ニ章 孔明の罠か 及び ニ・五章 孔明、誤ってカリバーンを引き抜く

「俺は中三の受験勉強が終わってギターを始める。」

まあ受験が終わってから始めようと真面目な一面を俺は持つ。ただ気分転換に街の楽器屋には行っている。受験終わってないのに。店内でブツを見てカタログを貰って帰るだけ。弾けないから。

 中学の友人ケッナと何回行ったかな。ケッナは多分あだ名じゃなくて芸名だ。本名は非公開。ノリはヴィジュアル系、アルファベットでKENNA。ヴィジュアル系のノリ。

「ケナの芸名に関しまして。」

本人に確認した事は今に至るまで無い。ノリだけにケッナはベース。グルーブ重視の人生か。

 今、中三の暮れの掃除時間だ。ケッナと掃除当番の場所が同じになった。武道場だ。嗚呼今、ケッナにドラゴンスクリューをさせよう。自分の風流心を慰めがたい俺が、

「ちょっとドラゴンスクリューを俺にかけてみろ。」

ケッナは、

「マジ、するよ。」

俺、

「来いこの野郎、おしゅいぇjbdす(活舌が悪い演技です、ただインタビュアーもしくは後輩レスラーは絶対に聞きとらなくてはならない)この野郎。ええけん、せんかい。」

一瞬でテンションが変わる。これは、高度なバスケの技のチェンジオブディレクションっちゅうヤツの応用で急にキャラ変したのだ。

 そしたらあいつはドラゴンスクリューが上手かった。俺は全く痛くはなかったが、綺麗に転がった、と思う。

 話を変えて、

「今日、行こうか。街。」

「あ、ええよ。」

で、街の楽器屋に今日も行くのだ。

 放課後の夕暮れ、六時で完璧に日が沈むんだな。自転車でケッナの二人乗り市の中心部に行く。中心部の事を我々はまちと呼ぶ。

 バスケから解放されて天国のやうだ。嗚呼ダルかったな。部員も、部活も。確定しているのはこんな部員とは永遠におさらばだ。残念ながらお別れです。未来永劫一切関わらない気でいるのでそういう事だ。彼奴等は馬鹿なので中学卒業後も俺が普通に接する気でいるとでも思っているのが丸出しだ。そこが、まさにその点こそが、こいつ等が俺にいずれ負ける決めてなのだ。馬鹿は助かる。人間の心理が理解できないらしい。

 俺の予測が正しいとこいつ等は高校でクラスとかの主要メンバーとかになれない。高校でそれをやるにはこいつ等は口が悪すぎる。高校で主要メンバーになれた奴は大学で通用しないパターンがある。

 まあ、この一部のバスケ部の同級生は卒業後にでも人伝に近況を、俺も聞くだろうな。

 嗚呼、そんな話をしていたら街に着いた。今はジーショックやらがブームで、リーバイスとかも中学3年生なら一着は欲しい年頃だ。街は良い。ケッナも俺以上にそういうのにも興味があるらしい。こいつは、勉強しないでいる所が俺とは違うかな。

 俺達は当然素人なのだ。楽器店では、指板しばんに人差し指の付け根から先まで届くかの確認だ、ね、何も知らない。吊るしのギターに指を横から添えて。なんの説明にもなっていないかもしれないが、指板とはフレットボードの事である。

 そして楽器屋で片っ端から貰ったカタログを受験勉強の休憩に勉強以上の集中力で目を通すのだ。

 それでも俺はちゃんと受験勉強もする。ケッナ、ノット。早く終われ受験、と思い、今は家で受験勉強中だが、カタログを眺めている。休憩で。熱心に。勉強の何倍も。

 アティチュードベースというシグネチャーベースがあるが、これがアティチュードの意味だろう。誰のシグネチャーかというと世界一のベーシストと言って話になるベーシストだ。

 しかし、部活に比べれば受験なぞ、どうということはない。マジで高校でバスケなんかするわけない。バーカ。俺は皆部員が引退で感傷に浸る中、一人で、テンションを上げていた。刺激しない程度に皆にテンションを合わせていたが、内心はとても嬉しかった。

 こういう奴をキリスト教社会では、悪魔と契約した魔女と定義するそうだ。悪魔と契約し、密かにキリスト教社会にもぐり込み、その転覆を図る者。ま、いいや。

 俺は先日、専願で県のトップの私立に落ちている。何日か経って思い出せば数学の答案の自由にしていい計算スペースを勘違いで埋めていたのに気付いた。マストで埋めるとばかり。

 俺としたことが。まあいいか。リハーサルは要る、受験も。これが、受験二回目なら俺それに気付いてそうだからなぁ。俺は心底ミュージシャンやねん。

 で、同じ偏差値の一般入試の私立の合格発表を担任の今から河沿かわぞいから聞くのである。授業終わりにね。そこはミッション系の高校だ。

 川沿は美術の先生なので美術室に行かなん。今から。

 一斉に発表なので何人か前に先客がいる。女子が受かって叫んでいる。

「気持ちい、超気持ちい。」

なんだそれ。ふつう合格したら、「やったー。」とかだろ。何が、気持ちい、超気持ちい、だ。俺は堕ちたのもいるからポーカーフェイスを決めてやるわ。トライアウトに落ちたのもな。まあ見てろ、言うなればこいつらのリアクションは、二流。すなわち野球でいうとマイナーリーガー。そこが知れたなマイナーリーガー。このマイナーまりが。

 さ、俺の番だ、

「俺がメジャーの模範解答を見せてやる。これがメジャーだ。」

ガラガラ、美術準備室の扉を開ける。川沿が、

「おめでと。」

俺は最近プロレスを見ているせいで、そう影響を受け、その場で椅子を叩きつけたのだ。川沿が、

「おいやめろ。」

その合格発表の書類の受け取り方もNWO方式だった。ヒールのベルトの受け取り。

「なんだその態度は。」

川沿も冗談は通じている。

「いや、実力社会なので、下剋上です先生。」

「は。」

川沿は以前、美術の授業で俺の絵を見て俺に、「お前、俺より絵が上手い。」と言った。俺は一ミリも嬉しくもなかった。であるか、と思っただけだ。

 美術室を出て、

「おのれ、おのれ、おのれぇ―っ!!」

分かったか。をんな。これがメジャーだ。受かっておいて悔しがる。見事である。かるくぶっちぎりだぜえ。

「あ、孔明君残念だったね。」

「いや、受かった。ボケてみた。ボケちゃいました。コケちゃいました、的なやつ。コケてないけど。お前はどうだった。こけたろ。であるか。是非も無し。」

 因みに川沿は新車購入を生徒に相談しやがる。シビックかデミオか。デミオにした。俺は二型のナナハンカタナを勧めた。

「先生、(立ち上がりでスロットルを)開けない禿はげはただの禿だ、と思います。」

この台詞に出師表すいしのひょうくらい感動したろ、先生よー。あれはバイクに乗るように劉禅をさとしたものだ。

「・・・。」

「ひ弱か。先生ね、(コーナーでバイクを)寝せない豚は、ただの豚だ。かま野郎か。そんなんじゃ生徒ついてこないよ、アルシンドになっちゃうよ。かっこわりー。」

「いや、だからデミオに俺は・・・」

「黙れ小僧。」

そのときの俺は、CB750Fとかに乗るこいつが面白そうなだけであった。ゼッツーはキレる。ゼッツーに乗ってんじゃねえよ。

 受験って妙な怖さがある。八耐のファクトリーマシンも急にうっ止まるような怖さ。うーんどうでしょう。なにがあるか分からん。絶対はない。今思えば受かった高校は雰囲気が良かった。例えば試験の間に冬季オリンピックの日本のメダル獲得を先生が報告して、

「君たちも頑張るように。」

など。あと、試験中教室の窓から高いマンションを建設中なのが見えたのを、ぼーっと見ていたい気になった。

 とりあえず、もうギターを始める事が出来るようになった。公立の試験は残っているが、予定ではうんと東の遠くの公立だ。今の所はそこに行くつもりだ。

 川沿に、

「マークツー高校受けようか。」

と言ったら、

「お前受かったら勉強せなんとぞ。せんだろうが。」

「はい、先生。しません。するわけないじゃあないですかぁ。何言ってるんですか。」

何か先生マジで必死に止めてないか。

「お前止めろって、止めろ。」

何か前のめりだ。何だこいつ。

 そして、少なくない確率で受かるかもしれないと思っているんじゃあ無いかー。それもあってガッチリ止めに入っている。

 危ない、みたいな。俺が受かった私立は、マークツー高校のテッパンの滑り止め高校なのだ。

 もうダルいので公立の受験を受けずに私立に行くことにし、ギターライフを始めるとするか。


ニ・五章 孔明、誤ってカリバーンを引き抜く。



 進路を確定させた。願書まで東の方の公立高校に出していて取り下げた。幸いキャンセル出来た。電話一本で、

「あ、あれキャンセルで。」

というノリだ。心の中は。ザ、ディシジョン。実際は高校まで謝りに行かなければならなかった。一年の頃の担任の先生が謝りに行った。ペットに猿を飼っていた女性の陸上部の顧問の体育の先生だ。ペットには猿がお勧めと一度言っていた。武器を装備できるので職は戦士だと思う。が、この先生の武器は宮島のデカいしゃもじだ。

 俺も一度入試関連の何かの用で一度東の方の公立高校に行った。「一点突破」が校訓で、体育館でその字を見た。確かジャンヌダルクの戦法がそうだった。俺は本名が孔明なのでいつでも一点突破という訳にはいかないとでもいうのか。

 早速ギターが欲しいが現金が無い。うーんどうしよう。今日学校が終わって知り合いの大人が俺をその知り合いの服屋に連れて行ってくれているが、ここはどこだ。街の先か。地名が解らん。

着いたらしい川沿いの店だが戦闘機が置いてある。ノリはハーレーとかライダーな雰囲気。店内も雑貨のディスプレーが。

「初めまして。」

俺は挨拶、

「うーんどうも、こがん服とか興味あるね。」

店主さんは、横ノリのグルーヴ、いや、ロカビリーっぽい。付けている指輪がデカい。

「あ、有ります。」

所持金は無いです。

 ワイルドな服はあまり持っていない。

「へぇ進路決まってこれからギター始めるねー。」

「はい。」

「で、ギターもう持っとると。」

「まだです。」

「あ。そうね。」

「!!?」

店の試着室に飾られたエレキギターを店主さんが取ってきた。

「こればやるよ。」

続けて、

「よかよか、やるよ。」

俺は、

「ありがとうございます。」

「今日これからどうすると。」

「折角なので、他のを揃えようかな。」

「それがよかよ。弦とか、チューナーとか、スタンド。」

弦は今このギターに全部は付いていない。そして、財布をここに連れてきた知り合いの大人の方に買って頂いてしまった。

 店を後にして、街の楽器店で最低減の物を買いに今寄っている。島村楽器に。先の事は全てが未定か。嗚呼、こんな事になるとは。

 島村楽器で、

「ギター本体だけが今ありまして。」

状況を話し揃えた。接客したのは店長っぽい人だった。名刺を貰った。教則本は千円しない、ケーブルもだ。アンプも三千円代で、何とか買えた。ピックは一枚百円、ギタークロスは数百円。買えた。店で一番安いのばかりだ。それで家であとは弾くだけ。

 で、ちょっとトラブルがあった。機材トラブル。俺がギター本体以外の機材を街のパルコの島村楽器で買ったのだが、家でアンプから、何と音が出なかった。

 島村で俺を接客した店長っぽい人はフランクな人だった。

「?」

え、何。

「?」

とマジでとりあえず驚いた、順当にいってギター本体の配線のトラブルだろうと思った。で、年期の入った元々デイスプレイのこれの不調だと普通思うよな。ただ、アンプに、他のマイクだったりをつないでも鳴らなかったので多分ギターがアンプを壊したのだ、と当時の無知な俺は思った。

 ま、電気に詳しくなかったので、悪いギターを繋いだ事によって悪影響をアンプに与えたのかと思った。感電だかショートだかさせて壊してしまった、と勘違いをしてショックを受けていた。

 アンプが元々不良品だった事に気付いたのは、もう本能に近いエレキの仕組みの根源的な理解度が上達に比例していった結果だった。原理を理系的にはいまだによく分かっていない。さっきの店員さんは俺を覚えていて、

「これ鳴らないです。」

渡す俺、確認して

「すみません。」

で、別のと取り換えてもらった。

もう、速攻で楽器屋を後にした。

 今度は鳴った。が、何か絶対俺のギター人生ハードル高い設定にしてある。因みに、最初に一式ここで揃えた時に買った教則本は良かった。そして、さあ、やるぞの気持ちは、このようにして途方に暮れたのだ。

 この件で未だに何だかなぁ、と思っている。大げさに言うと人生の意味を考えてしまった。それ位まあ、ギターをやるぞと思っていた。今してるんだけど。

「俺の初めてのギターは服屋のディスプレイされているストラトタイプの国産だった。譲り受けた。進路が決まった直後だった。」

これは人に言う話題になるな。珍しいケースなので。

 高校の入学の準備が今忙しい。先日、卒業式で通知表を貰ったが、美術の成績は、五段階中四だった。

 アルバイトの話をしてみよう。エレキギターを買いたいから始める事にした。二本目。始めたのは中学の卒業式も終わり高校もまだ始まらない、春休みだ。そのタイミングで夜間アルバイトを始めている。夜間のゴルフ練習場だ。

 営業終了後のゴルフボールの回収だ。四五十代の女性と二十代前半の男性、五十代男性、数名ずつがメンバーだ。一緒にせっせと作業している。

 熊手でかき集めて二三十個の塊だけにしていき、フィールドのボールがその山状に集められたところを、二三十個の塊を手箕てみでガサッとすくい、軽トラックのコンテナに載せる。手箕とは、学校の除草作業などで草を大量に載せて運ぶ、すくって運ぶあれだ。おなじみだろう。皆の間で「すくう奴」で通ってると俺は認識している。

 曜日により多い少ないはあるが、大体一時間半から二時間で作業は終わる。そして、現場は家から自転車で十五分で着く。バイパス沿いではないが、バイパスの南側で少しだけ行った感じ。まあ近いと言えば近い。校区は日吉だろう多分。嗚呼城南だったかもね。もしかしたら。うーんどうでしょうかぁ。

 ここはもう築二十何年位経っている佇まいの打ちっぱなしの練習場である。ロビーの椅子が相当古いデザインだ。ワイングラスの下みたいな足の上にワンパーツ構成にフェルトかベロアの丸みのある椅子。座るところ、背もたれ、そこから更に肘が置けるような位置まで一つ繋がり、丸い椅子。何とも言えないデザイン。

先日のバイトで、さっきの二十代位の男性の先輩の上着が赤いレザーかフェイクではない様に見えたが、それが何だか、何だかなあ。

 赤の主張強めだったのかな、そのジャケット。その先輩は少しロングヘア―でワイルドという感じではない。御本人を百パーセントインドアな人間性だとは全く思わないが、ヘアースタイルはインドア寄りで性格もある点では柔らかいし。

 そのジャケットが真新しかったようだった。何だかなぁ。いや別に何かあるわけではない。

 現時点でケッナと街の楽器屋には数える程しか行っていないような、週に一回は行っていたような気もする。ケッナはクルクルパーだ。これは決して悪口ではないし一切ネガティブな感情は無い。

 ケッナの高校もクルクルパーなんだけど、何でも体育の授業でしょっちゅうサッカーをするらしいが、格闘技と混ざってるルールでプレイしているらしい。新競技だ。格闘サッカーと呼ばれているそうだ。

 ケッナは格闘サッカーが面白いと言っていた。まっこと度し難いのぅ。そして、その高校は私服登校だ。そしてケッナは髪がまあまあ長い。ケッナは洋楽を一切聴かない気がする、何となく。

 ところで、まあ、俺はケッナに対して気分を悪くしたりした記憶がない。勉強が嫌いそうなので基本常に暇そうにしている。


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