第2部 変身していくコスチューム

第1章 カーバン村の金色のブドウ

「何なんアイツ、意味わからんし!」

 水莱はパーカーのポケットに手を突っ込んで次の目的地に向かって歩く。


「心配すんな。いつかアクア団は滅びるさ」

 政は水莱の肩を慰めるように叩く。


「そうだよ。いつまでもくよくよしたって何も始まらないで」

 キャリンは言った。


「そうやな……」

 水莱は自信なさそうに答える。逃げられたことが悔しくて仕方がないのだ。



 8月3日の朝8時、知らないうちに亜依たちは木の下で眠っていた。


 起き上がった亜依は不思議なものを目にして、

「何あれ?」

 と不思議なものに指を指す。


 他の11人は亜依の声に反応した。


 亜依が指を指した向こうには……

 金色のブドウが1つだけあったのだ。もちろん、他のブドウはよく見る青紫色をしている。



 EARTH・REVOLUTIONは気になって、金色のブドウに近寄る。

 すると、農家の若いお兄さんにどうしたんだ?と聞かれた。


「あの、金色のブドウが気になりましてね……」

 紗理は緊張している。


 そこで、お兄さんは金色のブドウの話を始める。

「本来は畑一面の純金色のブドウを育てていた。しかし、少し前に爆発したでしょ。その爆風で金色のブドウが育たなくなって、困っているんだ」

 と悲しそうに言う。


「そもそも、金色のブドウって美味しいんですか?」

 ケイトは尋ねた。


「ああ、美味しいよ。この“カーバン村”では欠かせない果物と言われるぐらいさ」

 お兄さんは金色のブドウをひと房切る。


「君たちも食べてみ。ヤミツキの味がする自慢の果物やで」

 そう言われて、EARTH・REVOLUTIONは金色のブドウを12等分して食べる。


 もう、これは何とも言えない味で、とてもジューシー。これより美味しいブドウはこの世に存在するはずがない!


 そこで、水莱はビーズ・ネオンを取り出して、金色の皮は何で出来ているのかと尋ねたところ、レーダーは

「コレハホントウノウスイキンデデキテイマスネ」

 と即座に言う。


「えっ、薄い純金で出来てるの?」

 ブルーンは水莱のレーダーを覗き込む。


「みたいやな。でも、どうやって金色のブドウを作ったんかなあ」

 水莱の脳みそにハテナマークが飛び交う。


「大昔、普通のブドウを育てていた人がいた。大雨が降ろうが雷が落ちようが、一所懸命、粘り強く育てていた。その時、天から神様が降りてきて、願い事を1つ聞いてあげると言い、大昔の人は金色のブドウを育てたい、と言って、今日まで代々と、このブドウを栽培してきたのさ」

 お兄さんは目から涙が溢れそうになった。


「そんな歴史があったのですね」

 栞菜はお兄さんに同情する。


「何かいい方法がないのかなあ?」

 ケイトは青空を見る。


「うーん、どうしようも無いんちゃう?」

 キャリンは適当に答えた。


「ちょっとぐらい真剣に考えろよ。お兄さんがかわいそうだろ。そんなことで邪魔くさがるなよ」

 侑馬はキャリンを軽くにらむ。



 悩んでいるうちに、18時になってしまった。


「そろそろ遅いから、夕飯用意するわ」

 お兄さんが笑顔で言ってくれた。


「ありがとうございます!」

 EARTH・REVOLUTIONは機嫌よくお礼を言った。


 その間、EARTH・REVOLUTIONは農家に寝室を用意してくれた少し狭い部屋で休憩する。


「何かさあ、退屈じゃね?」

 貴弘はベッドで大いにくつろぐ。


「暇やけど、俺ら、何にも持ってねえよ」

 憧君はあくびをしながら言う。


「深夜はアクア団と言い合ったし、疲れたと思うから少しでも寝たほうが良いんじゃない」

 コバルトは白い毛布をかけて寝てしまった。


「じゃあ、そうしようか」

 貴弘はそう言って、ほとんどの人は眠りにつく。



 20時、夕食が出来た。


「いっただきまーす!」

 この日の夕食は、採れたて野菜を使ったハヤシライスが皿にいっぱい盛ってある。


「量が多いからラッキーや」

 食いしん坊の憧君はハイスピードで次々にハヤシライスを口の中に放り込む。


「もう少し味わって食べよーぜ」

 政はのんきにスプーンを動かす。


「それは遅すぎじゃない?」

 ブルーンは中ぐらいのスピードで食べる。


「そんなに遅いか?」

 政は微妙に速く食べ始める。


「ああっ、微妙にスピードが速くなったよ」

 水莱は笑いそうになった。


「そんなん知らん」

 政はそっぽを向く。


「知らん顔をしたって、オイラたちはみんなお前のことを見てるで」

 侑馬は目を細める。


「あっちゃー」

 政は頭をごまかしたかのようにかいた。


 EARTH・REVOLUTIONはゲラゲラ笑った。



 23時45分、暗い寝室の中でほとんどのメンバーは寝静まっているが、水莱と栞菜、政、憧君の4人だけ起きており、レーダーから赤外線で用意してくれた三角フラスコを使って実験をしている。


「いいかい、このフラスコの中に昼間に食べた金色のブドウの種を、持っている分だけ全部入れて」

 水莱はポケットから4個の種をフラスコの中に入れる。


 栞菜たちも三角フラスコに種を静かに入れる。フラスコの中には10個の種がある。


「じゃあ、次はコイツを入れる」

 水莱が用意したのは、夜光タイプの黄緑色の液体と、同じく夜光タイプの黄色の液体が、それぞれ大きめの試験管の中に100ミリリットルずつ入っている。


「これは19時ぐらいに私が作ったのだけど、黄緑色の液体は“ガーシュイングリーン”で黄色の液体は“マリーゴールドイエロー”という勝手につけた名前だけど、この2つを三角フラスコの中に混ぜちゃう!」

 水莱は嬉しそうな顔をしながら言う。


 三角フラスコの中に混ぜ合わせると、化学反応によって液体は濃い青になり、何とありえないことに、発生した気泡がグツグツと音を立てながら液体の量が増えていく。


「杉浦、これで大丈夫なのか?」

 憧君は心配する。


「安心しな」

 水莱は実験に夢中だ。


 気泡が発生しなくなると、三角フラスコ内の液体は青色に光っていて、金色のブドウの種は化学反応で液体に溶けてしまい、無くなっていた。しかし、液体の中には金色のブドウのDNAが種10個分の量が含まれている。


「最後に、この液体をブドウ畑にある全てのブドウに、まんべんなくかける」

 水莱は足音を立てないように外へ出る。


 後をついた政たちも交代しながら作業をする。


「協力してくれてありがとう。みんなが起きるまでには、寝室で作った青い液体を吸って遺伝子が組み換わり、やがて金色のブドウになると思うよ」

 水莱は真面目な顔をした。



 8月4日7時。


「あー、よく寝た。さて、ブドウを食べようかな」

 ブルーンはブドウ畑に向かった。


「えーっ、食べるの?」

 亜依はブルーンを小走りで追いかける。


 残った10人もブドウ畑に向かう。



「うわー、すごーい!」

 栞菜は顔から喜びがこぼれる。


 日付が変わるまでは青紫色だったブドウが金色のブドウに変わっていたのだ。


「これこそ金色のブドウ畑!」

 政は嬉しさでいっぱいだ。


「夕方から明け方までに何が起こったの?」

 状況の知らない紗理は驚く。


「実は、私ら4人が夜遅くに遺伝子を組み換える実験をして、それが大成功したのさ」

 水莱は金色のブドウを幸せな気持ちで眺める。


「やるなあ」

 コバルトは金色のブドウを触る。



 7時半、農家のお兄さんが驚いた顔で

「うわ、全部元の色になってる!」

 と言った。


「真夜中にこれらのブドウの遺伝子を組み換えしました」

 水莱は説明した。


「おお、ありがとう!これで普段通りに仕事が出来る!」

 お兄さんは昨日の悲しみが嘘みたいに機嫌よく言う。


「そんな君たちに、この衣装をあげる!」


 それぞれ手に取った衣装は、女はメタリックカラーの水色をしたTシャツと緑色の長ズボンのジャージ、男は同じくメタリックカラーの赤色をしたTシャツと青色のジャージをもらった。しかも、まったく格好悪くない。


 あまりにも嬉しかったので、EARTH・REVOLUTIONは早速その衣装を着た。


「最後に、この金色のブドウを1人ひと房持って行って。日持ちがいいから小腹が空いた時に是非食べてね」

「ありがとうございます!」

「気をつけて旅をするんだよ」

 お兄さんは笑顔で見送る。


「はい!」

 EARTH・REVOLUTIONも笑顔で手を振った。

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