第3話 三章 キリスト教社会に潜り込み内部からその崩壊をもくろむ、弾圧暴君のお導き


三章 キリスト教社会に潜り込み内部からその崩壊をもくろむ、弾圧暴君のお導き



 とある熊本のミッション系の高校にて、その中に紛れ込み、キリスト教社会の転覆を計る生徒とは俺のことだ。 



 入学式の挨拶で、ステージ上のから先生が解散前に一言、

「第一志望の学校に落ちて入学した子もいるでしょうが、ま、ここでは勉強ばかりしないで、遊んで楽しむのもいいんじゃないですか。」

と言った。

 直後、体育館の新入生にどよめきが起こった。俺も驚きはしたが、後に先生の言葉の真意を知った。宿題が全く出なかった。

 この学校の偏差値は一般入試で57だ。俺は一般入試で入ったので、ちゃんと真面目に勉強をする高校ライフを想定していた。

 そして入学早々、今日から、菊池(きくち)かどこかで、新入生だけで一泊の親睦のヤツがある。勉強しないでいい進学校なので俺達は具体的に場所とかをはっきり認識していない。何故なら全てを適当に聞き流すからね。だが要点は抑える。進学校だから。

 先生の説明をある程度聞き流して流れに身を任せる学校生活を全員送っている。なので、言われた通りにバスに乗って行けばいい。

バスが、 

「ブーン」

と俺達を運ぶぜ。

 勉強もしないでいいので、学校側も空気が読めるらしく極力ダルい行事やプログラムをこういう時にぶっこんでこない。まあ、聖書読むとかはある。

 割とスポーツ推薦で入学した奴が多いのでこういう時に一緒に体を動かすとそれを実感する。野球の奴と少しキャッチボールをした。

 まあ、どうでもいいが、具体的にはアクロバティックな至近距離のキャッチボールだった。バスケの場合そういう専門のジャグリングに近いジャンルがある、別物としてな。競技志向ではないというか。

「やりこんでいるという感じの雰囲気の野球部員であった。」

 親睦だけに記憶に残るものは同級生と話した事だ。確かにここで初めてクラスの友達と話し始めた。あんまり誰とかは覚えていない。ニッチンだったか、坂町さかまち君だったか。ニッチンは名簿順で相部屋だった。

 そして、坂町君とニッチンの校区が同じだったのでもう友達の輪が出来ていく。坂町君は硬式テニス部で俺とマイキ―と同じ。繰り返しだが、マイキーはもう俺が小三の時から地元の友人だ。

 この高校は共学だが、半分は男子だけのクラスだ。女子がいるクラスは特進クラス三つと、付属の中学から上がってきたので固められた一クラスしかいない。

 特進クラスは国公立コースがニクラス、と英語コースが一クラス。付属上がりクラスを足し、合計四クラスに女子がいる。男子だけの普通科が三クラスあって、プラスでスポーツ推薦の奴等のクラスが一つで全部だ。三つある普通科クラスに俺は居る。男子クラスだ。トータルで八つのクラス。

 因みに英語コースというのはハイエンドなクラスの市立文系特進クラスである。

 そのスポーツクラスに多すぎて入りきれない生徒が普通科のクラスに数名ずついる。アスリートが多すぎて一クラスに収まらないのだ。さっきのキャッチボールをした奴等とかだ。

 俺は普通科で、五組だ。さっき言ったように合計八組である。そして、この学校は付属の中学校がある。俺の地元の奴でここの付属中学に行ったのが多分二人だ。

 そいつ等とは、マイキーも俺もほぼ口を利かない。多分国公立コースにいる同じ中学出身のミャオっ君たちもそうだろうな、多分。確認しなくても分かるものは分かる。性格の不一致だろう。あ、そうか。それで別の中学に行きましたよ。

で、ついでに、今バンドブームなのでそれでも友達がどんどん出来ていく。クラスにバンドをしたい、してるのが十人はいるし、最上級者は、名前は伏せるが有名ピーと交流か親交がマジである。ピーはプロの頭文字のPだ。なんかブルースが好きらしい。

 そいつとは流石にあまり話さないが、ちょっと色々俺は教えて欲しい側なので、割と自分から話し掛ける。この合宿でもそうだ。なんかクラスメイトの笹木(ささき)君は色々と教えてくれそうだった。今度家に教えに来てくれる。

 親睦合宿が終わってしばらく経った。授業が始まってからというもの、どの教科も、いつまで経ってもほぼ宿題が出ず、授業も適当なのか、にこやかなのか、驚きである。

 例えば、俺達の担任のいなちゃんはここのOBで凄まじい授業を展開する。稲ちゃんは剣道部の顧問でインターハイの常連、自身も全国的に有名な現役の選手である。大学進学もスポーツ推薦だ。東京の有名難関大学だ。

 その稲ちゃんだが、世界史の教師なんだけど、授業はまず単元の最初から主文を読み上げていくスタイル。その時点で棒読みだ。 

それはつまり稲ちゃんは頭に内容が入っていないのである。丸出し。そして教科書には単元の最後に必ず、文章形式の穴埋め問題があって、それを席の右前か左前からか順に答えさせる。

 答えられなかったら席で起立でステイ。一巡して答えられると着席できる。しかし、間違うと席の椅子に正座、更に、更に間違うとベランダに出され、更に、ベランダで正座、更に廊下で、起立、から正座である。最後は自分の担任を殴らされる。稲ちゃんは、

「これは俺とお前の信頼関係なので、バラしたら人間見ます。」

と言った。

「つまりは。」

 木を見て森を見る。

「そういうことでしょうが。」

「この高校の授業すげぇ。」

今のアルバイトおかげで授業中一瞬うとうとしてしまったりしている。休み時間も時には机に突っ伏している。このままでは持たないからバイト辞めようか。

 学校生活が、始まったばかりだがふと思った。クラスメイトの出席番号一番の奴やたら声高いな、穏やかな声色で、ぶっこんでくる。出欠を毎回授業で取るのだが、

「一番荒杉あらすぎ。」

「はい」

の「はい」がハイトーン。他にも菅三郎かんざぶろうとかも本名攻めてるわ。そしてこいつ相当控えめに言って何かおっちょこちょい過ぎだぞ。

 クラス以外の他には、同じ方面から自転車通学する新入生らしき男子の一人が目を引く程背が低いというかそれに付け加え微妙に少し体格が良いので、見かける度に目に留まる。あと、同学年に外国人がいる。留学生だろうか。男子の白人だ。

 しばらくすると段々友人が出来てきた。そいつらと学校帰りにマイキーも一緒にスポラというゲーセンで遊ぶ。ここはビリヤードもある。高校に入って初めてやったがおもしろいな。ルールは正式ではない。

 ルーティンを説明する。そうやってスポラで遊んだ後、そこで解散したら、だいたい校区が同じマイキーと一緒に帰る。

 そして適当にマイキーとサンリブに寄って帰るなり、そうじゃなければ平成駅の線路沿いの駄菓子屋の固いアイスを食うかしたり、その駄菓子屋のそばのホームセンターサンコーに行ったりだ。

 そこの駄菓子屋のアイスは、他の店とラインナップは変わらない、同じ商品でもここのは固い。何故かは知らない。

 と、まあ、学校が市の中心部にあるとこんな感じになる。因みにサンリブとは大きいショッピングモールだ。俺はかつてここでエアマックス95イエローグラデを見た事がある。買わんかったけど。

 入学から一か月経過したが、やたら友人がいっぱい出来るのだ、なんでかなぁ。嗚呼クラスに女子がいないので会話の質も違うのだろうか、コミュニケーションが女子がいるときよりナチュラルに出来る気がする。それと、学力が近いので近い者同士ばかりだからだろう。会話のレベルが。この間、五、六人でカラオケに行った。また、今週の日曜に皆で行く。

 入学してニか月程経つか、志を同じくする者二十名集め、今日もダルい自転車登校から始まり、漸く下校時間を迎える。 

 今、

「あいつをファミリーに入れるか。」

教室に残って仲間で話していた。嗚呼、こいつ仲間全体をファミリーと呼んでる。俺は返す、

「いや、ダメだ。反骨の相有り。」

「反骨も何も菅三郎は教室でほぼいつも一人だろうが。キャラが立ちすぎている。」

魏延ぎえんのくだりのパロディだな、それ。」

「あいつ、先生にもいじられるけんね。」

さっきから俺と話しているのは同じ硬式テニス部の坂町だ。俺は少し思考が廻ったが、

「であるか。是非に及ばず。わかった、あいつは教徒だろ、あの宗教のな。ま、そこは任せろ。それじゃ俺が明日菅三郎に接触してみる。農民は生かさず殺さず、そのように弾圧しようあいつを。」

最後、何て言った。

「御意。」

「了承した。」

その場から全員去った。

 多分、うちは最大ファミリーだなと、俺は思った。学校全体の中で最大だ。一年普通科はクラスメイトに女子がいないので四十人位全員男子だ。だから友人が膨れ上がった。そもそも中学と違いクラスメイト全員が大体学力も同じ程度で、更に気も合いやすい。入学当初は同じクラスに中学の同級生が一人いたので、勿論最初はそいつだけが友人だ。

 教室で今一人ぼーっとしてる。何か高校生活が思ってるのと違った。俺はまあまあ勉強して一般入試で入学したのもある。

 ちょっと衝撃的なことばかり起ったので、一端ここで振り返って、自分を落ち着かせるとしよう。 

まずは、

「ここの授業たいね。」

 英語の先生も、ふとした雑談の同じ内容を繰り返す。白髪で、軽く推定六十代以上のルックスに見える空手部顧問の先生だ。雑談のリピートについて、

「どうやら自覚があるらしい。」

と耳にした事がある。一説には、だ。スリーピートを二回達成している。一月を待たずに達成だ。この先生の名前はやす先生だ。東京の超難関大出身だ。安先生の雑談を紹介する。

 高校の頃、同級生が恋愛の話に夢中になって前方不注意で肥溜めに落ちた。昔はどこそこに肥溜めがあった。そういう訳でその同級生は、肥に落ちた男と二つ名を得た。

 この内容が、更に事細かに五分間程割かれる。超難関大ってなんだかなぁ、だって話している時の先生少し嬉しそうに、面白そうにしているからさ。

「?」

You know, What I am saying.ワタシのイッテル事ワカリマスカー。

「!!?」

安先生の雑談は、この、「こえ(溜め)に堕ちた男」が一番多い。

たしか新卒の、数学の友長ともなが先生は今朝廊下で挨拶したとき、

「おはようございます。」

と俺が言ったら先生は、おはよう、ではなく、

「昨日、食わずぎらい、蝶野ちょうの出てたね。」

とおっしゃいました。

「え。本当ですか、え?では失礼します。」

本当にしまった、と思った。

友長先生は授業中に熱意を持ってパチンコ論と成功体験を先日指導された。パチンコ概論。数学より大事な算数イコールパチンコの有難いご教授であった。思いが伝わってきた。

 先生の教師人生で最も生徒に伝えたかった事だから紹介したいと思う。

大学時代先生は一人暮らしで、パチンコ店に通っていた。先生の、先生による、先生だけのための、恐らく物欲という名の生存本能から生ずる澄み渡った探求心が、奇跡の仮説を立てた。それを先生は実際に行動に移したそうだ。

「いいかあ、お前ら。個々のパチンコ台に対し、曜日と時間帯でデータを取り確率の高い台だけ打つ。

例えば、金曜朝十時ジャストで最も当たる台はこれというふうに。そこに輝ける一台がある。いいかあ、おっほん。信じて打った、俺は打った。 

それを貫いた。長い年月だ。いいかあ、例えば火曜の夕方六時はこの台一択、という風に継続だ、ということだ。俺は未だに勝ち越している。いいかあ、お前ら。俺の勝ちだ。わかったか。」

先生の話す表情が真剣だー。今までで一番教えたいこと、伝えたいことがこの事らしい。マジで伝えたそうな顔だ。

「熱く語れ。」

最後に先生は仰った。

「某海割りより凄くない、先生。」

「奇跡ですか。」

「カトリックの奇跡認定されますよそれ。先生。」

「一度目の奇跡だというのか。」

「させんよ。」

「なに、当たらなければ、どうという事は無い。パチンコがだよ。」

「二回、だったか三回か奇跡起こしたら聖人人認定されますよ。カトリックだと。マザーテレサとか、ジャンヌダルクみたいに。」

「先生リーチやん。」

「!!?ん、リーチだと。え、マジ。」

「先生そのパチンコ屋で奇跡起こした時に大天使ミカエルかなんかに祈った瞬間でしたか。」

「いや。」

「じゃ駄目ですね。」

 俺は自分の知らない分野過ぎるので、あまり心には響かなかったが、

「先生、そこに義はあるんですか。」

クラスでも陽気でご機嫌な真田さなだがなんか言ってる。

「徳川に義無し。」

まだ何かいってる。ラテン系か。

「うるせぇな、もうやめるんだ。」

冗談ぽく誰か言ったが、真田は更に続ける、

「無いよ、そこには、義も仁の心も、侠の精神も。俗の心はあるな。」

更に、

「俗物がっ。」

「おい、こんな人格者の先生に、俗物が、とか言うなよ。」

「地上の覇を唱えても叶わぬと知れ俗物。」

真顔で言う真田は迫真の演技。ナイストスだ。まさに不惜身命の突っ込みであと少しで家康に届くかと思った。

「ああ、そうだ、真田、俺のパチンコにも徳川にも無いよ。義が無い。だから、お前らおとなしく授業聴けよ。」

であるか。タイミングばっちりで先生返す。

「真田、お前演劇部通り越してオスカーか。嗚呼面白い。迫真の演技で、義とか言うなよ。」

更に、真田はあおられて、目だけの演技で義みたいな。

「はいカットーぉ。」

「一発オッケーィ。」

「真田はもう進路調査第一志望に『義に生きていこうと思いまする』と書くがよい。」

「先生ほめてくれるよ。」

「逆に何々大学行きたいとかより、お前、上だろ。お前のこころざしたかっ。」

「大きい鳥の気持ちは小鳥には分からん、ということだ。」

「先生、まだまだ先生には教えてほしいことが沢山あります。」

いいぞ。先生も数学ダルいですか。

「もうお前たちに、これ以上教えることは何も無い。ね。算数大事だよね。だって俺、数学の話しか、さっきからしてないし。」

 誰かが、「何故山に登るんですか。」っぽいイントネーションで、

「先生、何でパチンコをするんですか。」

と言った。先生は、

「そこにパチンコがあるから。」

と言った。

「なんだそれ。」

そら宿題の概念が無い訳だ。野暮は嫌われる、そう野暮は。

 ただ、友長先生は、授業中にデジモンを隠れてやる生徒は許さない。同じクラスの奴で、唯一俺の中学からの同級生のマイキーが注意された。

「餌、プロテイン、なんだそれ。」

先生はそう言ってマイキーのデジモンを取り上げ、担任の稲ちゃんに報告、稲ちゃんに下校前のホームルームでおでこにややマジなパンチを打たせた。

 バイトも遊びも釣りにギターにと、俺は忙しそうにしているが、更に部活に入っている。硬式テニス部だ。何と俺は入部して一ヶ月経った今現在もほぼテニスに興味がない。ラケットを持っていない。

 マイキーの誘いで入った。その入部は世界一軽い乗りだ。マイキーは中学時代はバドミントン部だったが。テニスの方がカッコいいと思っているので硬式テニス部に入部した。そして、ふと傍にいるマイキーに話しかける。

「この前の友長のパチンコの話、礼拝の聖書拝読風。さあどうぞ。」

「は。それじゃあ今日は新約聖書七節、ニ章、永友先生の福音書ぉ。」

マイキーは真面目に続ける。

「三番目の台を今打ちなさい主は仰いました。えー、三度おっしゃいました。そして、日曜は七日目でお休みです。と仰いました。ハートで打ちなさい。神様信じて打ちなさい。」

「あはは。」

「右から三番目ってした方が、それらしいな。」

「完璧。」

最高の気分だ。このようにして、キリスト教を今日も転覆させたぞ。「くっくっく。」

マイキーが、

「おい、俺のバドミントンの先輩が二年のスポーツクラスにいる。今から挨拶に行くからお前お供しちゃえよ。」

嗚呼、あのマイキーからちょくちょく聞いていたあの先輩か。

「御意。」

てくてく別の校舎に行く。着いた。マイキーが、

「先輩入学させて頂きました。」

「参上の程、この度は大儀であった。」

「あ、この人は俺の従者です先輩。」

俺は会釈する。あとは適当に話して帰った。

「じゃあ今日は帰る。」

「バイバイ。」

なんか、さっきのマイキーの聖書のヤツ、ハートで打てってバスケみたいだな。下校しながら思い出すのは、ビリヤードだ。

 今、一人今スポラの前を通っている。ぼーっと、嗚呼、ビリヤードの映画の台詞に確か、「玉は気まぐれ。」ってあったな、と思った。

 スポラは下校途中にあるゲームセンターだ。ビリヤードもあるが、バッティングもある。一週間に一回は行く。遊び人だ。

 聖書はパロディで笑いが取れる。まだまださっきのは序章だろうか。例えばこういうのはどうだろう。声だけ変える。声の演技だ。内容そのまま女性声優っぽく読むとか。いっけるなこれ。新提案、これは問題提起ですよ。

 一人だとこんな事をよく考える。自転車で下校しながら、また俺は思った。おお主よ俺は罪深いですよ、讃美歌は誰風に歌ったら一番面白いのか。明日友人と議論だ。円卓会議ものの最重要案件だと思う。なんならカラオケで面白い事になる。

 笑いの世界でいうとこれは最高ランクの素材だ。キリスト教恐るべし。讃美歌用意しとけ、カラオケ。モノホンが熱唱さいたらばかうけ確定だ。心を込めてって記号は楽譜にあったか。ま、いいか。さっさと今日は帰ろう。

 「キンコンカンコーン。」

あ、チャイムが鳴った、普通科のこのクラスには男子だけがいる、四十人位。今その三分の一の数を集めてサッカー大会を計画している。

 入学したては当然クラスメイトの友人は同じ中学だったマイキーのみだった、が、それも違った。去年の暮れに入った塾の同じクラスだったヤツが、クラスメイトにいた。向こうは俺を覚えていた。名をばモッツアレラとなむいひける。因みに彼以外にも別のクラスに同じ塾出身の奴はいる。

 入学して間もない頃、俺が最初話し掛けたら、

「脳改(のうかい)で一緒だったよね。」

とモッツアレラ氏が言ってきた。脳改は塾の名前だ。頭脳改造センターの略だ。俺はぼんやりとした記憶でうーんそうだったかと思っていた。

 で、モッツアレラ氏とトゥギャザーして先日交通センターのボウリングで決闘しに行った。今からその時のことを振り返る。その時歴史は動いた。さあ一緒に見ていきましょう。

 そこで、最初俺は三回連続ストライクを出した。その技か現象だかには何か呼び名があるらしいが、記憶力と興味の大きさは比例しているので忘れた。

 二ゲーム決闘が済んだらそのままモッツアレラ氏の家に行ったら弁当付きだった。そして家がデカい。お父さん社長らしい。弟は体格がデカい。ラガーマンだそうだ。

「昔はホントに仲悪くてね、今は仲良い弟。」

「ふーん。」

モッツァレラ氏はサッカーとラグビーをかじっている。高校に入学してラグビー部も体験入部したそうだが、辞めた。

 ところで何でも彼の名前はモッツァレラ氏なのか。俺だけが彼をそう呼ぶ。この時俺はモッツァレラ氏を初めてモッツァレラ氏と呼んた。

 その時歴史は動いた。モッツァレラ氏は

「モッツァレラって水牛とかのチーズだよね。」

と言った。えっ、何で。みたいなイントネーションで。

「あ、そうなんだ。知らん。え、水牛。」

俺はただ適当にモッツアレラ氏と読んでるだけだし知らん。

 如何でしたか。初めてモッツアレラ氏と遊んた日を振り返ってみましたが。

 とまあ、こんな風にバンバン友人が増える。モッツアレラ氏はもうマイキーとも当然友人だ。学力が近いと会話の成立が容易だからだろう。

 更に、これがまたクレイジーにもゲーセンはみんな好きなので、ドンドン一緒に行き出す友人が増える一方だった。

 きっかけなんぞは、例えばちょっと体育の授業の暇なときとかに会話をしてみたりして、で、大したことじゃない。すぐ友人になる。

例をあげる、出席番号一番は嫌でも目立つではないか。この学校は出席番号は五十音順で、このクラスの一番の荒杉君、出席を先生がとるとき声が、

「はい。」

通常の一オクターブ高い。

で、体育の時俺が勇気を振り絞って荒杉君に話し掛けた。確か四月の終わり頃。

「貴様はカヲル君とかが好きなのであるか。意識しているのか。」

荒杉君こう答える。

「え、何で分かった。」

「声が高いから。」

俺は返す。

 まぁそこから当然会話は広がるが、荒杉君は阿蘇あそ西原にしはらから通いで通学だ。寮は嫌みたいだ。ノリが違うのだと。お父さんが木山のバス停まで毎日送り迎えだ。俺は、

「お父さん仕事は。」

と荒杉君に聞いた。

「家の財産が多いのでなんもしてない。だから、お父さんは嫌い。ああはなりたくない。」

荒杉君はマイケルが好きだそうで、ライブビデオとミュージックビデオをコレクション用に一本、実際開封して鑑賞する用に一本それぞれ二本ずつ持っている。

 声が高いのも、それもあるのだ。荒杉君の前でマイケルを侮辱してはならない、絶対。こいつはカラオケでもマイケルが半分だ。

 家でマイケルのダンスを、ビデオを観ながら習得しようとしているそうだ。まぁそして、田舎だったので荒杉君の学校は強制で男子全員坊主だったそうだ。で、中学時代はテニス部だったそうだ。なので、今度硬式テニス部に顔を出すそうだ。

 キャラの立った荒杉君のような人は、くさびの役割を果たして更に場が盛り上がるような事になり友人が増えるというか、楽しい。

 なんかクラスの友人の一人にいずみ君というのがいる。中学時代はサッカー部だったそうだ。ニッチンと家が近所過ぎるので友達だ。深い理由はない。近いは仲良し。

 大概皆、同じように同じゲームの話をしたりするだけで友達になる。で、ニッチンの父親も泉君の父親も警官だ。ニッチンと泉君は校区が違うが市も違う。

 泉君は益城ましきだ。ニッチンは長嶺ながみね校区。自転車で五分も離れていないし一緒に登下校している。泉君の家にも早々に泊まりに行って遊んだ。

 そして、同じ益城のクラスメイトのサトショは、泉君と同じ中学出身だ。サトショは元々ミッション系でカトリックの健軍けんぐんの方の私立中学にいたが、そこから地元の益城の中学に転入している。

 理由はいじめだと本人から聞いた。それを聞いた時はマイキーと俺、サトショの三人で会話していた。で、俺たちの小学校からその例の私立中学に行ったヤツの名前を挙げたら、何と、

「は。ニッチュウが。」

 俺とマイキーは二人してマジでビックリした。ニッチュウの本名を俺達が出して、サトショ、なんとそいつにいじめられたから例の中学辞めたのだと。

 俺とマイキーとニッチュウは小学三年と四年同じクラスで、頻繁に遊んでいたので、相当どういう奴なのかを知っているのだ。ニッチュウがどういう奴なのかを。俺達からしたら変なヤツじゃなかったし、一度たりとも根本の性根を疑ったことがない。マイキーもだ。そこは、共通の認識なのが判る位オープンな性格でみんなで遊んでいたからなぁ。

 なんで、俺とマイキーは同じように驚いた。

「嗚呼人と人の相性かこれ。」

「マジで謎なのですが。え、ニッチュウにいじめられた。は。」

でも、サトショは今俺等と仲良く話してるね。何これ。しかも、学校辞めるとかマジか。

 一つ言えるのはサトショはファッションに大変気を遣うが、ニッチュウは、その点は無だ。無の境地。違うとこで勝負してる。

 で、活発に泥臭く俺と小学生時代遊んでいたなぁ。をとこというか、何というか。ただ、もうそこで謎の件は終わった。 

 そう言えば、サトショはそういえばこっそり原付の免許を取ってバイクを買うためにこっそり引っ越しのバイトをしているのだとか。

 そういえば、なんか高校生活でクラスメイトが男子だけなので友人が出来る迄が早いよな。それがピンとこないなら常に友人グループで固まってるのを想像して欲しい。

 もうとっくに十人以上仲良しこよしで昼休みはバスケしたり。あとはやはりー、うーん、どうでしょうかー、えーやはりー、学力が近い連中同士は会話のレベルが同じだしな。友達になりやすいんだろ。

 友達の中に、俺と名字が同じやつで、あだ名がニッチンていうのがいる。長嶺の奴だ。俺と同じく中学はバスケ部だったそうだ。

 世間は狭いとはよく言う。ニッチンはニッチンで、俺達が小六になる時に、ニッチンの校区から、俺の校区に引っ越して来た龍六りうろく君をニッチンは覚えていた。

 えーやはりーうーんどうでしょうかー。その件もあり世間は狭い、この龍六君は高校に行っても交流がある位友人だ。龍六君の父親もニッチンの父親と同じ警察官で、警察寮で一緒だったそうだ。月出つきでにあるらしい。

この件を、ニッチンの事を、龍六君に話しても、

「ソーファット。」

という感じだった。まあ龍六君は一番の進学校に行ってて勉強しているから落ち着きがあるのだろう。それにしても聞き流すにも程があるぞ。

 俺は、龍六君の家族とは相当絡みがある。龍六君の父親はそういう訳で俺を下の名前で呼び捨てにする。

 龍六君には、たまに下校時に鉢合わせる。この前は、南熊本駅ら辺で捕捉し、彼は自分の制服の校名の刺繍を指さして、

「出くわした若い茶髪のヤツ二人が、これ見て、うわ、クマコウだ。って言ったよ。」

だと。凄いのがいたと言いたい訳だ。今思うと、そいつらは生を受けて今迄がそう育って生きてきてる訳。奇跡と言っていい。龍六君が言ったその時は、

「なんて奴だ。」

とコメントした程度に、

「嗚呼(ああ)凄いのいる。」

で、そいつ等に対しての興味が終わったが、思ったよりもっと逸材じゃね。今になって龍六君の言いたかった事ってその域なのかどうなのか気になるなぁ。

 想像を巡らせると、時に過去の認識を改めてしまう程の発見があるらしい。因みにクマコウじゃなくてクマタカという正式名称だ。

 そして、サッカー出来る位友達がいればサッカーはしろ。と、孔子の言葉にある、と思ったか。なんか孔子が言うには

「いいじゃん、良いじゃんが無いと料理をしなくても。別にいいじゃん。」

だそうだ。

 そういうことでサッカーをすることになった。元サッカー部が張り切りまくっている。泉君とかが。

 サッカー大会の計画は、前述したようにもう泉君とモッツァレラ氏がやたら張り切っている。

 因みに昼休みは体育館で最近はバスケの日々である。さっきのチャイムは六時間目の始まりだ。英語の安先生だ。なんかチョーク負けするのか、授業前に手袋を装着する。

「俺の息子デザインのセンスがあって、」

雑談だ。

「キンコンカンコーン。」

授業が終わったらまたサッカー大会の計画になって集合する。話だと坂町君も来る。スポーツだから面白そうなんだろ。 堀ノ《ほりの》ぐっちゃんは大体いつも参加する。宮城みやぎ君はこの件を仕切ってメンバー分けを今ノートでやっている。彼は出水いずみ校区で、出水南校区がその南の隣の校区でバイパス沿いだ。

 このバイパスが通っている校区沿いにばかり高校の友人がいる。俺とマイキーの校区はバイパスの終わりの日吉校区の先で、隣同士だ。この帯状のエリアから外れているのは、西原の荒杉君と西山のモッツアレラ氏位かな。

「キンコンカンコーン。」

あ、終礼だ。

「じゃ。」

「じゃ。」

一端散る。

「キンコンカンコーン。」

ええと何人来るんだ、

まず、一に俺、ニにマイキー、三に堀(ほり)ノぐっちゃん、四に宮城君、五にニッチン、六に坂町君、七にモッツアレラ氏、八に泉君、九に笹木ささき君、十にしゅんちゃん、十一にサトショ、十二に荒杉君、十三にエッサ、最後十四人目はあいつを入れる予定だ。管三郎。


 あいつとの伝説のファーストコンタクト、

「菅三郎君、どうも初めまして。」

「ああ。」

「菅三郎君ね、マジで天を敬い人を愛しちゃってるわけ。」

「ああ。」

「ですよね。」

と俺は仰いました。更に

「いや、いいと思うよ。まじで。」

と、仰いました。

 更に会話をしたが、こいつは、マジで聖書に書かれている内容を信じているのだ。ふざけんなよ。そんなの俺が捨て置くわけがなかろう。ここには俺とマイキーとニッチンと泉君がいるが、一人残らず管三郎に驚愕の反応をしている。ニッチンは素直な性格なので、

「ははは。」

と、菅三郎の信仰心を笑った。

「洗礼とかは。」

俺は聞いた。

「受けた。」

「どんなん。」

皆興味しかない。

「え、教会に行ってワインとパンで。」

菅三郎は説明しているが、こいつマジかー。と俺はなってきた。

「家族もだろ。」

俺は聞いた。

「うん。」

すげぇ、すげぇ。なんだこいつ。ふざけんなよ。え、じゃあ、

「墓はどうなってるの。」

「まあ、欧米風。」

「欧米か。」

ニッチンが漫才さながら菅三郎君の頭をはたき、ツッコミをいれた。ハイテンションか。

「ニッチンよ、お前訴えてられたら負けるぞ。」

ただ菅三郎君のポテンシャルは半端ない。

「すげぇ。」

こんな変り者は地元の中学にもいた。ただ、そいつはあまり関わると勧誘してきそうだからこの菅三郎とはベクトルが違う。こんな風に交信した事は無い。俺はすかさず、飲食店に入って「へい大将やってるぅ。」と聞く口調で、

「宗教やってるぅ。」

と菅三郎君に言った。

「じゃ葬式は。」

ニッチンが聞いた。

「欧米風。」

「欧米か。」

「すげぇね。」

こいつこそ異端者と、もう俺もニッチンもマイキーも確信したので、

「おい、皆こっちこっち。囲め。」

「ここに異端者あり。」

坂町君だの、堀ノぐっちゃんだの宮城君が来た。

「ここにキリシタンが居ますよー。異端者だよ全員集合。」

俺は、こいつはもっと面白いものを隠しているのか。職務質問の体になる。なにを隠し持っているのだ。

 後から来たメンツに俺は、

「いや、何かすげぇ。何かこの人ね、」

と説明した。そして、管三郎には、

「はい、隠してもどうせ全部分かるんだからね、全部自分の口で言うよー。」

取り調べが始まる。

「家族は。兄弟は。ペット飼ってる。」

俺が聞いた。

「妹が一人。ゴールデンレトリバー一匹。」

「はぁ、ふざけんなよ。」

俺はマジギレ、

「なにがいけないというのかな。」

「親の仕事は。」

「クリニック。」

「は、マジで。医者。」

「医者ではない。」

「校区は。」

東町ひがしまち。」

「じゃニッチンのそばたい。」

ニッチンが、

「え、じゃあ今日一緒に帰ろうよ。」

「ああ、」

 俺は管三郎の机に置いてある聖書を指差し、

「これは誰のですか。」

「俺の。」

因みに当然聖書は全員持ってる、

「これは何に使うの。自分で言うよ。ねえ何に使う。自分で使うために所持しているの。」

管三郎君はフリーズ、

「何に使うの、ね、何につかうのこれ。自分の口で言うよ。」

「信仰。」

ゲロった。俺は管三郎君に、

「えー、じゃあ管三郎、」

腕時計を見て、

「午後三時四十分、キリシタンの容疑で逮捕。署まで。」

菅三郎は、普段の授業でも何かおっちょこちょいを早々に高頻度で発揮して倫理の先生なんかに突っ込まれていたりしていた。他の授業でもそんな節がままある。俺は、

「主は仰いました。ゲームばかりして勉強はするなって。三度仰いました。勉強は良くないよ。校則は破りなさい。校則は悪です。」

俺の発言に対応出来ない菅三郎、

「なんかね良くないらしいよ、最近の解釈だと、勉強。勉強は良くないらしい信仰的に。カミサマオコッテルヨ。」

最後の台詞は帰化したブラジルのJリーガーっぽく言ってみた。

しーん。

 日常会話をすればまぁテンションは高めで応じる。もう一度言うが、俺か、俺達だろうか、クラス全員だろうか、それらにとってこいつは異端。まぁ

「今日スポラ行くけど来る。来ちゃえ。まあ、ニッチンとマイキーと他にも行く。」

菅三郎は、

「ああ。行こう。」

といった。俺は宗教というものは全く好きではないが、

「サッカー大会もあります。益城の長嶺に近い場所で。来ちゃえよ。」

「御意。」

この菅三郎は、俗物丸出しな信者だ。何か凌駕するキャラの立ち方をしている。

いずれは、こいつの俗な心がむき出しになった瞬間を伺い、すかさずそこに付け入りこいつの信仰心を揺るがしキリスト教を裏切らせてやろう。こっちにおいで。

 因みに、歴史上、最初にキリスト教を弾圧したのは、古代ローマ帝国の五代皇帝のネロらしい。暴君ネロ。感覚で俺はネロと同じものを共有しているのが解る。ムカつくもん。感情を言葉で伝える時は、勿論、まず、ダイレクトな感情があってそれに言葉を置いて人に言うが、言葉にしないと伝えられないが、その前の直観的な嫌悪感というか。それ以前の本能でキリスト教にイラつくのだ。

 どこのどういう精神性が、という点に対して直で負の感情が沸くのかは中々伝えにくいが、そこがネロと共感する。嫌いなのだ。ネロの気持ちが解る。その領域のレベルで同じ意識を共有している。

 俺はこのミッション系の高校で表向きは信者になりすまし今日も聖書のページをめくり一節読み、讃美歌を歌った。

 さっきのネロとか、古代の文明って一周まわって現代との共通点が多い気がする、気のせいだろうか。今もほぼ無宗教だし。

「ときに管三郎君よ君は俺とキリストどっちに付くのかい。」

「え、は。」

「いや、何でもない。」


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