三、純白な気持ちを伝えたくて
第13話
「ねぇ、5月の10日って暇かしら?」
連休明け初めての昼休み、美術準備室での出来事だ。
穂花は真剣な眼差しで葵に話題を振り始める。
「土曜日?うん、特に予定は無いかな」
「そう、ならその日、私の仕事手伝ってくらないかしら?」「仕事?」
「私、花屋でアルバイトしているのだけど、その日は母の日の影響で忙しくなるみたいで、1日だけ手伝ってほしいの」
「母の日......」
そういえば、最近何もしてあげられてないし、良い機会かもしれない
「全然いいけど、僕にもできるのか?」
「ええ、簡単な接客とか花を並べたりで、すぐにできることよ」
「そうか、それなら手伝わせてもらおうかな」
「ありがとう」
葵の返事を聞いた穂花は笑った。
「もし、今日時間があるのなら、バイト先まで来てくれないかしら」
「うん、いいよ」
「5時半に正門集合ね」
「5時半?授業終わる5時じゃだめなのか?」
「ダメって言うか、放課後に3人から告白されるの」
穂花は、「待ってました」と言わんばかりに放課後の予定を告げた
「そうか」
「もし、私が告白されるのが嫌だったら、あの人達の約束を無視してあげてもいいけど?」
「いってやりなよ。どんな人だろうと、相手の気持ちを無視して踏みにじるのはきっと良くないし」
「あっそ」
思っていた反応と違ったのか、僕の返事に菊地は素っ気ない態度で返事をした。
「別に引き留めてくれたっていいのに......」
「引き留めたら、それはそれで『私のことが好きなんだ』とか言って弄るだろ......」
「私のこと、好きじゃないの?」
「もちろん良い所はあるけど、まだ好きじゃない」
「本当、貴方って見る目ないのね」
「悪かったな」
「......まぁいいわ。さっさと振って戻るから、少しだけ待っててちょうだい」
僕達の言葉合戦は終わった。菊地はなかなかにすごい発言をかまして教室を後にした。
「お待たせ」
17時10分を少し過ぎたとき、菊地は僕の背後を静かに取った。
「貴方の望み通り、気持ちを受け取ったうえで振ったわよ」
「そんな言い方しなくてもいいだろ......」
「そんなことより、早く行きましょ」
菊地は早く話を切り上げたかったようだ。
僕の腕を掴み、早歩きで横断歩道へと向かった。
「お疲れ様です」
学校からはさほど遠くはなかった。菊地は、木造建築の小さな建物の一階にある花屋に挨拶をした。
「アルバイトの子連れてきました」
菊地の声が部屋の中に入るや、痩せた中年女性が部屋の奥から現れた。
「あら、穂花ちゃん!この子が前に言ってた子?」
女性は嬉しそうに穂花に言って、葵の足元から、頭を見るように目線を上に動かす。
「初めまして、近藤真由子(こんどうまゆこ)と申します。アルバイトの件、ありがとうございます」
真由子は葵ににっこりと微笑んだ。痩せていることもあってか、その微笑みは歳を感じさせない。
「初めまして、須崎葵です。一日だけではありますが、よろしくおねがいします」
「こちらこそ、よろしくね。だけど以外ね、あの穂花ちゃんが男の子を連れてくるなんて」
「友達は皆バイトしていて誘えそうになかったので、恋人を連れてきちゃいました」
「そう、恋人連れてきたのね ......えっ恋人!?」
真由子さんは目をかっ開き、絵に描いたような驚き方をした。
この店でも、菊地穂花は赤ずきんなのだと想像ができた。
「どうして、穂花ちゃんに恋人が......?」
「その言い方、失礼じゃないですか?」
「だ、だって......この前、ナンパしてきたイケメンにこっ酷い言葉使って振ってたじゃない......」
「穂花、本当なのか......?」
何故だろう......バイト先でもイケメン相手に罵詈雑言を浴びせるコイツの姿が安易に想像できる
「違うわよ!真由子さんが誇張してるだけ。普通に断っただけよ」
「そ、そうか。ならいいんだけど」
「全く......葵に嫌われてしまったらどうするつもりなんですか」
菊地は、笑顔と怒りを混ぜたような、複雑な顔で真由子さん注意を促す。
「ごめんごめん!だけど、葵君きっと不安だっただろうし、これで安心できたんじゃない?」
真由子さんは片手を前に出して謝罪のポーズをとるや、僕に対して雑に話を振って助け舟を求めだす。
安心も何も、例の写真を晒される事以外で菊地に対して抱く不安要素などはない。
「まぁ......そうですね。不安は無かったですけど、好きでいてくれてるんだって再認識はできました」
「そ、そうなんだ」
僕が適当な言葉を返しすと、菊地は顔を地面に向けてボソボソと相槌をうった。
「ところで真由子さん、僕は10日の日は何時頃にここに来たらいいですか?」
「真由子さんじゃなくて、店長でいいよ。そうね......10時に店を開くから、9時50分くらいに来てくれたら嬉しいかも!」
「分かりました」
「うん、よろしくね」
陽気が過ぎる店長なのかもしれないけど、店の雰囲気は結構良さげだ。むしろ、こういう性格の人の方が赤ずきんを引っ張るのに向いているのかもしれない。
なにがともあれ、5月10日が待ち遠しく思えてしまった。
赤ずきんちゃんに御用心!! @aoi_sumire_
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