十章 モラトリアム期間
俺は今、高校三年生の秋で部活も終わった。引退だ。もっぱらプラモデルを作ったり、ギターを弾いたりしている。そういう日々だ。
あまりり大学受験に真剣でもない。バンド関係の友人の武田君は大学受験せずに福岡の音楽専門学校に行くつもりでいる。
俺は限りなくどうでもいい気持ちで大学進学しようかなぁ、程度に思っている。なので、期末や中間テストも適当にこなす。一週間前から勉強などしない。
あまりに適当に過ごしているので、学校のカバンの中にプラモの説明書が入っていた。
多分、昨日の夜、カバンのチャックを開けたまま、勉強机の横に掛けていたときに、入ったのだろう。登校し、カバンを開けたらプラモの説明書出てきたら誰でも同じ気持ちになりはしないだろうか。公私混同的な感情が芽生えた。
学校の成績はクラスメイトの友達の中では、富畑君が一番良い、次はニッチン。俺はその次位。俺と他の友達は、ほぼ横一線達だろう。
何の不思議も無い。富畑君とニッチンは遊びの付き合いもそこまで乗って来ず、勉強してる人達だ。
俺はもう進学に対しても張り切ってる訳ではないし、バンド活動も楽しい。不満は無い。
まぁもし身長が百八十センチあればプロの格闘家を目指しただろう。それは間違い無い。
進路などはこんな風に適当に軽く考えているのだ。この高校の同級生で大学進学しないのは、一年の時の友達の俊ちゃんくらいだ。
適当に過ごすのも悪くない。中学時代の友達と今度遊ぶ事になっている。多分カラオケだろう。日曜だったっけ。
高校の友達に比べて、中学時代の友達の方が偏差値が低めなので、遊びが過激だ。というか、ハイだ。ナチュラルハイ。敢えて言えば、勉強をしている人特有の落ち着きに似た貫禄が無い。馬鹿丸出しだ。俺も含めてだが。
本山という場所の三号線沿いのカラオケに中学のときの友達たちと行く。メンバーは、ヤミーという農業高校の乗馬部所属の園芸果樹科の奴、ピロヒという西のダサい公立高校のバドミントン部部長だった奴、
カラオケボックスに到着し、部屋に入る。ヤミーが、
「ほら孔明、一曲目入れるた。」
と言う。俺は、
「あー。」
ビジュアル系の曲を入れる。
只今俺は歌っているが、なぜ俺達はカラオケに飽きないのかと、歌いながら思った。点数を付けいているなぁ。
まあ点数とかも楽しいからな。結果が楽しみだ、何点かなー。ヤミーもピロヒも濠丸もノリノリで、
「何点や。」
「さあ、どうか。」
「ジャカジャカジャカジャカーン」。」
ピロヒは口でドラムをロールしている。我々は常にこのようなテンションで、遊んでいるのである。
点数がでる。
「じゃじゃーん」
とカラオケが俺に点数を付けた。八じゅーーぅうー八てぇーーん!
「おー。」
ピロヒが言う、
「こんなものか。」
俺が言う。
次は壕丸だ。一応競っている。俺達は一応。堀丸はやはりビーズだ。壕丸はベストが二枚出たときからずっとファンだ。メンバーに「さん」を付ける程リスペクトしている。
点数はぁーっ、七じゅーーぅうー五てぇーん。ま、いつも通り。
次はピロヒだ、こいつは俺に遅れてバンドを始めている。担当はドラムだ。自分の高校の友達で組んでいる、そいつ等に俺は面識がある。ラルクが好きなメンバーが居るのでラルクをするそうだ。ギターの
脱線するが、壕丸とピロヒの通う西の公立高校はダサい。そして学校の周りはなにもない。あるとしたら最近出来たビッグ・ザ・ビッグというちょっと大きいスーパー位だ。ストイックか!
ピロヒは、そのビッグ・ザ・ビッグにはハンバーガーチェーンが入っている、それだけしか無いので安いハンバーガー単品で大食いバトルをするのだそうだ。それ以外に遊ぶ事が無いのだ。西には、それしか。
ピロヒは俺の高校に一般入試で合格している。俺と同じ。なのに、より、結構、偏差値の低いこのダサい西の公立高校に行きやがった。
そしてピロヒは楽しそうに高校生活を送っているように見える。結構なことだ。
ピロヒも歌い終わった。ポップなやつを歌った。点数はぁーっ、何と八じゅっーーてぇーーん。ま、いつもこんなものだ。波乱は無い。
「まあまあだ。」
ピロヒに俺は言った。
「ま、いつもどおりだ。」
とピロヒは答える。
ヤミーも歌う。日本のパンクバンドを。点数は八十点。
「あ、低い。」
ヤミーは言った。
「おやおや。」
ピロヒが煽る。
「そんなパワーじゃ、この僕は倒せない。」
と俺は言った。
「あはは。」
壕丸は笑う。
いつもこんな乗りだ。それに加えてなんさま他の同級生の文句を言いまくるくらいか。あとは麻雀をしたり、ストリートファイターゼロツーとか。これが上手いのはヤミーと壕丸だ。
因みに壕丸は運動神経が良い。ヤミーも。ゲーセンの運動系は俺は二人に負ける。ピロヒも。
暫く歌っていく。濠丸はビーズが七割を占める。俺は最近洋楽もいく。レッチリは上手くいかないで苦戦するな、難しい。そもそも歌詞英語で、覚えていない。俺は、ほぼ毎回、エックスのバラードを歌うが、間奏が長くて一曲で八分超えるので、ひんしゅくを買う、事がたまにある。
ヤミーとピロヒの嗜好は似ていて、ポップ路線だ、何か芸能人大好きって感じである。いや、いいと思いますよ、俺は。
そういえば夏に中学の友達で、モー娘。を見に行ったっけ。確かその時もヤミーとピロヒはもう、モー娘。の誰々がー、とか、話しまくっていた。特にピロヒは凄い、凄い好きなんだねー芸能界が。実に度し難いのぅ。
挙句の果てにピロヒは某DJをリスペクトしている。土曜の夜のカラオケの歌番組のDJさんを。中学一年の時、ピロヒと同じクラスだったが、教室でもそんな雰囲気をピロヒは出していた、わかりやすく言うと教室で元気に騒いでいた。
ハッスル、ハッスルぅ。芸能人大好きか!こういう奴が将来芸能人になるんんだろうか。今の所俺はこいつのサインは大丈夫だったけど。
時間は経ち、カラオケの点数合戦もクライマックスに差し掛かる。いつもの曲が出番だ。ピロヒはELTの例の曲で九十点をいつも超える。今日もか。今日はさあどうか。今歌ってる途中でしょうが。この曲は高得点が出やすい。有名な話だ。
「さー。」
あ、九十二点。
「あー今日はま、ままっこんなものか。」
次は拙者。ルナシーいっとくぅ?
「さあ。」
あー、九十二点。別にどうという事は無いスコアだ。
そして、テンションが高めで、ヤミーの歌に合わせ全員で左右にターンしてダンシングしている。言うなれば全員馬鹿なのだ。
パリーン。
「あ。」
踊っていると俺の手がテーブルのグラスに当たり下に落ちて割れた。
「俺としたことが。是非も無し。」
皆、舞を舞うのを止めた、はっきり言って興冷めである、とでも思ったか。
逆に笑いになった。
「あはは。」
真っ先にヤミーは俺の不幸を祝ってくれる。いつだってそうさ。
「ま、いいんじゃ。一生懸命踊ったミスやん。」
ピロヒは言う。
「いや、ふざけていたさ。俺はプロダンサーでも目指しているんかあ。」
踊りの質はもう黒人のノリに近かった、全員ファンキーなのだ。このメンバーは。濠丸も、
「なんしとーと。」
と博多弁を繰り出して来た。
「もう時間だ。」
俺は言った。
皆、
「飯行こう。この後。」
全員賛成しカラオケボックスを出た。またチャリで次の目的地を皆で目指す。
「どこ行く。」
俺が言った。
「湯ラックスに飯の後行くね。」
濠丸が言った。湯ラックスはここの側の温泉だ、一人数百円で済む。
「行くか。どがん。」
ヤミーが言う。
「今日はもう帰るか。味のシマダ行くか。」
ピロヒが言う。
「どっちがええ。」
味のシマダは地元のお好み焼き屋で、関西風も広島風もモダン焼きもある。カツ丼も焼肉もセットに付けられ、トッピングも自在だ。我々は常連であるのだ。中学の同級生ともよく鉢合わせる。
「おー俺はどっちでもええ。」
と俺は言った。
「何かシマダ行きたくなってきた。」
とヤミーが言った。俺は、
「その心理は、ルナシーでい言うなれば,『だんだんドームがちっちゃくなってきた。』みたいな?
「あはは。君面白い事言うね。」
「で、あるか。」
「ヤミー。もうそうしよう。シマダにしよ。」
濠丸が言い、地元に向かう。
自転車に乗って移動中も適当に話ながらだ。まあ進路の話とか。ヤミーが、
「俺の部活が今度、文化祭で乗馬体験するけん、する件。する件に関しまして。」
と言った。フリースタイルで韻を踏む。
「お前ら来ちゃえよ。」
と言った。
「来れたら来るぅ。きっと来るぅ。」
俺は言った。
「ヤミーさっきのラップ上手かったよ。文化祭、前向きに検討する。」
とピロヒは言った。ヤミーは乗馬部所属だ。競馬のジョッキーに憧れている。ヤミーは小柄だ。
「わかった。」
と濠丸は言った。
ヤミーは農業高校なので大学進学しない。ヤミーだけだ。俺とピロヒと壕丸は大学に行く。ヤミーは高三の秋でも、大学進学しないから部活を引退しないのだろう。
地元に着いた。さあいざ、味のシマダに入店、店主はがっつり俺達の顔を知っている。
「へい、らっしゃい。」
と言われ、
「こんばんわ。」
「こんばんわ。」
「どーも。」
とか会釈したり。
注文はヤミー主導でハーフカツ丼と関西風お好み焼きの定食だろうな。異存はない。
「ハーフカツ丼定食にするや。」
「よかよ。」
「御意。」
「はっ。」
皆従う。
そのミックス定食のお好み焼きを、通常豚玉なところを、値段を増してミックスに変える。
「ミックスにするや。」
「はい。」
「わかった。」
「ええよ。」
店員に、
「ハーフ定食をミックスで。四つ。」
ヤミーが言った。
「はい。ハーフ定食をミックスで四つ。」
確認され、うなずく。
俺もここは関西の方が好きだ。店のカウンターに中学の同級生の田吉がいる。こいつとかはこの店に最も近い所に家がある。三百メートルあるか。常連丸出し。まぁそうなっちゃうよね。
店はもう俺の記憶がある時からある。古いのだ。まぁ皆の御用達なのだ。店主は、そういう訳で三歳位から俺を知っているのだ。多分四人の中で一番古い常連だ。その時から店の外装も内装も変わっていない。
「進路どがんすると。」
俺は皆に聞く。壕丸は、
「推薦欲しい。」
と言った。俺は、
「指定校。」
と聞いた。
「そうよ、まぁ親に負担かけたくないけん、公立の大学が良い。」
壕丸の姉は大学生で公立大学の四年だ。北九州の大学にいる。ちなみに壕丸は姉を大変慕っている。俺は、
「姉ちゃんの大学行けんと?」
と聞いた。姉ちゃんの方が壕丸より学業は優秀だ。
「まぁ、そうできたら嬉しいね。難しいけど。」
「ふーん。」
「孔明は。」
「天の意志に身を委ねる。知らん。どうでもいい。多分指定校で東京行くんじゃね。行けたら。知らん。」
「へー。」
「ピロヒは。」
俺は聞いた。
「学園な大学。指定校。」
とピロヒは答えた。
「はぁ。」
「へー。」
相づちを打つ。
「ヤミーは。」
俺は聞いた。
「どっかに就職。」
「競馬学校は。」
「イロイロと無理。」
「そう。」
ヤミーはジョッキーを目指していた。やめたのか。
「農業関係は。」
ヤミーは園芸果樹科だ。
「いや農業好きくない。というか、あまり考えていない。」
「まじ。」
「へー。」
そうこうあれこれ話していると飯が来た。
「パクパク。」
やっぱこの店は関西だろう。うーんどうでしょうかー、えーやはりー。関西ミックスでしょうかー。
この店で皆でこれを食うルーティンは割とヘビロテかも知れん。なので無言で食う。
「あー食った、食った。」
皆退店時にきちんと店主に挨拶し帰る。
俺は値段が、ミックスに変えたのに同じだったことに気付いた。まじか。
週があけて、ジョニー先生の授業だ。この授業は選択授業である。クラスメイトの大多数は受験勉強の方のこっちじゃない方のを、教室で受けているのに、俺達は風流を追い求めてジョニー先生の授業をとった。
因みにその俺達のクラスは特進クラスなのだ。まぁいいじゃないか。そんなことよりもギターを弾こうよ、何か見えてくるかもしれないよ。
「キンコンカコーン。」
チャイムが鳴り、ジョニー先生が授業を始めた。たまにこの授業は助っ人外国人が招集される。俺達のともだちのアンソニーとか。レッチリの人ではない。今日は来ていない。
この授業を選んで今まで教わったのは有益な情報の数々であると言える。大変勉強になったと振り返る。
まず、ジョニー先生の出身地であるモンタナは、なんさま田舎であるということを知ることができた。まあ半分森と思ってもらっていい。嗚呼すげぇ、あはれなり。
次に、ジョニー先生に教わったのは将来の夢を聞かれたら、こう答えろ。模範解答。セットフォートゥカンカーザワールド。これは世界制服である。
これ以外は覚えていない。まあいいじゃないか。ジョニー先生含めアンソニーも、もうオーストラリアに帰ったマークもだか、ある特定とのジョークが全く有効ではないのだ。奴らの方が上だ。俺もすぐにその件に対応した。今じゃ奴らの気持ちが判る。
奴らは、あとスポーツドリンクはアクエリアス一択らしい。
「古城くん不登校なので、皆で彼の家に行ってみましょう。」
とジョニー先生は言った。マジで。
「オッケー。」
「オッケー。」
「オッケー。」
皆言った。これは残業か。ノーギャラ。まあ嫌ではない。であるか、という気分。
「じゃあ今週末の金曜の放課後に。」
とジョニー先生は言った。
「オッケー。」
「オッケー。」
「オッケー。」
決定した。
「最近の近況を英語で一人ずつ申せ。」
とジョニー先生は言った。因みにやり取りは全部英語たい。俺から、英語で、
「最近気付いた事があって、それは山口県の田舎の方はまだ大政奉還された事を知らない人がいます、という事をす。はっきり言って衝撃。電話とかはまだ、メイが、行方不明になった時サツキが使うヤツ。」
と言った。続けて、
「都会の方は最近シュークリームの美味しさが理解できるようになった、山口県。これだから田舎は困る。販促かけるとすぐバンバン発注しやがって(笑)。美味しさに気付いたか。」
と言った。
「アメリカンジョーク。菓子パンメーカーか!アーユー?」
と言った。ジョニー先生は、
「孔明はスマート。」
と俺に言った。皆面白かったらしい。俺も面白いよ山口は。俺が面白いんじゃなくて山口が面白い。俺はジョニー先生に、
「
と日本語で言った。
皆の話題が終わって、新しい知事の話になった。ジョニー先生、
「どう思う。」
誰だっけ。坂町君は
「女性初の知事でしょ。」
安谷さんは、
「これで一安心。」
俺は
「I know her name 」
間があって、
「only.」
と言った。ジョニー先生は笑いながら、
「You know her name only? 」
と確認した。
「イエス。」
皆笑っている。
「あははは。」
「はは。」
「こここここ(笑い声)。」
笑いが教室に響く。なんだかんだでその日の授業は終わった。
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