第6話


「デート?!しかもなんで明日なんだよ!」

「なんでって、恋人だからよ。それに、ダラダラしたいってだけで暇は暇なんでしょ?」

「まぁ、そうだけど」


「それなら、せっかくの休日に"恋人の私"と遊んでくれたって構わないじゃない」


「だけど、それって形だけの恋人だろ?それに、お金ないし」

「お金に関しては、少しくらいなら奢ってあげるわよ。近頃、おばあちゃんに会いに行くから貴方との話してあげないと、悲しませてしまう」

「......」


デートに誘おうとする穂花、その穂花の意思に反抗するように葵は言葉を連ねたが、穂花は幸代の存在をちらし始め、葵に同情を誘う。


「話をするだけなら嘘を並べられるけど、証拠の写真を要求されたら終わり。それに、実際に行った方がリアルな話ができるでしょ?」


葵が少し情を見せた隙を逃さなかった。穂花は、最悪の状況を想定した話を交えつつ、追い打ちをかけるかのよう葵を説得する。


「それに、貴方とも一度ゆっくり話してみたいしね」

「......分かったよ、幸代さんのために付き合ってやる


葵は穂花が最後に出した言葉に耐えることができなかった。

自他共に認める程の美女の言う「貴方と話してみたい」なんてものは、相手の気分を上げるためのお世辞でしかないだろう。

葵は、この言葉を掛ければ、気を良くしてくれると思われたくなかったのだ。


「やった、それなら明日デートってことで」

「予定は立ててるのか?」

「うん、9時から動物園に行きたいの」


「動物園?朝9時から?」

「9時じゃないと周れないじゃない。それとも行けない用事があるの?面倒臭い以外で」

「......ないです」


拗ねたような穂花態度に、葵は一歩引き下がった。

幸代さんのためとはいえ、どうしてこいつはこんな朝早くから動物園に行きたがるんだ......


「ないのなら、明日の朝9時に学校前に集合ってことで、何か提案とかある?」

「昼頃に合流するっていうのは「ふざけてるの?」「......すみません」


「それじゃ決まりね。明日は、私に良い所を見せてね」


穂花の一言で明日の話題が終わった。

パンを食べ終えている葵を見るや「私は今から食べるから、先帰っても良いよ」と口にする。


「教室に戻って、私のこと、皆に自慢してあげてね」

葵が穂花の言葉に甘えて教室を後にしようとした時、穂花はそう言って、微かに笑みを浮かべながら葵を見送った。






次の日、ゴーデンウィーク初日の朝が来た。

やけに外が眩しい、もう春が終わりを迎えようとしてるんだろう。

葵は、身支度を済ませ、半袖の服に着替えると約束の時間に間に合うよう、学校へと向かった。



学校に着くと、洒落た服を着た1人の少女が、伸ばした手を前に重ねて、ソワソワした様子で辺りを見渡していた。


「お待たせ、待たせちゃってごめんな」

「いいわよ、待たせたって言っても約束の10分前に着いてるんだし、気にしないで」

「そうか、ありがとう」


感謝する葵に軽く頷き反応した後、穂花はマジマジと葵を見つめた。

少し経っても何も話さない葵に痺れを切らしたのか、穂花は話題を持ちかける。


「貴方の、デニムパンツに白の半袖のコーデ、シンプルで良いわね」

「そうか?」

「うん、そう思う。それと......今日の私の服......どうかしら?」


「どうって......」


菊地は、白のシャツに黒のズボンか......この美貌だからこそ様にはなってるけど、なんでシャツをズボンの中に入れてるんだろう


「なぁ、シャツをズボンの中に入れてるの、オジサンみたいじゃないか?」


「最低......これは『タックイン』って言うファッション、貴方みたいな適当な服装した人には分かりかねない服装よね、ごめんなさいね期待して」


どうやら、また怒らせてしまったみたいだ。


「それはごめん。本当に悪かった」

「......まぁ服に詳しくないのなら仕方ないわ。私こそ、酷いこと言ってごめんなさいね」

「......」


穂花が自分の発言を謝罪したのを見て、葵は少し驚いた。

もしかして菊地のやつ、今日のデートで僕が不快にならないよう気にかけているのか?


「話を戻すけど、菊地の今日の服、とても似合ってるよ」

「本当に?さっきの発言から本心とは思えないんだけど......」

「あっ、あれは違う!確かに発言は酷かったけど、ダサいなんて言ってないじゃないか!!とても似合ってる、綺麗だよ」


「......そう、なら良かった」


葵の褒め言葉を聞いた穂花は満更でもない様子だ。


「少し早いけど、動物園行きしょうか」


そう言うと、穂花は葵の肩に寄り添ってゆっくりと歩き始めた。

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