『スパイ教室06 《百鬼》のジビア』特典SS
パワー
食堂にダンッと力強い音が響いた。
「うしっ、3連勝っ‼」
ジビアが得意気に自身の腕を叩く。
誰かが発した『いくらジビアでも腕相撲で三人連続では敵うまい』という言葉が発端となり行われた、八人の少女による腕相撲大会。一部の予想を覆すように、ジビアは見事に、リリィ、ティア、モニカの三人を破り、圧巻の実力を見せつけた。
勝者のジビアには、エルナとアネットを中心に、歓声と拍手が送られる。
対して悔しそうに舌打ちをするのは、決勝戦で負けたばかりのモニカだった。
「……っ、馬鹿力め」
「はっ、単純な身体能力ならあたしに勝てる訳もねぇって」
歯を見せて笑うジビアから視線を外し、モニカが不服そうな顔で離れていく。
その後はジビア打倒を目指した、追加マッチが行われていった。
「次はエルナと」「俺様の二人がかりですっ」
「ほい」
「のおおおおぉっ⁉」「俺様、瞬殺でしたっ!」「次は自分も加わって三人がかりっす!」
小柄の少女たちが数の力で打倒を試みる傍で、敗れたモニカとティアは食堂の壁にもたれ、遠巻きに眺める。勝負は無論、てんで相手にもなかったようだが。
「本当にフィジカルモンスターね」ティアはミネラルウォーターを口に含んだ。「実際のところジビアの身体能力はどうなの? 同じ実行班から見て」
「リリィの五十倍、使える」
「へぇ」
「とにかく体力があるのは強いよ。ボクとリリィが疲弊している時でも、余裕で任務に参加するしね。けっこう長めの潜伏任務とかイケるかも」
「…………」
よどみなく答えるモニカを、ティアは意外そうに見つめていた。
モニカが不愉快そうに顔をしかめる。
「なにさ?」
「アナタって結構ジビアのこと評価しているのね。意外だわ」
「バカにしてんの?」
「してないわ。ただ、私にはいつも憎まれ口なのになって思うだけ」
二人の視線の先では、腕相撲大会は続いている。やはり三人がかりでもジビアは倒せなかったらしい。エルナ、アネット、サラの三人が床に転がっていた。
「よ、四人がかりですよぉ! リリィちゃんの底力、見せてやります!」
「……わたくしは戦力にならないので、静観していますね」
更にリリィが加わり、グレーテが審判を務める。
ジビアが楽しそうに腕を揉みほぐし、四人一組となった少女たちの手を握りしめた。
「嫌なら答えなくてもいいけど」
白熱するバトルのそばでティアが冷静に質問を続ける。
「今後の任務のためにも、ぜひ聞きたいわ。アナタがジビアをそこまで認める理由はなに?」
「そんな不思議?」
「なにせ、リリィの五十倍だもの」
「……分かった。見せてあげるよ」
そう言って、モニカは壁から離れると食堂の中央に向かった。そこでは四人相手にあっさり勝ったジビアが誇らし気に二の腕を見せつけている。
「さすがだね、ジビア」モニカが声をかけた。
「おうっ、ちょっと疲れてきたところだ。リベンジか?」
「そんなところ」
ジビアが好戦的な顔でテーブルに肘をつけたところで、モニカが肩をすくめた。
「――と思っていたけど、残念だな」
「あ?」
「今日はボク、料理当番なんだよね? 今から食材を買いにいかないと」
「は? それくらい後でも――」
「という訳で、また後日。残念だよ。キミに勝てるチャンスだったのに」
ジビアの言葉には耳を貸さず、モニカは手を振り食堂を去って行く。
「あ、後味が悪っ……!」
取り残されたジビアは釈然としない表情を浮かべた。心地よいムードに水をさされ、不満らしい。怒ったように頬を膨らました。
「手伝うぞ?」
「ん?」
「いいよ、あたしが料理当番を手伝ってやっから。短縮できた時間分もう一戦やろうぜ」
「本当?」モニカが頬を緩める。「じゃあボクは料理の準備をするから、キミは食材を買いに行ってくれる?」
「え、買い出しはあたしなのか?……まぁ細かいことはいいよ! とにかく勝負だ!」
一瞬怪訝そうな顔をするが、既に臨戦態勢に入り始めたジビア。
モニカは「助かるよ」と述べ、テーブルに近づいていく。途中ティアの前で足を止め「素直なんだよ。それだけで評価できる」と言葉を残した。
ティアが大きく息を吐いた。
「コントロールしやすいってことじゃない……酷いわね」
「違うね。伸びしろが大きいってこと」
テーブルでは待ちきれないようにジビアが「よっしゃ! モニカ、かかってこい!」と叫び、周囲も「ラストマッチですね!」「俺様、名勝負を来たいしますっ」と煽る。
モニカは、納得いかない面持ちのティアを無視して「はいはい」と軽く返事をする。
※本作は『スパイ教室06《百鬼》のジビア』特典SSを修正したものです。
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