第25話 すごーくばか
まずは、このページに飛んできて下さり、誠にありがとうございます。
さて、今日は読者の皆様にお伝えしたいことがありますので、是非最後までお読み頂けると幸いです。
それではどうぞ!
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「え!? やっぱり雄也だよね!?」
眼前、亜麻色の美少女が、その姿形の雰囲気には似ても似つかないハイテンションで雄也へと近付いていく。
もう日は落ちて、完全な夜を迎えていると言うのに、亜麻色の髪の光沢と麗しさは、確かな存在感を放っている。
「莉奈だ、久しぶりに会った」
「……莉奈って、さっき言ってた子?」
呆然とする雄也の言葉に、麗奈はどこか不安そうに返答。
その言葉に、雄也が「そうだよ」と返事をすると、麗奈の表情は露骨に暗くなった。
「うわあ! めっちゃ久しぶりじゃん! 元気だった?」
二人の目の前まで来た莉奈が、満面の笑みを雄也へと向ける。
「おう。元気だったよ。そっちは?」
「私はもう相変わらず! 元気もりもりです!」
「本当に何も変わってないんだな」
「えっへん」
懐かしむように苦笑する雄也を見て、莉奈は胸を張るようなポーズを取る。
そして莉奈は、雄也の隣に立っていた銀髪の美少女へと視線を向けると、「あ!」と言うような顔をして、
「さっきぶつかっちゃった子です、よね?」
と、申し訳なさそうに麗奈へと視線を送る。
不安に駆られていた麗奈は、無意識に雄也の服をちょびっと摘みながら、
「あ、はい。あの時は本当にごめんなさい」
「いえいえ。こちらこそ、申し訳ないです」
と、お互いに申し訳なさそうな視線を交えながら、そんな会話を交わす。
すると、莉奈は麗奈の顔を見るやいなや、途端に驚いたような表情をした。
「というか、本当に可愛いですね!」
「……え?」
予想外の発言に、麗奈は目を丸くする。
「いや、すごく可愛いなって思ってたんです。ぶつかっちゃった時から」
「え、あ……ありがとう、ございます」
「その銀髪って生まれつきですか?」
「まあ、そうですね。気付いたらこうなってました」
「へえ〜。にしても可愛い……」
『あなたに言われても』なんて思いつつも、同性に言われるのは素直にちょっと嬉しかった麗奈は、頬を赤らめながらその言葉を受け取る。
すると、莉奈は途端に「ふん!」と鼻を鳴らすように、目つきを悪くしながら雄也を見た。
「てか、彼女が出来たなら連絡くらいしてくれてもいいんじゃない!? しかもこんなに可愛くて綺麗な子なら尚更! もう!」
ぷん!と効果音が聞こえてきそうな程、莉奈は頬を膨らませている。
「……ん、え、今なんて?」
聞きそびれた莉奈の言葉に、雄也は再びその言葉を求める。
否、聞きそびれたのではない。莉奈の言葉の『彼女が』という部分についてだ。
「だーかーら! 彼女が出来たなら連絡してよ! 私と雄也の仲なんだから!」
どこか恥ずかしそうに目を細めて、莉奈は言った。
やはり、聞き間違いでは無かったらしい。
莉奈は、雄也と麗奈をカップルだと思っている。
しかし――その言葉を最も真に受けてしまったのは、雄也ではなく、麗奈だった。
「彼女って……。付き合ってないよ、俺たち」
何となく拒否することに抵抗感を覚えながら、雄也は真実を莉奈へと伝える。
すると、莉奈は「え?」と言うような顔をして、
「……うそ、付き合ってないの?」
「うん。付き合ってない」
ほぼゼロ距離で隣同士に立つ雄也と麗奈。
ましてや同じ制服で。
誰がどう見ても、それはカップルだった。
しかし、それは違うのだ。
「……よかった」
すると、莉奈が安心したように、ボソッと呟いた。
「ん、え?」
しかし、それが聞こえていなかった雄也が聞き返す。
「あ、いや! 何でもない!」
「ん、そうか」
「うん。あ、ならさ。彼女じゃないってことはその……どういう関係なの? 二人は」
キョロキョロと、麗奈と雄也を交互に見ながら、莉奈は不思議そうに問う。
当たり前の質問だ。友達というには少し距離が近い気がするし、かといって彼女では無いのだ。
ならば――
「あー……その、色々あ……」
「――妹です、雄也くんの!」
どう誤魔化すか考えるような雄也の言葉を、麗奈の力強く嬉しそうな声が無理矢理遮った。
兄妹ということは、颯太にだけしか言ってない。
無論、そこには麗奈と颯太の一定の信頼感があったからこそ言えた訳で。
だから、『幼なじみの颯太には言おう』と提案をしたのも、麗奈な訳で。
「い、妹……?」
「はい! 妹です! 雄也くんの、たった一人の妹です!」
目を丸くして聞き返す莉奈に、麗奈も微笑みながら言い返す。
雄也から『莉奈に言おう』と提案されない限り、言うつもりは無かった。
でも、仕方ないではないか。
恋愛したのは初めてだし、嫉妬の抑え方なんて分かるはずがない。
だから、今ある事実を精一杯伝えて、「雄也くんは私のもの」って優越感に浸りたい。
それしか、嫉妬を抑える方法なんて分からないから。
「……そういうこと、ね! なるほどなるほど。ってことは、雄也のお母さんって……」
「おう、再婚したんだ。それで、新しいお父さんの娘が、麗奈だったってこと」
「へえ。麗奈……麗奈っていうんだ!」
「そう、麗奈」
「名前も可愛いんだなぁ……」
そう言うと、莉奈は微笑みを浮かべた。
「ちなみに、俺らと同い年だぞ。麗奈も17歳だ」
「え、え!? そうなの!?」
「おう……って、驚きすぎだろ」
「いや……その、可愛すぎて。同い年に見えないっていうか、カリスマに見えるっていうか……」
莉奈は褒めてくれているのだが、麗奈の感情は中々に複雑だ。
とはいえ、莉奈は悪い人では無いし、むしろ良い人である事は容易に伝わってくる。
すると、そんなことを考えている麗奈の元へ、莉奈がゆっくりと近付いた。
「麗奈ちゃん、だよね」
優しく微笑みを向けて、莉奈は麗奈へと言葉を向ける。
その、亜麻色の美少女は微笑みも本当に可愛くて、嫉妬よりも羨望が勝ちそうな程だった。
「うん?」
そんな複雑な気持ちを持ちながら、麗奈も返答する。
同い年と分かった今、無理に敬語を使う必要も無いだろう。
「その、良かったらさ。同い年だし、友達になりたいなって思って! 本当に、鬱陶しかったらごめんね」
莉奈はそう言うと、自分の右手を優しく麗奈へと向ける。握手を求める形だ。
それを見て、麗奈は即答した。
「――えへへ、私も友達になりたい。よろしくね、莉奈ちゃん」
「……可愛い、可愛いかわいいかわいい!!」
「……ってお!? ちょっと莉奈ちゃん!?」
麗奈が手を取った瞬間、莉奈は麗奈を抱き締める。
しかしそれに、何の不快感も生まれなかった。
そんな、銀髪美少女と亜麻髪美少女の尊すぎる戯れに、雄也の目は中々に刺激されている。
まあもちろん、メインは麗奈だが。というか、10割麗奈なのだが。
「いい匂いもするし、こんなに可愛い妹がいるなんて雄也は幸せだね。お家とかでもハグし放題じゃん!?」
「……」
「……」
莉奈の言葉に、雄也と麗奈はファミレスに来る前の出来事を思い出し、同時に頬が赤くなった。
「……って、あのな。兄妹は兄妹だけど、そんなスキンシッ……」
「そうだよ、莉奈ちゃん! 雄也くんってすごーく甘えん坊だから、すぐくっついてくるの!」
またしても雄也の言葉を、麗奈の喜色溢れる声色が遮った。
仕方ない。恋愛未経験なりの、抑えられない嫉妬の対処法だ。
とはいえ、雄也にとってはそんなことに気付く訳もないので、ただただ恥ずかしい暴露をされているだけになっているのだが。
まあ、事実なので黙り込むしか無かった。
「へえ〜。お兄ちゃんになった雄也ってそんな感じなんだ〜。でも確かに、昔は私にもいっぱい甘えてきたもんね〜!」
「それは莉奈だろ!? 俺からアクション起こしたことなんて無いし!」
「てへ」
すると、莉奈も莉奈で、対抗するようにそんなことを言った。
その言葉に、麗奈は再び嫉妬に襲われる。
「――。そうなんだね雄也くん! でも今は、雄也くんからばっかり求めてくるもんね?」
「麗奈まで!? 別にそんなことは……」
「ね?
「……はい」
半ば強引に言わせる麗奈だが、雄也も心当たりがあるので素直に認める。
すると、莉奈が再び雄也の方を向いて、
「――。本当に仲良しな兄妹なんだね! でもでも、雄也ったら私と話すだけでドキドキしてたんだよ? 手首とか触ったらちょー脈速かったし!」
「ちょっと……言うなって……」
「事実だもん、ね?」
「……はい」
そう言って、莉奈は確信の表情をしたように雄也へと視線を向けると、雄也は素直に頷く。
事実だから仕方ない。
「――。でも聞いて莉奈ちゃん。この前ね、私が『妹なんだからハグできるよね?』って言ってハグしたんだけど、その時もすごーくドキドキしてたよ? 『今までに無いくらいドキドキしてる』って言ってたし!」
「……いや待て。それは言ってな……」
「
「……はい」
もう、滅茶苦茶だ。
言ってないのに、雄也は思わず頷く。
そして何より、美少女同士がハグをしたまま、自分の恥ずかしい過去をバラしてくるのが、中々に刺激的だった。
ご褒美というか、お仕置というべきか。
いや、麗奈の暴露はご褒美だし、莉奈の暴露はお仕置だろう。
「……ほら、離れて。そろそろ帰るよ、麗奈」
顔を真っ赤にさせながら、雄也は二人に言葉を向ける。
すると、それを聞いた二人の美少女は「はーい!」と仲良く声を揃えて、密着していた体を離した。
「はあー。麗奈ちゃん本当に可愛い。癒しすぎるって」
「んもう、莉奈ちゃんもだよ? 私なんかより全然可愛いし! 亜麻色の髪の毛、すごーく似合ってるし!」
「んふふ、ありがとー。嬉しい嬉しい」
そう会話を交わす二人の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。
のだが、なぜだろうか。
不意に、雄也は二人の手を見てみると、あることに気が付いた。
「……なんでそんな、ガッチリ拳握ってるんだ?」
そう、何故か、二人は握り拳を作っている。
意味が分からなかった。
「……あ! いやいや、何でもないよ? 莉奈ちゃんが可愛くて、つい握っちゃった!」
「……そう、そういうこと! 私も麗奈ちゃんが可愛くて、ついつい握っちゃってた!」
「……はあ?」
支離滅裂な二人の主張に、雄也は困り顔。
とはいえ、そこまで深く踏み込む話題でも無いので、雄也は「ふぅ」と一息吐くと、
「じゃあ帰るか、麗奈。莉奈も」
「うん、そうしよ。私は雄也くんと同じ道だもんね」
「そりゃあな。同じ家に住んでるし」
「えへへ、やったー。はっぴー」
本気で幸せそうな声色で、麗奈は言った。
多分、莉奈と友達になれた事が余程嬉しかったのだろう。
と、雄也は考える。
「じゃあ、莉奈もまたね」
そうして、雄也と麗奈は、莉奈へと視線を送る。
「うん! 連絡するね。あ、折角だし写真撮ろ!」
すると、莉奈はそんな提案をしてきた。
特に断る理由も無いため、雄也は首を縦に振る。
麗奈も、何となく複雑になりながらも、雄也と写真を撮りたい気持ちが勝ったので首を縦に振った。
その二人の返答を受け、莉奈はおもむろにスマホを取り出しながら二人へ近付くと、すぐに雄也の隣へと付いた。
「……」
センターが雄也、その両隣に麗奈と莉奈が居る形だ。
両方から良い香りがしてくる。
というか、麗奈は同じ柔軟剤を使っているはずなのに、何故にここまで違うのだろう。
フェロモンというやつだろうか。
そんな非生産的なことを雄也は考えていると、
「――はい、チーズ!」
と、莉奈の陽気な声がかかった。
麗奈は可愛く片手ピースをして、莉奈もスマホを持っていない方の手でピースをする。
雄也も、咄嗟にポーズを取る――事は出来ず、というか、腕をあげられなかった。
そう。――両隣からの密着度が、同時に強くなったから。
「はい、ありがとね。じゃあ、雄也に送っとくね」
「……おう。分かった」
「じゃあ、またね! 雄也くんも麗奈ちゃんも!」
「うん! バイバイ莉奈ちゃん!」
写真を撮り終えると、そんな会話を挟みつつ、各々は帰路につく。
そして、お互いに背中を向け合い――少し離れた時だった。
「……あ、雄也!」
後ろから、再び莉奈の声がかかる。
そして二人は振り返ると、それを確認した莉奈が恥ずかしそうに頬を赤らめて、
「――彼女では、ないんだよね?」
と、雄也へと問う。
「何回聞くんだ! 妹だよ!」
その問いに、雄也は再び少しの抵抗感を感じながら事実を伝える。
そして、返答を聞いた莉奈は――
「――良かった」
と、聞こえないようにボソッと呟いた後、
「分かったー! じゃあね! 麗奈ちゃんもバイバイ!」
二人へと手を振って、亜麻色の髪を靡かせながら、自宅の方角へと歩いていった。
◇◇◇◇◇
それからの帰り道というもの、何故か麗奈の機嫌が少し悪い。
そんなことを雄也は思った。
「麗奈、あの、どうしたの?」
「……何でもない、ばか」
見た感じ、体調が悪いわけでも無さそうだ。
とはいえ、ならば何故にここまで冷たいのか。
雄也には分からない。
「……俺、なんかしちゃった? それともまだデザート食べたかったり……?」
「……違うもん。ばか、ばかばかばか!」
「ええ……」
全く心当たりが無いので、雄也は困惑する。
「……雄也くんのばーか、すごーくばか!」
「あの、ほんとになんかしたなら謝るよ」
「……してない、してないけどさ」
「してない……?」
「……雄也くんは何もしてないけど、ばか!」
ならば、何故なのか更に分からなくなる。
すると、麗奈はそう言った後、歩きながら雄也の方へと向く。
唐突にこちらへと向いた可愛い顔に雄也は驚きつつ、その瞳を見てみると、少しだけ潤んでいた。
そして――
「――」
麗奈は目を合わせたまま、そして歩いたまま、雄也の手を取り、絡めた。
そのまま――手を離すことなく、二人は自宅へと戻った。
ちなみに、麗奈に"不機嫌な理由"を何度聞いても、「すごーくばか!」の一点張りだった。
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最後までお読み頂き、本当にありがとうございます!
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さて、お伝えしたいことなのですが。
近況ノートを更新しましたので、そちらも一読してほしい!というお願いです。
是非、読んでくださいませ。
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