第2章 魔法石に閉じ込められし者

 農家のお兄さんの姿が見えなくなると、

「それにしても、この衣装って変にド派手、ってわけじゃないんだね」

 と亜依はTシャツの色を見る。


「そうじゃなかったら、こんな服を俺らにあげるわけねーじゃん」

 貴弘は亜依の発言に呆れる。


「アンタって何も考えてへんやん。メタリックカラーって普通、光に反射して目立つはずが目立っていないの。亜依は、そのことが言いたかったんだよ」

 栞菜は服のシワを伸ばすように引っ張る。


「あっ、そういうことか」

 貴弘はやっとかのように納得した。まったく……



 夜の10時、EARTH・REVOLUTIONは既にテントを張って、夜の散歩をしている。


「ここは都会と違って、夜空が綺麗だなあ」

 ブルーンは横になって夜空を見る。


「そりゃあそうやで。ここは電気とか、ほとんど無いもんね」

 水莱はその場から北極星が見える方角に目をやる。


 すると、何かの流星群が流れた。


「コレハ、コトザノリュウセイグンデスネ」

 栞菜のビーズ・ネオンはケースから元気よく喋る。


「こと座かあ……何か良いことありそう」

 紗理は腰を揺らしながら流星群にお願いする。


「でも、こと座と白鳥座の区別がつかないよ。何か、一緒にくっついて見えるぜ」

 侑馬は夏の大三角を妙な目で見つめる。


「きっと、あの爆風のせいで星や太陽の見え方がおかしくなっているんだよ」

 憧君はあぐらをかく。



 ここで異変が。


「ち……ちょっと、流星群がこっちに来る!」

 キャリンはそう叫びながら流星群の爆風で少し遠いところに飛ばされた。


「何なんだよ!?どうなっている?」

 政は風に抵抗しながら様子を疑う。


 政の目には、先が尖った流星群の隕石が、とある一箇所に集まるのが見える。


 ドッカーン!


 政たちは爆風で300メートル先にある林の中に飛ばされてしまった。


 爆風が止んでさっきまで散歩していた道に出ると、アニメでよく目にするように、地面が直径10メートルの半球型に掘られていた。


 政は立ち上がって穴のある方向へ向かうが、突然、政は驚きすぎたのか、そこから動かなくなった。

 水莱たちは気になって政のところに急いで駆けつけた。


「あれは……」

 ケイトは震えた声で呟く。


 そう、目の前には虹色に光る、古から伝わる打製石器のような石があった。しかし、どの角度から眺めても、石の中央には何かが入っている。

 あまりにも不思議なので、お互い顔を見つめ合っていた。



 テントに戻ると、政のレーダーが不思議な石を立てる道具を用意した。


 それに石を立ててから水莱はあぐらをかいて

「それにしても、この石は何なんだ?」

 と左肘を立てる。


「マホウセキデス」

 水莱のレーダーは興奮しながら答える。


「魔法石?そんなあ、何でここに現れるんだ?」

 水莱はレーダーを胸からゆっくりと取り出す。


「ソレハゾンジマセンガ、インセキヲヒキツケルチカラヲモッテイマス」

「それで隕石がこの石に向かってきた、と言うことか」

 紗理は真剣な目つきをして魔法石を眺める。


「中には変な物体が入っているが、それは何?」

 憧君は石の中央をじっくり見る。


「……タイヘンデス!ダレカガトジコマレテイマス!」

 レーダーは慌てて宝石をカットする道具を赤外線送信した。


「コレヲツカッテ、イシヲカットシテクダサイ」

 レーダーは続けて言葉を発した。


 コバルトは魔法石を持って、機械に近づける。ギィィィと音を立てて作業する。水莱たちは黙ってコバルトの作業を見ている。



 しばらく時間が経ったあと、侑馬たちは眠っていたが、バキッと音が助けを求める。


「何だ、今の音?」

 水莱と亜依は目を覚まして起き上がる。何故か、他の人は眠っている。


「……」

 コバルトの手は怯えている。


 コバルトの目線をたどってみると、刃が折れていた。魔法石は鉄壁効果があるみたいで、ちっとも削れていない。


「ちょっと貸して」

 亜依は魔法石を握って様子を見る。縦に3分の1ぐらいに切られた魔法石の跡が治っていくのが見えた。


「……どうなっているの!?」

 亜依は魔法石から手を放し、固まった状態で寝転がった。


 水莱は亜依が落とした魔法石を手にして様子を見る。直径1ミリぐらいの丸い物体が中央に眠っている。これはどのようにすれば魔法石は割れるのか?



 8月5日の9時、まともに考えていたはずの水莱が寝ていたことに気がついた。


「これはどうするべきか?」

 水莱は起き上がって困った表情をする。


 顔を上げると、偶然キャリンは黒の粗い紙やすりを手にしていた。


「キャリン、良いヤツ持ってるやん。貸してくれない?」

 水莱はやすりに差し延べる。


「それに使うなら鉄鋼やすりの方が良いんじゃない?」

 キャリンは鉄鋼やすりを水莱に渡す。


 水莱は受け取ってテントの外に出て魔法石を削る。地味な作業だが、きっと効果があると信じて削っていく。

 


 1時間後、水莱は汗を流しながら作業を続ける。


「代わろうか?」

 優しくも亜依が言ってくれた。


 それから交代制で魔法石を削っていくと、地面には普通の石が削られた砂が溜まっていっている。



 7時間後、憧君が削っている真っ最中に魔法石が眩しい光を放つ。

 憧君たちは慌てて腕で目を隠す。

 光が収まると、8センチぐらいの虹色の妖精が現れた。


「もしかして、石に閉じ込まれていたのは……」

 ブルーンは呟く。


「そうよ。私はアクア団の”オレンジ・ファイアー”によって閉じ込められてしまったの」

 その時、我々EARTH・REVOLUTIONはアクア団の存在を改めて思い出した。


「あの爆発は偉大な力を持っていたんだ」

 貴弘は言った。


「実は、ここは妖精がたくさん住んでいる地域なの。だから、多くの妖精は私みたいに石になったままなの」

 虹色の妖精は困った顔をした。


「はあ、なるほどね。でも、昨日の夜遅くにこと座の流星群がこっちに向かって飛んできたけど、あれは一体……」

 紗理は途中で言葉が出なくなった。


「私が呼んだの。1ミリの自分から開放したかった。でも無理だった。石が頑丈すぎて割れなかった。しかし、あなた方が助けてくれたから、全ての妖精を救える」


 そう言った妖精は夜になろうとしている空に向かって手を伸ばす。

 紗理たちはボケッとした。全ての妖精を救うなんてどうやって?と思ったからだ。


 虹色の妖精の周りは光の空間でいっぱいになる。

 なんか、眩しくない!そう、水莱たちは光の世界にいるのだ。

 虹色の妖精はずっと手を伸ばしていると、あらゆる所からいろいろな色の石から妖精の姿になって集まってくる。


「全ての妖精が救えると言ったのは……」

 ブルーンは驚きで何も言えなかった。


「私が妖精の中のリーダーだからよ。誰かがピンチになったりした時に、この私が助けるの。リーダーはそういう役目があるからね」

 虹色の妖精は上品な両手を広げる。


「なるほど、そうだったのか」

 ケイトは嬉しそうな気持ちが顔に表れる。


「それでは私が代表として、あなたたちに虹色のスニーカーをあげる」

 虹色の妖精は12足分の靴を魔法かのように手から現れた。


「ウチらの靴のサイズも理解していたんだ。ありがとう!」

 キャリンは早速その靴を履く。


「それは良かった。私たちはもう時間だから元のいる場所に帰るね。さようなら」

 虹色の妖精は明るい気持ちで手を振り、周りにいるおよそ1000の妖精たちも手を振ってここから離れる。


 EARTH・REVOLUTIONも手を振ったあと、光の世界から離れていくのが目に映る。



 元の世界に戻った。もう19時だ。


「魔法石と聞いたときはびっくりしたけど、本当は妖精だった、なんて不思議なことがあるんだな」

 侑馬はキョロキョロと辺りを見る。


「でも、金色のブドウだってアクア団の仕業だし、今回の件だってアクア団の仕業だから、これからも事件が出てくると思う」

 ケイトは暗い気持ちで言う。


「そうだけど、マイナスな気持ちで事件に向かっても面白くないから、プラスの気持ちで向かっていこうよ」

 コバルトはケイトの背中を軽く叩いた。


「そうやな」

 ケイトのテンションはマイナスからプラスに変わった。

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