アフター・C＝ジャスティティア───正義になり損ねた男はあまねく悪を焼却する

第👎︎☜︎☹︎☜︎❄︎☜︎👎︎話 メ📫︎☼︎🕆︎

[対魔本部半壊。デザイアを震撼させた武王暗殺未遂事件]

　手に取った新聞の一面にはそんな見出しが付けられていた。宿の予約を済ませてロビーの一席で一息ついていたときに何気なく手に取った新聞の主題は、オレを釘付けにするのに十分すぎるものだった。

　記事の内容を簡単に要約すると謎の四人組が本部にいたアイアンパンツァーを襲撃、その戦いの余波で本部が半壊したとのことだ。四人組はアイアンパンツァーの返り討ちにあったものの全員逃亡。アイアンパンツァー自身も右腕を失った上に意識不明の重体で、今も予断を許さない状況だと説明されている。

　新聞を読んでいた最中で携帯が鳴る。ガスコインからの通話だ。オレはすぐに通話に出た。

『────お忙しいところすみませんヴェルトさん。緊急です』

「分かってる。本部の襲撃についてだな？」

『ご存じでしたか』

　ガスコインの声は冷静だった。しかし微かに聞こえてくる怒声や焦ったような声を聞き取ってみると、ガスコインはデザイアに戻っているようだった。一体いつの間にと思ったが、ガスコインほどの人間ならそういった類の霊装を本部から持たされていても不思議ではない。オレはそう結論づけて勝手に納得した。

「今新聞で知ったばかりだがな。だが見出しだけでも分かるぞ。これは歴史に残る大事件だ」

　肩で携帯を挟み、新聞のページをめくる。そこには左半分が削り取られたかのように消し飛んだ組合本部の写真が載せられていた。

「しかし、余波だけでここまで派手に消し飛ぶとはな」

『全くです。向こう一週間はネット上でこの事件がトレンド入りするでしょう。まぁこちらとしては都合がいいですがね』

「やっぱなんか隠してやがったか」

　ここまでは予想通りだ。最近アイアンパンツァーと交流があったオレに電話を掛けてきた時点で、ガスコインが何か表には出せない案件があることを話そうとしているのは確実だ。

　最も、その内容までは見当もつかないが。

『結論から言いますと、四人組の正体はメシアです』

「……オイオイ。いくらなんでもタイムリー過ぎやしねぇか？」

『私も耳を疑いました。しかも襲撃を指揮していたのはアスガル聖王国にいるはずのラークです』

「何？」

　今度はオレが耳を疑う番だった。アスガル聖王国にいるはずの人間がデザイアにいる？　一体どういうことだ？

　……いや、一つだけこの謎の事態を説明できる要素がある。

「────まさか霊臓（ソウルハート）か？」

『そのまさかです。アンパン野郎の話じゃラークは霊臓によって生み出した分身をデザイアに送り込んでいたようです』

　オレの予想は正解だったようだ。

　というか、ん？

「アンパン野郎って誰だ？」

『失礼。アイアンパンツァーです』

「なぁ。隙あらば闇を噴き出すの止めてくれねぇか？　反応しづらいんだよ」

『笑えばいいと思いますよ。アハハ！って』

「余計笑いづらいわ」

　デザイアに戻った時は何か飯でも奢ってやろう。そうでもしないとコイツが報われなさすぎる。折角の代休がテロリスト共のせいで丸つぶれとか、想像もしたくもない

「それで、アイアンパンツァーは無事なのか？」

『今の所五分五分です。まだ意識も取り戻していません』

「ならどうやってアイアンパンツァーから情報を得たんだ？」

『ボイスレコーダーです。力尽きる寸前に犯人の容姿や霊臓の特徴を声で残してくれていたんです。これがほんとのダイイングメッセージ、なんつって』

「縁起でもないことを言うな阿呆が」

　腐っても対魔組合の職員ということか。王は王でも愚王ではなかったらしい。内心でアイアンパンツァーに対する評価をオレは数段階上げた。

『とりあえず、ボイスレコーダーの内容を整理した資料を今から送信します。ご確認ください』

　その声の後にメールが届く。『秘密結社メシア・メンバーリスト』という名のファイルを開くが、404という三文字と空白だけが表示される。

「……送信ミスか？　エラーメッセージが出るんだが」

『あれ。ちょっと形式変えて送りなおしますね』

　少し遅れてまたメールが届く。言った通りにさっきとは違う形式で送られてきたそれを開くが、やはりエラーメッセージが表示される。

「またエラーメッセージだ。間違えて存在しないファイルを送ってねぇか？」

『いや、それはないです。今回はCC送信で自分にも届くようにしたんですが、こっちに送られてきたやつは正常に開けますよ？』

　問題があるとすればオレの方か？　そう思って携帯の設定を色々と確認してみたものの特に異常は見当たらない。

　そのとき、一通のメールが届いた。ガスコインからだ。しかし今度はファイルすらない空メールだった。

「今度は空メールだ。やっぱお前の方に問題があるんじゃないのか？」

『えっ、空メール？　何のことですか？』

「今送り直してきたやつだよ。ファイルすらなかったぞ？」

『ほんとに何のことですか？　俺は二回しかメール送ってませんけど』

「なんだと……？」

　疑問が生じた週間、再びメールが届いた。今度はガスコインからではなく、■■。ここに来て全く知らないヤツからメールが届いたのでオレは最大限まで警戒を高めた。

「……」

　鬼が出るか蛇が出るか。何が起きてもいいように構えながら、オレはメールを開いた。

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　────オレは、何をしていたんだっけ？　何でメールボックスなんて開いているんだ？

『ちょっと、聞いてますかヴェルトさん？』

「あ、あぁ……すまん。お前から送られてきたメールを確認してたんだ」

『何言ってるんですか？　俺はメールなんて一回も送ってませんよ？』

「そうだった、か……？」

『ちょっとちょっと、貴方も寝不足なんですか？』

　メールボックスをもう一度見てみるが、確かにガスコインから送られてきたメールなんてどこにもない。……旅の疲れが出ているのか？

「すまん。少し疲れているかもしれない」

『俺が言っても説得力ゼロですけど、あんま無理はしないでくださいね。後日また掛けなおすんで、今日は休んでください』

「そうさせてもらう。悪かったな」

『いえいえ。それではまた明日』

　通話が途切れる。

「……」

　何か、釈然としない。頭の中で何かが引っかかっている。頭を手で押さえて色々と考えてみるが、それが解消することはなかった。

　なんだか頭が上手く回らない。誰かに脳みそをかき回されたみたいだ。ぐにゃぐにゃしていて頭痛がする。

　そしてそれ以上に、眠い。

「とりあえず、ユーリ達に宿の場所を送らねぇと……」

　なんとか借りた部屋に戻った後、途切れそうになる意識をなんとか繋げる。殆ど根性で作成した文章と宿の場所をメールでユーリ達に送信した後、オレは睡魔に意識を吸い取られた。

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　────あとがき────