ニ、金色の初夏
第5話
朝の7時、目覚まし時計が大声で叫びながら、寝ている葵の耳元を殴りつける。
目覚めの悪い1日が始まった。
時計を止め、薄らと意識を取り戻す最中、1人の少女が葵の脳裏に現れる。
「菊地穂花......」
赤ずきんと付き合って2日目か......だけど、いまだに実感が湧かない......そうだ、きっと昨日の出来事は夢なんだ
そんな事を思っていると、携帯から『ほのか』と名が書かれた人物から、一件の連絡が届いていた。
『おはよ。話したいことあるから、今日の昼休み美術準備室に来てね』
「マジか......」
できれば夢であってほしかった。
葵は返事を返すことなく携帯を閉じ、学校に向かう準備に取り掛かった。
嫌だな......登校すること自体がいつも面倒だと思っているのに、今日は面倒を通り越して憂鬱なまである。
学校が近づくにつれ、葵の心臓はバクバクと飛び出そうな勢いで胸に叩きつけられていた。
葵の頭には、たった一つの不安要素だけがグルグルと頭の中で渦巻いている。
学校では、もう僕と菊地の噂が流れているのか......いや、まだ大丈夫なはずだ。だって昨日は放課後で、尚且つ誰もいない教室だったんだ、見たり聞いたりした奴なんて、流石にいないだろう。
高鳴る心臓を宥めるように言い聞かし、葵は学校へと向かう。
「「「赤ずきんと付き合ったって本当か?!」」」
教室の扉を開けた時だった。クラスの全員が葵の方を向き、一斉に事実確認を行なってきた。
「......んっ?」
突然の現実に戸惑っていると、放課後に恋話をしていた、1人の男友達が葵の元に近づいた。
「赤ずきんと付き合ったんだって?!どうやってあの高嶺の花を掴んだんだ?」
「『掴んだ』じゃなくて『掴まされた』んだよ!!」
「はっ?何言ってんだ?」
しまった!!『僕が赤ずきんに告白した』という考えが共通認識としてあるのに腹が立ってしまった......下手に弁解して、菊地にバレたら、次は胸を掴まされた瞬間の写真を晒されてしまいかねない......!!
「いや、違う......僕もまだ実感が湧いてないというか......ってか、この話誰から聞いた?!」
「4組の白戸?ってやつが、うちの女子達に嬉しそうに話してたぞ」
「白戸......どこかで聞いたことのある名前......」
ーーーーー
「先生の件は嘘。あれは多分、私が白戸......4組の子に貴方を呼ぶようお願いして、その際に彼女がついた嘘なの」
ーーーーー
「犯人アイツかよ!!」
白戸に対する一言で、教室内が一瞬静まり返った。その時、少し離れた席から、2人の女子の会話が聞こえた。
「須崎君可哀想、よりによって赤ずきんと付き合うとか......きっと碌な事されないよ」
「そうだよね。顔が良いから人気なだけで、話しかけても冷たい対応するし、きっと性格悪いよ」
葵は、2人の言葉に無意識に反応してしまう。葵と目が合った女子達は急いで話を中断して、目を逸らした。
2人の態度に、少しの申し訳なさと怒りを感じていると、授業開始5分前のチャイムが鳴った。
「休み時間にでも話を聞かせてくれ」
皆はそう言って、各々の席へと帰っていく。
各休み時間ごとにあう尋問を突破し、昼休みを迎えた。葵は「トイレに行く」と言い、皆の目を盗んで教室を出ると、すぐさま美術準備室へと向かった。
美術準備室の前に来た。
人がいないのを確認した後、吸い込まれるかのように教室に入ると、そこには教室の角に置かれた机に座った穂花が、頬杖をつきながら窓を眺めていた。
「遅い、5分経ってるわよ」
「菊地のおかげで、沢山の人に絡まれてたから、抜け出すのに時間がかかったんだよ」
「そう、貴方もようやく人気者になれたのね」
「こいつ......」
「だけど、噂が広まってくれて良かったわ。おかげで私に玉砕してくる人達がいなくなったんだもの」
穂花はそういうと、ようやく視線を葵の方へ向けた。白戸が流した噂のせいで苦労して葵とは違い、穂花は白戸が噂を流した件に満足しているようだ。
「それじゃ、お昼ご飯食べましょうか」
「えっ......話だけ聞きにきたんだけど」
「馬鹿なの?恋人の『昼休みに話したい』は普通、ご飯食べながらお話しするものでしょう」
「......」
僕の話を聞く間もなく弁当箱を出し始めている。これ以上言葉をかけても面倒ごとに巻き込まれるだけだ、言うことを聞こう。
仕方ないと思いつつ、葵は机を持って穂花の隣に歩み寄る。
「ちょっと、隣来ないでよ。正面に座って」
言うことを聞いても面倒な事に巻き込まれてしまった。
「分かったよ」
葵は、ため息混じりの声を出すと、机を穂花の正面に置き、袋からパンを取り出す。
「ところで須崎君、ゴールデンウィークって暇かしら?」
「なんだよ急に」
「いいから答えて」
「......まぁ、4連休の最後2日は暇かな」
「明日は用事あるの?」
「明日......用事はないけど、普通に寝ていたい」
葵の返事を聞いた穂花は、開けて間もない弁当箱を再び閉め、葵を見つめる。
「そう特に用事はないのね、なら明日、私とデートしてちょうだい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます