六章 坂町君スーパープレイをする
高三になった。テニス部は一年毎に顧問が入れ替わった。受験生だ。クラスはエスカレーター式だ。つまりは同じ顔ぶれのまま進級。ほぼほぼ。
このクラスになって新しい友人がニ、三人出来た。逸材ばかりだ。特進クラスなので課外授業ばかりだ。これからクラス移動だ。
新しい教室は、席が富畑君と前後ろで廊下側の一番後ろが俺だ。教室の廊下側の壁に机がベタだ。富畑君と談笑していると。その壁の柱と壁の間の隙間に富畑君が、何を思ったか知らないが定規を突っ込んだ。
「ん。」
と富畑君がなって隙間から紙が出てきた。柱と壁の隙間。
「何それ。」
定規でほじくり出した。畳んである。開ける。「日本赤軍万歳」、と書いてあった。
英語の授業が一部選択式で、なんかガリ勉かどうかを聞かれている。
俺と坂町君はダルいのでそっちじゃない方の授業を選んだ。要するに受験を意識した方の授業をクラスの九割は選んだが、俺はダルいので。
俺や坂町君とかほんの少しの異端者はネイティブの先生から本格英語を学ぶ。学ぶ?その授業は他に女子が二人、男子が一人で、合計五人だ。
その中の女子の片方は、年齢が一つ上だ。留年したわけではなく、一年間海外留学していたのだ。
男子の方は、3年になって他のクラスから入ってきた奴。名前は
因みにだが、二年生から三年に上がるときに、成績が悪過ぎてこのクラスにいれなくなった生徒が四人位いた。なぜならこのクラスは特進クラスだからだ。なので、まぁ、
「ここからいなくなれー。」
と言ったところか。まあ、言うなれば、非情なる巨人軍に似ている所がある。えーやはりー。うーんどうでしょーかー。戦力外通告。
所で一個年齢が上の留学して帰って来た女子は名前は安谷さんはテニスが好きだそうで、
「孔明君はテニス部なのか、え、じゃあサーブは誰のフォームに近いと。サンプラス?アガシ?誰々?」
と俺に言った。俺は、いやいや下から、と言う間も無く、更に安谷さんは、
「英語の授業同じだったね。坂町君もテニス部だったっけ。」
「あ、そうそう。キャプテン。」
何か安谷さんはテニスに詳しいな。あとは適当に話し、
「うん、じゃあまた。」
「ならね。」
例の英語の授業の時間だ。嗚呼、誰が真面目に英語の受験勉強なんかするか。移動教室だ。てくてく。英語の先生は授業が始まると自己紹介をした。
「ジョニーです。」
更に、
「アメリカのモンタナ出身です。超田舎、皆びっくりするくらい田舎。」
俺達は嗚呼、そうなんですね、と聞いている。ジョニー先生は音楽が好きらしい。ジョニー先生は、
「好きなアーティストは?」
俺は、
「ディープパープルぅー。」
「オゥ。」
古城君は、
「オアシス。」
ジョニー先生は、
「あ、オアシス?わからん。」
古城君は、
「オアシス、オアシス。」
言ってるが伝わらない。俺は、
「オエイシス。」
と通訳したらジョニー先生は、
「おぅオエイシス。」
と伝わった。
坂町君は、
「メタリカ。スレイヤー。ヴァン・ヘイレン。」
「オウ。」
ジョニー先生も好きらしい。
安谷さんは、
「ダイアナ・ロス。」
「オウ。ダイアナ、ロス。」
田内さんは、
「マライア・キャリー」
なるほど。ジョニー先生は
「おぅ。」
先生は、
「私はレッドホットチリペッパーズが好き。」
と言った。
俺は、
「カーペンターズは?」
と先生に聞いた。
「前に授業で教材として聞きまくって耳にタコだ。永遠にトップオブ、トップオブでね。」
「あ、そうなんですね。」
授業は、終始このような緩やかなテンションで終わった。
何日か経って三年になっての最初の美術の授業があった。先生が、
「教室から出て、敷地内の好きな風景を描け。水彩じゃ。」
俺達全員さっさと部室前に行った。この部室は新築だ。プールの併設した建物で、一階の屋外に部室の扉が並んでいる。この建物は、建て替える前のを壊して、建てようとした際に遺跡が出て、作業が止まって発掘作業をずっとしていた。この間、ようやく建った。
俺と、坂町君、荒杉君、
だいぶ前にだがに俺と太田黒君が実は親戚だったことが判明した。
何か太田黒君が家族に俺と遊びに行った時の話を母親にしてから判明したのだと。マークがまだいた頃、ショッピングモールで鬼ごっこしたときだ。あのときはサバゲのアトラクションも面白かった。
俺はそのゲームで名前を申請するときマークをマークツーにした。嗚呼、あの時は食べ放題に行ったっけ。サンピアンの鬼ごっこは俺が言い出したなぁ。店員さんがいる時は早歩きというルールも俺が言い出した。スリリングで良かった。
「はあぁーっ。あの頃は良かったぜー。」
そして夏はいつも荒杉君の地元で天然プール。ヤマメと混泳だった。懐かしいなー。
因みにマークは二年の時にクラスメイトだったオーストラリアからの留学生だ。今年の三月に帰っていった。
俺は申し訳程度に部室の建物と並行に建っている校舎を斜めに捉えて風景画っぽさを出した。斜めアングルの計。校舎の前は先生の駐車場で、校舎の先は渡り廊下で、自販機もある。計算ずくだ。
坂町君はさっさと部室にこもって、リラックス状態だ。ごくたまに出てくるとちょっと描いている。
ふと俺は坂町君の絵を見た。
「!!?」
真正面の校舎を正面から描いている。それだけじゃなくその絵の校舎の窓が、まるで平城京かというくらい綺麗な長方形のまま描いている。まるで平城京の街並みのやうな窓達。校舎も描き方が直線番長だ。つまり正確な長方形の配列。
おわかり頂けただろうか。消失点とかが無いのだ。俺は流石にツッコミを入れたが、坂町君はそれを軽く流している。豪胆か。この真っ向勝負野郎めが。
当然真上真横だけの直線で描かれた校舎に正確な真上真横の直線の正確な長方形という名の窓。縦線と横線は常に九十度で交差している。あり得ない。
彼のキャリアベストムーブス第一位じゃないか。流石キャプテン。テニスがどっちが上手いうんぬんかんぬんよりも、こいつ誰のゆ―ことも聞かんやろ。こんな奴。この絵を見てそう思った。
嗚呼そうかそれでこの人がキャプテンなんだ。つまり俺が「集合。」とか言って従う訳ないのだ。無理無理無理。こんな絵を描くやつ、俺のいう事聞かんわいっ。
しばらく月日が経った。今日も美術の時間にいつも通り部室前で描いている。珍しく先生は歩いて来た。先生は、部室の奥でくつろがれている坂町君に用があるらしい。
「お前ちょっと絵を見せろ。」
先生が言った。こっちがハラハラする。ヒーノット。
「もっとまじめに。」
先生が仰いました。楽譜の、ここは強く、みたいなイントネーションで仰いました。無理だろ。そして先生は去っていきました。
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