八章 なんだかなぁ
夏になり、今年も野球部は甲子園に行ってしまった。マイキーは、
「コウメー。俺と甲子園までトゥギャザーしない?」
と言ってきた。俺は迷うタイムラグがなく承諾した。マイキーは続けて、
「いや、俺、指定校推薦狙ってるだろう、なので、甲子園に応援に行ったというエピソードを面接で話したいから。故に行きたい。」
「嗚呼そう。いいんじゃね。」
「聞くまでもないけど一ミリも興味無いな、俺もお前も野球には。」
「当たり前だ馬鹿。」
「それにしても三年連続で甲子園か、ま、どうでもいいな。」
「スリーピートじゃん、どうでもいいけど。」
「政治的な表現をするとしたら、意見が同じことを確認してるな。俺とお前。
「甲子園なー。」
応援に行く当日になった。マイキーと俺は地元が同じなので学校まで一緒に行く。
その前にバス移動の暇つぶしの為の桃鉄を、マイキーが岩田屋で買うので寄り道だ。
「ダルいから。応援とか。桃鉄が無いとやってらんねー。移動中にせなんけん。」
マイキーはそう言う。
俺達は遅刻ギリギリ位に学校に着いた。さっさとバスに乗る。
バスはガーッと走り、サービスエリアへ。俺はクリスタルガイザーを買ってきた。最近これが多い。五百ミリリットル。そしてバスは出発。ピコピコ桃鉄を頑張る。今俺が桃鉄をしてるでしょうが。してる途中でしょうが。それでもマイキーが
「結構同級生いるな。」
と話しかけてくる。
「そうね。俺のクラスの女子いる、山津とか。」
「結構な事だ。」
今日はバスで就寝らしい。俺達は永遠桃鉄をする。暫くして寝た。
起きたら、甲子園の
「あっちー。」
「暑いな。」
あー、ここから甲子園迄徒歩か。テクテク。甲子園が近づいてきた。段々見えてくる、あー、本当に蔦まみれじゃんかー。へー。
応援だ、応援だ。今この瞬間を大学入試の面接で話題にするためにここにいるのだ。俺じゃないが。
言うまでもなく心は全く応援してないが。ムーブは
俺もマイキーも応援している。
なんかホームランで追い付いてきたらしいが、まじで知らねー。目には入るが、売ったやつめっちゃガッツポーズしてるやん。温度差すげー、と俺は思った。
俺が、俺の心が不謹慎過ぎたのだろうか、結局俺の高校の方は負けた。俺とマイキーは当然そのようなくだらないことを話題にあげたりしない。
コメントは差し控えさせて頂きます。というやつだ。ははは。一言もそれについて話さない。頭が良すぎるのです二人共。
負けたのでこのあと観光だそうだ。大阪の水族館に行く。完全に受身だ。
水族館を見て回る。ジンベエデカい。
「マイキー、ジンベエデカいな。」
「あそうね。」
そして、次は大阪城に。
「マイキー、大阪城白いな。」
「そうね。」
まあまあデカいなこれ。
そして次。ショッピングモールに。ここもやたらデカい。流石大都市や。てゆーかたこ焼きもまだ食ってない。フラフラ見せを行く。
ふとなんかサーフ系のショップに入る、俺がふとTシャツを手に取った。接客の若い女の人が、
「そのTシャツぶっちゃけ
俺は、
「あー。ぶっちゃけ。嗚呼そうですか。」
「そう。」
俺はぶっちゃけ、ぶっちゃけ殿のファンではない。ぶっちゃけ。店員は、
「似合うんじゃないですかこれ、お客さん。」
と、俺に言う。俺は全く芸能人だのに対してぶっちゃけ憧れが無い。おかしい位に関心が無いのだ。多分そういう雰囲気バリバリだろうけど。普段の言動も嘘はつかない。
あーぶっちゃけどうしようか。絵が悪くない。買ってもいいなぁ。店員は、
「買っちゃえ。」
「じゃあ下さい。」
「毎度あり。」
マイキーもこの場にいるが、俺とマイキーは服の趣味が微妙に異なる。
観光が適当に済んで、さんふらわぁに乗る。この船は水中窓があった。海の魚が見える。おーすげぇ。
もう帰るのだ。夕食はさんふらわぁで食べた。バイキングだった。大浴場に行く。その手前にてクラスメイトの女子達とエンカウントした。山津さん一味だ。
山津は俺に、
「そこのお方。もしやコウメ君ではあーりませんか。」
と言ってきた。違います。俺は、
「そうですよ。」
と言い、会話はこれで終わった。いつもこんな調子だ。
寝るとこはざこ寝だ。10時過ぎて、マイキーが、
「ラルクのラジオを聞かなくちゃ。船はラジオ聞けん。電波がない。」
と言った。俺は、
「甲板出てみよう。」
と言って、揺れる船の扉の外に出た。ラジオが入った。
「オッケー。」
マイキーのラルクのファン具合は半端じゃない。
聞き終わって、ざこ寝の、部屋で桃鉄を少しやってから寝た。
日が明けて、船から降りてバスに乗り高校を目指す。俺のマイキーは桃鉄をしているが、飯を負けた方が奢る。
いよいよ到着の寸前、桃鉄特有の大どんでん返しで俺は負けた。
今回の旅はOBの寄付で相当安く済んだ。流石の伝統校だ。このあとも更に夏休みは続くのだ。
「二学期がやっこなければいいのにな。」
このあと夏休み。課外も暫く休みだ。俺は、学校に顔出ししなくていいのをいいことに髪を染め、ツイストパーマをかけた。
そしてそのルックスでテレビで流れるバンド大会、ティーンズミュージックフェスティバルに出場した。
そもそもは俺が
「バンドメンバー探してる。」
と高一の頃クラスが同じだったエッサという男に、彼の家でぽつんと言ったことから始まった。円く背の高い穏和なエッサは
「ベースやってる友達いるけど、その人もメンバー探してるよ。」
と告げた。
「その人、べーサー?ベーシスト?」
と俺。
「ベーシスト。」。
とエッサ。それで俺は
「じゃあ会ってみたい」
と言った。
後日、ファミレス、ジョイフルで会うことになった。江津湖の側のジョイフルだ。俺は音楽的に頼りにしている友人、笹木君を伴って行った。笹木君は負けず嫌いのくせに包容力がある。俺はいつも彼にちょっかいをだす。よく彼のすね毛を摘んだりする。先に着いた。メニューも頼んだ。入ってすぐの右端の席だ。目の前の笹木君はニキビが気になる。暫く経つとエッサが例のベーシストを連れてやってくるのが窓から見えた。自転車二台がファミレスの駐輪場に向かう。彼らがファミレス、ジョイフルの扉を開け、接近してくる。席は俺と佐々木君が隣同士になり、エッサとベーシストに向かい合った。
「こんにちは。初めまして。タケダ君?」
と俺。俺は彼の名字しか聞いていない。
「はい。初めまして。西村君?」
とベーシスト。
「そうです。」
「彼は?」
ベーシストは笹木君に向いて訪ねた。
「彼は付き添いで、笹木君。」
俺は答え、
「笹木です。」
と笹木君は言った。あとから来た二人がメニューを決め、話が始まった。タケダのタケの字が「竹」ではなく「武」だったことが、自分の中にある「タケダ」はこうあるべきというイメージを裏切った。
「どういう音楽が好きなの?」
と俺が訊いた。
「ミスタービッグとか。洋楽かな。」
武田君が答えた。
「俺もミスタービッグ好きだよ。」
俺は言った。
「あとレッドホットチリペッパーズ。」
と武田君。
「ああ、それ知らない。レッドツェッペリンとかは?」
俺が訊いた。
「まあ、嫌いじゃないよ。」
と彼は答え、俺は、へぇーレッドツェッペリンとか聴いたりするんだ、と思った。俺にとっては未知の領域だ。
ただまあウマが合った。俺は自分のことをボーカルだと言った。ギターに自信がなかったからだ。その日はお互い連絡先を交換し別れた。帰りにレッドツェッペリンをツタヤで借りようと寄り道した。なんだかアルバム名が、「Ⅰ」だったり「Ⅱ」だったりして神秘的なイメージを持った。「Ⅱ」を借りたが、良さが解らなかった。
彼のベースプレイも俺の歌声も互いに確認しなかった。とにかく一緒にドラムとギターを探しに行ったり、エックン宅でCDを聞いたりした。武田君が聞かせてくれたレッドホットチリペッパーズの最新アルバムの一曲目に感銘を受けた。出だしのベースラインの印象からバズーカとその曲を呼んだ。
武田君宅に初めて行ったとき彼のベースプレイを見たが、彼はべーサーではなくベーシストだった。その後よく彼の家に遊びに行った。
そして、ティーンズミュージックフェスティバルというものが存在することを知り、出場しようということになった。オリジナル曲で参戦し、全国大会出場を目指した。全国大会で一位になるとデビューできる。
笹木君の家で作曲した。俺が最初の出だしのニュアンスを伝えるとあれよあれよとメロディーラインが膨らんだ。これがケミストリーなのか!
「あ、ちょっと待って。こういうのはどう?」
などとやりとりし、原型ができた。
メンバー募集の紙でまずギタリストを見つけた。年は一個下だが凄腕だった。
「イングヴェイ最高にイカす。」
とダーマエ君。彼はギターを弾き、俺は目を見張った。
「へえー」
と俺。俺の知らない世界だ。
ダーマエ君の家だけが鹿児島にある。
「俺の家で三日四日合宿しない?」
前田君の提案でそこで何泊か練習合宿をしようということになった。
俺、武田君、山中君の三人は電車で出水に向かった。途中、山中君が車内でギターを出し注意された。
出水に到着するとダーマエ君が出迎え、ダーマエ君宅まで歩いた。途中ファミレス、ジョイフルを発見、十分程で到着した。一戸建ての二階にダーマエ君の部屋があった。そこや、そこから渡り廊下を経由する居間でフレーズを考えた。ダーマエ君は百万近くするドラムセットを所有していた。前田君はXのYOSHIKIを崇拝している。セッションしたとき彼は耳栓をしてドラムを叩いた。
一応は曲の完成に近づいていった。居間で全員がかりで歌詞を考えたりした。夜、ダーマエ君宅にあったカラオケもやった。そのときワインをシーツに一滴零してしまった。
「ヤバいヤバいヤバい。」
対処はできた。
ファミレス、ジョイフルにも二度行ったが、二度目に行った夜中、店員の対応にダーマエ君がキレた。
「これ下げてって。」
「ちょっと店長呼んで。」
というふうに。
合宿の帰り際、出水駅のベンチで横になっている武田君は目が半開きで眠っていた。武田君は写真には撮るなと言った。
熊本に戻った後は、ダーマエ君がその都度熊本にやって来てセッションやミーティングすることになった。曲はそうやって完成した。バンド名も曲名も決まった。
そしてティーンズミュージックフェスティバル当日。リハーサルで混乱してしまった。耳にドラムのダーマエ君の音しか聞こえてこなかったのだ。
「本番ガンバ」
とスタッフに言われてしまった。俺はなんせ初めての経験ばかりでとにかく困った。ダーマエ君は
「本番だからフルパワーでいく。」
と言った。そのせいで音が取れなかった!しかも本番前に声出しのチェックを山中君とダーマエ君に受けてしまった。サビのメロディを勝手にアレンジしたのだがそれは好評を得た。正直歌詞を覚えるということは無理だった。
本番もドラムしか耳には入らなかった。歌うことは出来たが、歌詞は滅茶苦茶になった。
全く時間とは過ぎるためにあるのか。本番の後、全員で飲んだ。
後日、始業式で、
「夏休みに髪を染めてテレビに映った生徒がいるとの苦情の電話が保護者の方からありましたが、今日見るとちゃんとしてきているようです。」
と言われてしまった。
このバンドはこれで解散したが、ベースの武田君のとは交流が続く。要は他のメンバーを探しているのだ。ドラムとギターを。
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