十三章 啓示

 ライブが終わり、マジでほっとした。万全な準備の大切さよ、それに尽きる。そして次の日牧場に行く為の作業着を買いに作業着屋に行った。チャリも気軽に漕げるわー。嗚呼ホッとした。高校もおさらばしてなー、縛りが無いのは良いですね。 

 南高江の作業着屋で上下セットで買った。流石は作業着っ中感じて、とにかく安い。

 穏やかに時は過ぎ、もう明日出発だ。宮崎の小野町牧場。宿泊、洗濯、食事が無料である。朝五時から夕方迄作業がある。

 高速バスで武田君と向かう。結構遠い。俺は嫌でも無いが、行きたいなも思っていない。

 到着した。小野町さんが車で迎えに来た。乗ってからやや小さい山を登って行く。この山ごと牧場の敷地だそうだ。家は平屋で広い。俺と武田君は相部屋で客室風の作りの部屋だ。

 小学生の娘さんが二人と、両親と、祖父母の構成だ。早速せっせと働く事になった。牛の飼料の種類と与え方を教わる。TMRと言う飼料があったので、俺と武田君はこれをレボレボと呼んだ。牛はめちゃくちゃいる。オスは黒い牛で囲いの中だ。

 メスは舎飼いでめちゃめちゃいる。搾乳は機械なんだなぁ。糞を水切り見たいなヤツで引いてコンベヤまで落としたりする。

 列に並んだ牛がお尻を向けて繋いであって、お尻の後ろにコンベヤが糞を運んでまとめる。そのコンベヤに落とすのだ。

 お父さんに代替わりしてるそうだ。お母さんに聞くと、この牛は搾るだけ搾っておいて肉も食べるそうだ。

「麻婆豆腐とか全然食うよ。」

だそうだ。

「ですよね。」

 さくさく作業していく。イノシシを捕らえて入れてあったりする。何か阿蘇でよく見かける巨大はお麩みたいな物体の正体が牧草だとわかった。

 夜はカレーライスだった。武田君はゲーマーなのでお父さんと後でマリオカートをするということだ。早めに寝ないと朝5時起きなので。

 朝から糞掃除して搾乳の機械を付ける。嗚呼凄い。やることはいっぱい。大活躍だ。夕方まで働くというか手伝うというか。レボレボはヘビロテだ。

 次の日も同じ。次の日も。たまに山を下りて買い物に連れて行ってくれたり。ここの校区は娘さんがいるので廃校にならないらしい。姉が卒業し、廃校になるところを妹が入学したりして。ちょうどその件が、ローカルニュースでその事が放送されるといい、皆で観た。

 カスタムしたガスガンを使って遊ばせてもらった。スコープで空き缶の値段の小さいシールを狙う。 武田君は失敗した。俺の番。

 スコープで覗いてシールの位置を確認し、最後は目を閉じ、手の感覚だけに集中して銃口をホールドし、撃った。

「ぱっ。」

「鈍い音なので外したか。」

おじいさまが言う。確認したら、成功していた。

おじいさまは俺に

「やるやんけ小僧。」

だそうな。

 何か他には鹿の角を探したりした。帰る前に武田君が、うさぎを、飼いたいので無料で小学校から貰った。

 最後のおやつが寿司だった。俺は寿司慣れしていない。わさびに抵抗感がある。武田君に、

「寿司とか食う?俺あんまり。」

と言うと、

「俺も。そんなに。」

ということでおかあさんに返した。

 帰るとき娘さんたちに

「バイバイ。」

「バイバイ。」

と挨拶し、お母さんから、

「ありがとう。」

と言われ、嗚呼ためになったのだなと思い帰路についた。

「武田君、楽しかった?」

とバスで聞いた。

「楽しかったよ。ジャコと、フリーも飼えたし。西村君は?」

「いや、あんまり。」

これはミュージシャン特有のジョークなのだ。ジャコとフリーはうさぎの名前だ。

「チャオ。」

バス停で武田君と別れた。

 後日、自動車学校の入学式に行った。自転車で通える距離だ。大体俺の地元の奴等は三陽自転車学校田崎校だ。夜、入学式があった。

 入学式は五分で終わった。何か前にやらかしたら自己申告しろ的な説明があり、

「え?」

何人も不安そうに報告に行ってる。こんなに輩がいるのか。蒼天已に死す。こんなにいるのか。こんなのが。交通違反というか。乱世の訪れかという位に、世が荒れている。乱世が来てる。

 俺は支払いは一括だった。へぇ、学科と実技ねぇ。なるほど。全てこの日のするべきことを終え帰るとするか。

 新年度から通う予備校にも、手続きに行かないといけない。ふぅん。何か色々免除がある。成績次第か。俺ですら入学金が無料になった。明日行こうかな。

 特に張り切ったりせず、手続きが済み帰る。何じゃなく駅に寄った。この予備校は駅のすぐ側だ。この県最大の駅のすぐ側。何か建物の隙間に占い師がいる。

「おい、そこの若いの、ヘイ、ユー。将来占っちゃえよ。」

俺はギョッとしたが、

「いくらですか?」

と聞いた。

「ワンコイン。」

変わったヤツ。

「じゃあお願いします。」

台を挟んで占い師の前に座った。お決まりの謎の水晶がある。占い師は俺の顔とかを覗き込んでいる。

「えぇー。あなたは治世の能臣、乱世の奸雄です、はい。」

「ん。」

なんじゃそりゃ。であるか。

「あ、じゃなくて、もっと凄い相が、ヤバいヤバい。」

と占い師は言った。

「え。」

「あなたは史上最も有名な英雄になるよ。それでいて同時に今の普通の只の人のままだ。」

と占い師は言う。続けて、

「今は、周りの既成の価値観にとらわれているように過ごしてそうな面してるが、それがあなたの宿命を、あなたに気付かせないでいるよ。

 まだその時じゃない。あと十年はこのままだろうな。十年と少し経てば、お前は世紀の英雄になる。それと同時に、只の何の気取りの無い人格は、今のままな英雄になる。前例はないだろ?こんな奴聞いたことが無いな、といふやうな人間なのだ。

 私はこれ以上の事を伏せるが、その時にその理由もわかるだろうよ。

 あえて言うなら、お前は今のままでいる、という感じ。例えどれだけ才能があり結果を出そうが、本当に今と変わるところは無いかな。何もかも変わらん。その意味をよく考えな。ふふ。まぁ勝手に気付くさ。年月と共に気付いていくしか無いなこれ。」

と言った占い師は五百円受け取った。

 俺は初めて占いを受けたが、これは何なのだ。ただ面白い事を言ってただ面白がってもらうだけなのか。変な奴だったな。ま、占い師とか全員そうだろ。

 そうだとしても逆に面白いな。そういうエンターテインメントがあるのか。占いとしてはあてにならんけど。いやー。

 俺は駅から自転車で家に帰っている。















 

 



 


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