十四章 モラトリアム期間大事だよねー
二十歳の夏、高校の頃の同級生と、小学校の修学旅行を振り返ろうツアーを敢行した。メンバーは俺、笹木君、富畑君、と、高一の頃同じクラスだった俊ちゃんこと谷河君、の四人だ。四人とも小学校の修学旅行はヤタローウィンというホテルだった。ヤタローウィンという響きに反応しない小学生はいるのだろうか。ただ面白くて長崎まで行く奴らなのだ。
ヤタローウィンに行く。自動車免許は俺しか持ってない。車ごとフェリーに乗って島原港から長崎市内を目指す予定だ。
カセットテープを笹木君が準備してくる。今回乗る車にはCDプレイヤーが付いてない。マツダのキャロル、色はワインレッドをしている。軽自動車だ。「赤い彗星」の異名を持つ。まずは、家から近い順、富畑君、笹木君、谷河君、とそれぞれの家まで彼等を迎えに行かなくてはならない。
それが済めばテンションが上がりに上がって旅が始まる。
「行くぜ。」
四人でわいわい騒いで出発した。
一つ財布を用意し、共通で支払うもの、例えば、入場費、ガソリン代、宿泊費などのために全員から同じ金額を徴収しそれに入れる。そしてそれから入場費、ガソリン代などを払う。それを「バンク」と呼んだ。
車に乗ったまま「バンク」からフェリーの運賃を払い、そのままフェリーに乗り込んだ。そして車から降りる。島原港までボロいフェリーが俺たちを運ぶ。高校の頃、抜き打ちで島原に一泊旅行に行ったときのようにカモメが乗客とセッションしている。
「こりゃ凄い。」
笹木君が言った。
「そうだろ。」
「ピーナッツも食う。」
と俺と富畑君。
「凄いね。」
と谷河君。谷河君は、俺から「しゅんちゃん」と呼ばれている。谷川と言えば俊太郎だろう。ただ名字が谷河なだけで、俺からそう呼ばれている。川の字は違うが。彼はアイドル好きで包容力がある。眼鏡を掛けている。以前、
「モーニング娘。のコンサート行かない?」
と誘われ、
「いいよ」
と彼に付き合ったことがある。繰り返すが乗りが命なのだ。
そして、富畑君とはよく二人でビリヤードに行く。ジュース代を賭けたりする。本気の勝負だ。無口にプレイする。ちなみに冨田君は背が低い。
海を眺めたりしフェリーの時間を過ごした。島原港に着くと車に乗ってフェリーを降り、まず寄り道のグラバー邸を目指した。適当に地図を見ながらだ。「赤い彗星」だけにかなりとばしている。佐々木君が
「じゃあ、そこ右。」
と、地図を見ながら俺に指示を出す。かなり適当だ。佐々木君の指示をみんなは「笹木ナビ」と称した。ディープパープルのバーンという曲を繰り返し聴いた。
昼食は笹木君リクエストのグラバー邸の側のレストランの皿うどんだ。
「小学校の修学旅行で食べたときの味が忘れられない」
そう言っている。笹木君のためにここまで来たのだ。まあ側にガラス館もあるが。そのことが俺のテンションを上げる。
「ああ、楽しいぜ。」
と俺。
「コウメ、テンション高いね。」
富畑君が言った。
「そりゃもう。」
と俺が返す。
例のレストランで全員が皿うどんを頼む。皿うどんが目の前に置かれた。俺が、
「笹木君これ?」
と訊いた。笹木君が、
「そう。」
と答えた。
「味はどう?一緒?」
と俺が訊く。
「一緒やね。」
食事が済むとガラス館に行った。テンションが上がる。俺はダックスフントの置物を買った。ガラス館には十分ほどいた。
で、ヤタローウィンへと向かった。車で流れる音楽は相変わらずディープパープルだ。
「別のも聴きたいな。」
俺が言った。
「どんなの?」
と笹木君。
「なんでもいい。」
と俺。
「音楽変えていい?」
と、俺は富畑君と谷河君に訊いた。
二人の了承を得て流れる音楽が変わった。Jポップだ!そのまま車を走らせた。長崎の中心部を通過したが、どこかぬるい印象をもった。
ヤタローウィンが視界に入ってきた。もう日は暮れそうだ。夕食はコンビニで買ってホテルに持ち込む予定だ。
予定通りコンビニで夕食を買い、ヤタローウィンに到着した。用意された部屋は洋室だった。ソファーでくつろいだ。
「ああ、疲れた。」
ドライバーは俺しかいない。
「お疲れ。」
谷河君がそう言ってくれた。
「飯もう食おっか?」
俺が聞いた。
「そやね。」
笹木君が答え、テレビを見ながらの夕食が始まった。笹木君がおでんのパックを開ける。「明日どうしよう?」
俺が訊く。
「朝飯食ったらそのまま福岡?」
富畑君が訊いた。
「特に行きたいとことかある?」
俺がみんなに訊いた。誰も特に無いらしい。
「じゃそのまま福岡ね。」
俺が言った。福岡には笹木君の借りているアパートがある。大学で笹木君は福岡に行ったのだ。明日、彼のアパートに行く予定だ。
「景色いいねぇ。」
と谷河君が言った。窓の外も部屋の中もオレンジ色をしている。ヤタローウィンは崖の上にそびえ立っている。下界がもの凄く下に見える。
「いいね」
と俺が谷河君に続いた。
「お風呂どうする?」
富畑君が訊いた。笹木君は、
「大浴場に。」
と言ったが、
「いや部屋ので。」
と俺が拒み、部屋に設置されているバスルームで全員済ますこととなった。本当にいい仲間達なのでいっさい気を遣わない。生涯の友達だ。その日は穏やかに過ぎていった。
翌朝になってホテルで朝食をとったのだが、ホテルマンの態度がなってなかった。
「ここのホテルマン態度悪い。」
そいつに聞こえた。俺たちの朝食が済むと、帰り際、俺の背中にそいつは
「ありがとうございます。」
と言った。
笹木君宅に到着するのに非常に長い時間費やした。六畳の部屋の奥にベッドが横向きに置かれている。俺は随分と疲れている。
「泊まる?」
笹木君が訊いた。
「いや、今日のうちに帰ろう。」
俺が答えた。他の二人はどちらでもよさそうにしている。一時間ほど経過して熊本に向かった。高速道路でありえない程神経を使った。全員を送り届け、「赤い彗星」は家に帰った。
翌年、中学校の修学旅行を振り返ろう、ということになった。また夏だ。今回は二泊三日で、広島と宮島に泊まる。谷河君は物理的に参加できなかった。モッツアレラ氏という、谷河君と同じで、高一のときに同じクラスだった同級生、が参加した。彼は天然キャラだ。ボウリング場のボールでガラス板を破損させた経歴を持つ。そのときは
「すいません」
の一言で済んだ。彼の人柄が功を奏したのだろう。
他の参加者は、俺、笹木君、富畑君の三人で合計四人だ。事前の作戦会議はファミレス、ジョイフルで行った。
俺は中学の頃の修学旅行のしおりを持っていて、宮島のホテルは俺が中学の修学旅行で泊まったホテルと同じ場所にすることができた。そして、広島でプロ野球を観戦しようということになった。それ以外で広島に特に用はない。泊まるだけだ。その宿泊先もこのファミレスの会議で観光ガイドを見て決める。
「おっはー。」
と旅行当日、モッツアレラ氏宅まで行きモッツアレラ氏を迎える。足は家の車だ。その車は進化しホンダのステップワゴンに。色は進化する前と同じ、ワインレッドだ。「ナイチンゲール」と呼んでいる。「ナイチンゲール」はカーナビを搭載している。
「おはよう。」
とモッツアレラ氏。次は富畑君を迎えに行く。それが済み、笹木君を迎える。
「へい、お待ち。」
笹木君に言った。
「ちーっす。」
と笹木君はみんなと挨拶を交わす。このときまでに笹木君と富畑君は運転免許を取り、ドライバーが計三人になった。俺の負担が軽減される。まあ大きい車の運転は難しいだろうが。
全員揃い出発。カーナビは便利だ。九州を抜け本州に着く。昼時にファミレス、ジョイフルがあったのでそこに入った。一階が駐車場になっていて二階がレストランだ。本州にまでジョイフルがあるとは。そこで全員がランチを注文する。
「ジーパンのブランド何?」
俺が富畑君に訊く。
「特にどこのものかわからん。」
富畑君が答える。
「リーバイス知ってる?」
と再び俺。
「いや、知らんね。」
「最初にジーパン作ったところ。そこのお勧め。」
「おお、要チェック。」
四人分料理が運ばれてくる。俺は、
「次運転してみる?」
と笹木君と富畑君に訊いた。
「車でかいから自信ない。」
と富畑君。笹木君は、
「じゃあちょっと運転してみようかな。」
と言った。
食事が済んだ。笹木君の運転はたどたどしく、危なっかしかったが、道に出ると落ち着いた。コンビニで俺とバトンタッチ。運転しないで車にいるのは妙な気分がした。そのまま広島に向かう。
広島に到着した。広島の中心部は流石に栄えていた。まず、ホテルの駐車場に車を停め、ホテルにチェックインした。そこから歩いて広島市民球場へ。偶然、モッツアレラ氏の大学の同級生と遭遇した。
「内野席に。」
と言う笹木君に対して、
「外野席安いから外野席にしない?」
と俺が言った。
「じゃあ外野席で。」
ということになり、「バンク」から外野席のチケットを買った。
試合が始まった。選手との距離が近い。球場が狭いからだ。これは見に来ておいて良かった。旅行の高揚感と観戦している臨場感とが交わる。客が周りにあまりいなかったのも良かった。
観戦した後、コンビニで夕食を買いホテルに持ち込んだ。食事をとる。誰かがプレステ2を持って来ていた。
「ああ!」
「よし。」
「くそ。」
「ウィイレ」大会が行われているが俺は参加しない。特に笹木君とモッツアレラ氏がマジになっている。明日は宮島だ。俺は冷めているのか。時間がゆっくり経過する。
二日目、ホテルで朝食と会計を済ませ、宮島に向かった。特に寄る所もない、ストレートに宮島だ。車ごとフェリーに乗って宮島に運ばれる。宮島には鹿がいる。
まず、ホテルにチェックインし、車を停める。それから厳島神社に向かった。干潮で海水が神社まで来ていない。面白くない。すぐに引き揚げた。島の案内板によると水族館があるらしい。俺は行ってみたい。
「行かない?」
訊いてみたが、誰も行きたがらない。俺の提案はボツになった。コンビニで買ってホテルに持ち込んだ夕食を済ませ、もう一度神社に行く。今度は鳥居がライトアップされ、潮は満ちていたが、カップルが多くて近づけなかった。
部屋に戻る。また「ウィイレ」大会が始まる。勿論参加しない。一人布団の上に横になって、二リットルのミネラルウォーターのペットボトルを片手にピーナッツをポリポリ食っていた。
「いやぁ、絵になるねぇ。コウメ。」
富畑君が俺にそう言った。
「ありがとう。」
明日は特にどこにも寄らずに帰る予定だ。
「ああ、楽しい。」
と俺は言った。そして、
「仲間とはかくぞあるべきものかな。」
と言った。
俺は仲間に恵まれている、と改めて思い、感謝した。
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