俺の名前は孔明

木村 翔

第1話 プロローグ と 一章 私は侵略的外来種になりたい

 今は昔。

 往年の、七十年代の空冷四気筒の大排気量、ナナハンとかがまだ中古でそこまで高くなかった頃、ゼッツーとかが中古で五十を切る頃だ。

 そこに突如、キリスト教の定義で言う所の悪魔が受肉した。日本の九州に。

「おお、神よ。なんということだ。オーマイガー!」

 その者はこの地で悪魔のくせに無邪気にスクスクと育ってしまった。彼がよわい十二を越える頃になると、彼のDNAは彼に指令を送るのだ、

「キリスト教社会を破壊せよ。」

 彼はキリスト教社会に紛れ込み、その転覆をその目論もくろんでいる。人の心の隙をのがす事は無い、決してだ。

「お前がキリスト教にトドメをさすのだ。お前にしか無理。てゆーか。危ぶむなかれ、あやぶめば、道はなし。迷わず行けよ。」

 さっ、それじゃあ間もなく本編スタートします。

「この物語を読む前にお願いがあります。お約束。」

 そこに登場する名称はすべて架空で、実在のものと無関係であった、ということです。そして、未成年の飲酒等の描写等が見られますが、それはそれ、昔は昔、今は今な訳であって、そうこれは今は昔のやつなんですよ。

 何が言いたいのかというと、えーつまり、こういう事です。今現在の個々はそれぞれの良心に従い今を自己責任で生きるべきな訳でー、この昔話の影響は全く受けてはいけない訳で。

 そこはね、今の倫理観念が優先される訳で、また、当時の雰囲気が優先される訳であって、だから敢えてそのままな訳で。ね!(念押し) 

「(僕の言ってること分かるよ)ね!」

というか、

「読者諸君聞け、現実の世界では、正義感と共に自分の意思をしっかり持って生きてほしい。この文章の影響を受けてはいけません。」

「自己責任って何かね。」

登場する物の名称はすべて架空で、仮に現実の世界と名称が全く同じものがあったとしたら、偶然です、実在のものと一切関係ありません。実在の物と関与したくありません。もし実在していたらの話だけど。

 その現実のものに対する認識をこの文章によって改めたりしないで下さい。自分をしっかり持ってください。

「文字通り異世界系なので現実と結び付けないでください。」

ではスタート



一章 わたしは侵略的外来種になりたい



 俺、本名が某天才軍師と同じらしい。今、中一になったばかりなんですよ。

 俺が中学生になると同時にバスフィッシングのブームが来た。それはそれはすごい勢いですねー。メーカーも本気になって金儲けしようとしている。今がチャンス、入れ食い。バスプロ業界の大名言を知っているか、君は知っているか。君は知っているとでも言うのか。

「バスイズマネー。」

 俺も、ブーム開始からタイムラグが全く無い状態でバス釣りを開始した。イケない魚と戯れる(触れ合う、つまり釣りを通じて接する)ことが流行りだしたとでもいうのか。皆イケないフィッシュと仲良しこよし。イケない魚が蔓延。俺の時代が来たな。これが三段論法。

 はあ、何だか自分の風流心を慰めがたい。ふうん、この春の夕暮れが俺をそうさせたとでもいうのか。今から本屋に行ってバスフィッシング関連の本を買いに行こうかなぁ。

 俺が言ってる本屋とはぁ、自転車で十分位のレンタルビデオと本も販売しているAVエーブイという名前の店だ。俺の隣の校区で、こっちの校区の方が国道も通っていて店も多い。

 一人で頭の中でワクワクしてバスのこ事を考えながら自転車で移動中。家のそばは田園、田舎でも、当然来てる電気、水道、ガス、なんでんかん、あるんで全然無い不満。イエぇヘイよー、チェケラ。

店に入る。バスどこだ、バスどこだ。どこだバス。雑誌の釣りコーナーか。

「お、フィッシュ。」

つい、フィッシュと言ってしまいました。いいかも、と思う本が見つかったのでつい。カラー写真で初心者向けの内容だ。

「パラパラパラパラ。」

あ、これでいい、これでいい。

「ナイスワン。」

さっさと帰っぞ。ワクワクすっぞ。

「あーすいません、」 

店員さんに、

「これ下さい。」

何かバスのルックスも最高ね。ルアーも何もかもがカッコいいよな。早速帰る。そもそもルアーは見た目がもうカッコよくないか、ミノーにクランクベイト、バイブレーション、スピナーベイト。これをまた、カッコよく動かすのだよ。スタイリッシュだよな。

「嗚呼たまんねぇぜぇ。」

そして俺は、

「ふふふっ。」

釣り仲間も多い。

 よくさっきのAVのある国道を街の方に行って世安の山本やまもと釣り具に一緒に行ったり。部活が無い休みは、バスフィッシングに行きたい。

 買った本は、しょっぱな見開きで池のおかっぱりに少年たちがバスフィッシングする写真がブームを表している。何を思ってバスフィッシングしているのか、写真から伝わるのだ。自分も同じだから分かるのだ。

 六月、相変わらずひまさえあれば友達と朝5時とかに集合し一時間、二時間自転車で頑張って釣り場に向かう。友達は一人だったり、五人以上の時もあり、まちまちだ。

 それで立岡たちおか江津湖えづこに行っても、かすりもしないしバスを見たことすらない。

 友達も皆同じだった。

「プロという存在がいる競技は非情な一面を持つと思う。」

奥が深いというか。どれだけ行っても釣れないし、誰かが釣ったのを見たりした事も全く無かった。泳いでいる所を見たこともない。

 釣れる気がしないのと、見た事すらないので、この池に居るのか、という実感も無い。中一の一学期の間ずっと通い詰めたのにそうなると、池を信じられない。自分の腕も釣れることも信じられないし、只々居るのか、と日ごとに疑い出して、気分も沈んでいった。

 心が折れるな、という本当にその直前に萩尾はぎおの存在を知った。行ったら岸際は植物があり、水草ではなく、浸水した陸の草なのか判らないが、生えていて豊かな自然で、そこに小さい赤ちゃんのバスとブルーギルが生活していた。

 「うーん。どうでしょう、ええ、やはりー。ここはーぁ。」

なんというか、フィッシュがのびのびしていて生活という感じがした。小さいワームを落とすと興味を示したり、追いかける。初めて実物を見た。今までの池と違う、立岡や江津湖はこうじゃなかった。実在を確認出来た池は期待してしまう。希望だ。憧れの魚は見られただけで頑張る気になった。

 しかし、ただ、いつ何をしていいのか有効打など分かりっこ無く、ただ何となくルアーを選んでポイントを選んでリトリーブスピードもアクションも何となく。

「このムーブはある意味極めし物の域か。」

確証が欠片かけらも無い釣りで、活性が上がるのは、朝夕マズメとだけ知ってる。その時はバスも頻繁に水面を割り食事をしているから分かる。それだけしか知識という知識は無い。

 萩尾は「ホーホケキョ」すら聞こえる。鳥の種類は忘れた。これも初めてであった。「ホーホケキョ」なんて聞こえてくる池は釣れそうだ。陸っぱりでは歩いて行けない対岸の林で鳴く。

 全くかすりもしないまま、十回も行く頃には大げさでは無く絶望を得た。もう永遠に釣れないと本当に思っていた。

 失意の中萩尾に通い続けていたが、今日も駄目かな、と九時をまわって十時手前だったか、何となく、いつもだが、何となくトップウォーターのジターバグを付けて一投目を水上の生い茂っている草の際にキャストした。

 着水の瞬間、音はしたろうか、リールが重くなり巻いたが何とバスだった。

「グルグル。」

岸まで五メートルの所まで巻いたときは魚なのだというのは分かった。

やや思い切りバックラッシュしていた。二十五センチだったが、魚の色が白過ぎて、

「バスかこれ?」

といった感じた。夏の朝十時をまわるともう釣れないのでギリギリだった。この後は何日もこの事が頭に残った。

「当たり前か。」

黄色いジターバグで背中が黒くサイドまで黒が虎目で落ちていて、たしか腹は赤が差していたな。そのルアーはもうどっか行きましたー。

 そういうことで、俺は初めて釣ったバスだけベイトタックルだった。ジターバグというトップウォーターのハードルアーだ。巻くだけで左右にポコポコ水音を出しながら首を振る。相当昔からあるルアーだ。中一の夏休みでこんな思いをして初めてのバスを釣った。

 冬になって萩尾が減水されて判ったが、釣れたポイントはかけ上がりになっていて、その地形の変化があったから嗚呼それで釣れたのだ、と確信した。かけ上がり(馬の背だったっけ)自体は調度良さそうな、如何いかにもな感じ。大きさは大体直径六十センチ位だ。

 バス釣りはそうやって根拠を得る積み重ねの連続だ。水面に出ている草の集合の脇なだけではなかったのか。

「へぇ。」

 バスは俺にとっての大事な存在である。大人の一部は嫌っているが、流石だなと思う。そういう所が。

 歳月経過し、俺は中二になった。そして今五月だ。これまで散々バスを釣ったな俺。

「そういえば今、ブラックバスはベストシーズンだなぁ。」

と思った。

 ベストシーズンは産卵のシーズンで、浅瀬に大きいサイズが常駐してくる。卵を守る為に見張っているのだ、確か酸素が要る等の理由だったか、バスは浅瀬で産卵する。

 ちなみに俺はダウンショットリグでしかバスを釣る事が出来ない。更に、ある特定の条件の揃った地形でしか釣る事が出来ないのだ。

 岸が水面に対して斜めに落ち込んでいる所だ。更にコンクリートではなく、土の所のみだ。また更に、直線の岸、つまり、入り組んだりしていない、あまり変化のないポイントでしか釣る事が出来ない。直線の岸の際、端の所などでは釣れる。端というか、長方形の池だとしたらその角は釣れる。

 この条件に当てはまる池は、花園はなぞの中堤なかつづみだけだ。

花園池は宇土うとくにランドのすぐ傍だ。池の遊歩道な桜の並木で花見スポットだ。火の国ランドはもう何年か前に廃園した遊園地で、池の、道路を挟んだ反対側の丘の上にある。丘ではなく山かな。観覧車とかまだ残っている。池は二つ隣接している。もう一つは立岡だ。この池は家から自転車で二時間位掛かる。

 因みに以前、友人のヤミーと釣りに来た帰りに、この間潰れた火の国ランドに侵入して、写真を撮った。俺が封鎖したフェンスにまたがってピースみたいな。

「ね、俺ってバスっぽいでしょ。習性が。」

 中堤は更に遠く松橋まつばせにある。立岡は通り道だ。池が三つ連なっていてその真ん中だ。自転車で更に一時間近く掛かる、立岡から。

花園のポイントを教える。

 三号線から左折し車道を直進すると花園が見えてくる。道に隣接している。その岸沿いを池の終わり辺りだ。一番先。そこがポイント。立岡からの流れ込みがある。更にその道路の先は大きい駐車場がある。池の駐車場だ。やや古い公共のスポーツ施設もある。地元の人がよくテニスをしているが今のところ体育館は使われているのを見た事が無い。

 ここが減水するとコンクリ―トの岸の下の土が出る。そのときしか俺は釣れない。広い池のこのポイントでしか釣れない。花園は真ん中にコンクリの島がある。てっぺんに木が生えている。

「中堤のポイントを教える。」

中堤は、立岡を越えて三号線を直進し松橋インターに入る道を左折、ちなみにその交差点のそばに猫池という池がある。左折したら道なりだ。自転車でニ、三十分してガソリンスタンドが近くにある入り口がポイントだ。そこからの岸は直線状になっていて、そこからなら端から端まで釣れる。

 三つ連なった溜め池で、真ん中は中堤、あっ、そうか、真ん中の「中」なんだ。俺が釣るポイントのほうは萩尾ではない方の池と隣接している。

 この池の名前は知らないが、ここが一番早く減水される。やはり次は真ん中の中堤、最後が萩尾だ。用途は田植えらしい。恐らく名前を知らないこの池から順に標高が下がっている。ここまで来る道路も山道気味で上り坂だ。萩尾は大分に手前にある。三つ合わせるとめちゃめちゃデカい。

 ただ一番上流の池は減水の期間が長く、満水状態でも浅いので、バスいるのか、と思う。フライを投げている人を見たことは一回ある。最深部で一メートルあるかな。岸から遊歩道が水面にオーバーハングしている。それは池の入り口手前側、半面ぐるっと囲う。その先対岸は岸沿いの遊歩道。釣れそうにないから見えない所の先の方は行った事がなくどうなっているのか知らない。

 水上の遊歩道は古びている訳ではなく、新しい。綺麗で雰囲気は良い。今まで数える程しかキャストした事が無い。まあ釣れる気がしない程池が浅いのだ。 

 タックルは当然の様にスピニングだ。リールはツイストバスターだが、ロッドは釣具屋で一番安いヤツで、よくしなる、つまり柔らかいかどうかだけを確認して買う。

 リグが軽いので、出来るだけ遠くにキャスト出来るように。そして釣れるバスも小さいからだ。

 スポーニングだけが大きいバスは釣れる。そのロッドはシェイキングするとガクガク金属的な振動が手に伝わり、重量もある。

 で、それ以降は、ダウンショットリグでしかバスが釣れないアウトドア人生だ。俺はもう永遠にハードベイトでは釣れないと思っている。

 そのダウンショットリグも、始めの頃から仕様変更を重ねてきた。バスに聞いて完成させ決めていった。今はもう針のサイズからダウンショットのガン玉から、それの為のラインの長さ、ワームの種類、カラー、何もかもが変わっていて、すでに答えが出ている。

「もうわかっちゃったんですけど。」

 今のリグは、スライダーワームの白みのあるスケルトンのものが良い。グレー系も釣れる。二番手かな。グレーもやっぱりスケルトン一択だ。紫のスケルトンなどもバスは来るが 白みがかっかた紫ならもっと良い。グリーンも。全くただの透明も釣れる。だが、実績があるのは透明でもラメは入っているワームに限る。黒いラメは良い。

 更にそのワームを半分にカットして使う。スライダーワームに関しては、だ。スライダーワームっちゅうのはストレートのワームで十五センチ程の鉛筆位の太さのワームだ。

 一応説明するが、ワームはソフルアーという別名でゴムみたいな柔らかい疑似餌だ。スライダーワームはジャバラのパターンの切れ込みが頭から尻尾まで入っている。空冷のフィンみたいなやつ。真ん中の腹はニ、三センチ位プレーンになっている。尻尾は小さい尾びれがあり、そこに向かって少しずつ後半細くなる。

 真ん中でカッとしたら頭も尻尾も両方使う。プレーンの腹は頭よりにあるが、頭の側の半分に腹が付く。腹から下は細く尻尾付きでよく動きアピール力が強いから、短くカットする。頭の方は太くしならない分長めにして、水中で曲げたい。

 フックはチヌ針で、針の下のフックの曲線が真っすぐなのが特徴だ。そこにワームの先頭を真上から真下に垂直に通す。針のサイズはワームの頭の幅が針のボトムのストレートの長さと同じになるサイズだ。ラインを通す穴のあるタイプのチヌ針にしている。

 針の結びはクリンチノットという結び方に近い。結んだら余った糸をカットするはずだが、その糸をあえて長くなるよう結ぶ。その先針から下約十センチにガン玉を付ける。ガン玉の真下に予め結び目を一つ作り、水中の障害物にガン玉が引っかかって取れるのを防ぐ。

 ガン玉は丸いプラスチックケースの、いろいろなサイズが入っているセットを買う。いつも、ニ番目か三番目に軽いガン玉しか使わないので、そこにバラ売りを補充する。

 で、出来るだけ遠くにキャストしてボトムにつくのを待つ。ボトムについたらシェイキングしたり、ステイしたり、ゆっくり巻いたりを繰り返す。

「バスはおるけん。」

それを繰り返していると必ず釣れる。ラインが水面を走る。またはロッドの先端にピクピク生物的な動きが出る。アタリ。

ダウンショットリグは本来もっと針から下のラインを三十センチ位とって、ガン玉はもっと大きい重い。それによって、一か所から動かないまま留まってシェイキングとステイのみ釣れるまで繰り返すものだ。

 リグは上からまず、針、とそれにワームが付いて、またライン、最後にそのラインの一番下がガン玉だ。フックの上はラインからロッドまで直だ。

 つまり、アタリが取りやすい。さらに、バスがくわえた時に違和感を与えにくい。くわえて持っていく時に重りの重さをバスが察知しない。

 俺のリグはボトムをズル引きすらせず、シェイキングすると水中を泳いで手前に来る。重りが下にある分、キャストから手元に戻るまで進行速度はゆっくりになる。それもメリットだ。

 真冬でもニ十匹も釣れるが、サイズは十から十八、十九センチのみだ。冬以外なら百匹位の日もある。

 これはもう最重要機密事項で、全ての情報を友人どもには、一切明かさなかった。一人だけ最も一緒に釣りに行っていた同じバスケ部の奴を除いてだが。ウシタカ君という奴だ。

 そいつは全く同じようにして釣っても絶対俺の方が釣るのである時マジで屈みこんで三分位嘆いていた。声は掛けたが。別に良くないか。

 だが、他の大勢の友人どもと松橋方面に朝二時集合で行くことになった。人数は過去最多の八人。真っ暗な中三号線を南下する。

「チーン。」

あまりに坊主過ぎたし、今まで一匹も釣った事がない奴が多すぎて全てを明かした。その時皆でやはりバシバシ釣った。全員びっくりだった。

持ち帰る奴もいた。マッ君のことだ。

「へーこれがバスですかぁ。」

俺に、

「お前が今釣ったこれ、俺にやれ。」

「いいよ。」

まあバスは皆の憧れだ。一応、

「一応ポイントとリグは絶対秘密にしておくように。」

言うだけ言ったな。

 「そもそもなぜ秘密なんだ、何故情報開示せぇへんねん。しろよ。」

ノリック何でそこで行かへんねん、行けただろ今、という具合にな。

「解るよー。」

皆バス見て感動してたろうが人でなし。

「解るよー。」

いやいや難しいって。これだから素人は困る。

 なぜなら釣り場が混むのが嫌だったのだ。その釣り方が流行って。ただ結果、そんな事は無かった。

 でも誰か他のアングラーが他の釣り方でも何でも、バスを釣り上げるを見た事は本当に少ない。同い年位のが餌で生きたカエルがもう死んでる、言うなれば死に餌(え)リグとオマツリしたって。同じポイントに一日中そいつらは居ても釣れないのだ。こっちは何十匹も釣る。それが日常だ。

 ごくたまに大人がバスを釣り上げる時があった。ごくたまに。ほぼ見かけることは無いに等しい。どんだけあったっけ今までで見かけたことは。

 まず、真冬の花園で四十代位の男性がクランクで一匹。知識の差だとでもいうのか。

「バスっちゅうのは誰にも釣れない。」

例一、氷川(ひかわ)ダムでナウなヤング当世風の男性、小ぶりのクランクで一匹。

例二、氷川ダムと萩尾でダウンショットリグ一回ずつ、どっちも四十代か三十代の男性。

今までどれだけ釣り場に行ったことか、通算でこれだけだ。それオンリー。同じ中高生もブームで相当来てる中で。

 多分バス釣り百回以上は行ってるはずだ。通算で目の前で、他に釣り上げた人は片手に収まる。

「バスを釣るとは、生ける仲達を走らす、みたいな。偉業なのだろうか。そうかも知れん。俺の周りではそうだ。」

冬になった。

「花園行こうか。」

ウシタカ君に言った。

「あ、御意ぎょい。」

花園は中堤より近いのでここばかりになる。

「ウシタカ君よ、この前猫(ねこ)池(いけ)でね、ハエの仕掛けでブルーギル釣ったよ。」

 猫池は花園と萩尾の中間にある、俺は続けて、

「餌無しで釣れる。最初は葉っぱ付けて釣ったよ。」

「へー。」

とウシタカ君。

「そのままの仕掛けでいける。」

「誰と行った。」

「ツッゲ。これを教えたのはクラスメイトのツッゲだ。」

「マジ。へー。」

「じゃあ明日五時にスポーツセンター前ね。」

今現在において法律違反ではないがイケない事をしたくなった。今、不意に。可愛いバスをえー約二十名近所にゲリラ放流しちゃえ。

「毎回必ず何十匹も釣れるので一度天明新川に放そうか、放そうよ。」

「嗚呼それは良い考えだ。」

「善行だ。」

「善は急げ。」

「ところで貴様、補完といふ言葉の意味を貴様は知っているか。」

「いや。」

「足りない所を補って完璧にするぅ。それでホ、カン。」

「え。」

「補うの音読みのホ。と完璧のカンね。」

「よく釣り雑誌とかでモラルでやめた方がいいよだって。ゲリラ放流は。」

「おいこら、タコこら。馬鹿かお前。優等生かこら。笑いの世界じゃそれ、絶対にやれって意味だぞ。お前なんかお笑いの専門学校で落ちろ。その入試で落ちろ。このボタンは絶対に押すなよ、押すなよ。は押さないと怒られる。ユーアンダスタンド?」

「イエス、アイアンダスタンド。」

「ま、思想の違いで、どちらも日本の未来を考えてるな。倒幕か、倒バスか。ご注文はどっち。」

「親バス派。暗躍しましょうよ。」

「これはね天誅なんです。」

「天誅の達人がいます(通報)。ゲリラ放流の達人が。」

「俺とかの域になると存在がバスっぽいよな。最低というか。政治家とかに俺嫌われるタイプ。真逆。俺位ビックになると。」

「育ちが違うねん。育ちがマジで日本のうとまれたバスっぽい。」

「であるか。是非に及ばず。」

と例のバスケ仲間ウシタカ君と意見が一致した。こいつは後に地元で一番の進学校に行く予定の優等生だ。

 こんな英断は突発的に大体、毎回、いつも俺が提案する。今回は花園で昼頃思い立った。善行は真っ先にしましょう。

すかさず、自転車で三号線の北方面の民家群を捜索し売店を発見した。池から十分ちょっとで発見。個人経営の田舎の絵に描いたやうな、商店。

「ガラガラガラァ。」

四、五十代の女性店主に、

「大将ね。ゴミ袋ありますか。」

「商品として。」

「いえ。」

それで、無料で一つ調達した。

「ありがとうございます。」

「さようなら。」

俺は緊急的に一枚欲しい体で貰えると計算していた。最初から。

 花園に戻り透明のゴミ袋を水中に絶妙に沈めて、ニ十匹程捕獲した。そのまま帰路に。放流場所は家の近所だ。

 天明てんめい新川しんかわのリリーパッドエリアに放した。まだ陽はかすかにあったか。バスはピューッと天明新川に去っていった。

「バスに栄光あれぇ!」

「バスと共にあらんことを。」

俺は

「坊やだからさ。」

と吐き捨てた。バスさん俺応援しているからね、頑張ってね。

このリリーパッドエリアは雰囲気が良い。リリーパッドはテンション上がる、リリーパッドは。リリーパッドに雷魚なんて、水魚の交わりみたいなところがあるな。模様のある方の雷魚がいっぱいいらっしゃって、稚魚はサイトで確認している。NECの工場がすぐそばだ。ここから二人共家まで十分だ。

 その後、自分で放しておきながら、ここで釣りはしなかったが、

「天明新川にバスがおるけん。」

と一人言ってきた。

「であるか。是非に及ばず。」

 俺は返す。いるかもしれないが、自分の技量では釣れない。天明新川はコンクリート打ちの岸だ。土の岸からでしか俺は釣る事が出来ない。

 ただ、そこにバスがいるかもしれないと思うとワクワクはする。

流石はブームだけあって俺の小一から友達のヤミーすらバスフィッシングするとはな。

「大人共がうとむならば、俺はそれをあがめるんだよ。」

「聖なる魚。成魚、聖女ジャンヌみたいな。」

「この悪魔め。」

「そうそう悪魔崇拝だよね。バスを崇めるとか。」

「カラスと魔女みたいだ。仲良しか。」

「カラスって黒いからそうなの。黒くなかったら印象悪くないだろそこまで。あ、そうかそれでブラックなバスなんだ。」

「というか今度バスプロのコントを撮りたい。」

「え。」

「バスプロは釣ったバスを大きく見せるように、見せるやうに、いいかーっ。見せるやうにしてこのやうにカメラの前にだすだろ。」

俺はジェスチャーする。

「あ、それ。」

「この前テレビでもっとすごいの見てな。」

「どんなん。」

俺は笑いながら、

「バスボートで、そのまましゃがんだらキャッチできそうなサイズなのに仰向けになってキャッチしやがった。演出だよね。あえての仰向けムーブですよ。如何いかがでしょうか。」

「仰向けキャッチはよく見るが。カッコよく見せないとなプロなんだから。自己演出にも程があるな。」

俺は絶妙さ具合を伝えたい。

「俺の説明で絵が浮かぶか。」

「嗚呼浮かぶ。カッコつけてる感解る。」

「大げさに見せたい。」

「それで、仰向けか。」

「そこは普通にしゃがんで取ったら何(なん)じゃ無い。何じゃ無いとテレビはマズいですよ。そこでプロの技ですよ。臨場感のどさくさに紛れてかましやがった。俺はそういうの見逃さねぇよ。もう解っちゃったんですけど。すかさず虫(むし)パターンに切り替える。そういう事でしょうが。」

「勉強になります。」

「メモしとけ。」

目と目が合って百パーセント共有できたのが判った。

「俺それパクらせてもらうわ。かんべんできねぇ。そのムーブの出しどころを常に狙うとする。」 

「プロに教われ。」

「プロさんどうも教えてくださりありがとうございました、って気分だ。虎視眈々とタイミングを探しとてその技出してメイクする。俺と釣りに行く時覚悟しとけよ。」

「メイクて、スノボの技か。」

「俺の持ちネタ。オスカーとってやる。」

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