ良いんじゃない」

 紗理は腕を組む。


「まあ、計算したら9万3984点だから、かなり良いと思うけど」

 ケイトはスマホの電卓で計算する。


「いーねー」

 憧君は急に踊り始める。


「何踊ってんだよ」

 貴弘はツッコミを入れる。



 あれから10分後、全てのエントリーが表彰台付近に集まった。

 果たしてEARTH・REVOLUTIONは何位なのか?


「第3位……近所のお父さんたち、8万6417点!」

 ……何だ、この変なチーム名……と思った中、小さな拍手をした。


「第2位……FIREWORK、9万570点!」

 第2位に選ばれた花火職人は喜んで花火を打ち上げた。


「優勝は……EARTH・REVOLUTION、9万3984点!」

 えっ、マジで優勝……やっ……ヤッター!何かよくわからないけど嬉しい!


「それでは、表彰された3グループの方は、表彰台に上がってください」

 EARTH・REVOLUTIONは表彰台に上った。


 私たちは主催者から黄金のトロフィーをもらった。てっぺんにグライダーが飾られ、長さは30センチもある。


 それから、女子は銀色、男子は金色のマントをもらった。

 このマントは宙を飛び回ることが出来るように作られている。


「ありがとうございます!」

 EARTH・REVOLUTIONは主催者にお礼を言った。


「また、機会があれば、この大会に参加してください」

 主催者は微笑んだ。


「はい、是非とも」

 紗理はトロフィーを誇らしげに握った。


 これは、20時半のことだった。

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